新装版 日本の黒い霧 (下) (文春文庫) (文春文庫 ま 1-98)
- 文藝春秋 (2004年12月7日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167106980
感想・レビュー・書評
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⭐︎4.8
終戦から、そんなに時間を置かずに書かれたこの作品は、なぜ、もっと早く手に取らなかったのかと、読み終わって過去の自分を叱りたい気分になった。
だが米国の狡猾さと、悪辣さをだいぶわかってきた今読んだというのが良かったのだと思うことにする。なにしろ、対外的にはリメンバーと嘯いている事象が本当は、ウェルカムだったことを知った時の憤りはなんというか、悲しいものがあった。我が国は英米にはめられて、あの戦争に走らされたのだ。
本編の後書きで、著者が云っている。
反米ありきで書かれたものではなく、集めた資料を並べると自ずと帰納する結果が得られた。
まさにそうなのだろうと思う。
日露戦争で、初めて白色人種を破った有色人種の我が国を徹底的に骨抜きにするための機関が占領軍だったのだ。
1日も早い新憲法の成立を望むと共に、自前の軍隊と、諜報機関の設立を熱くキボンヌ。
とても楽しませていただきました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
▼映画「ボーン・アイデンティティー」シリーズなども含めて、冷戦後のアメリカ映画は、仕方なく?自国の諜報機関が腐敗している設定にして、それを悪役として物語を作ることが多いですね。その方が、悪役としては強いですから。そういう描写のなかで、都合の悪い一般人を殺したり、拉致したりすることがありますが、そんなことが現実に、本当に、あるんだなあ、という。
▼「日本の黒い霧(下)」松本清張。1960年。文春文庫。2019年8月に読了。
もう60年前に書かれた松本清張の「戦後直後GHQ時代の、権力の介入疑惑事件についてのノンフィクション考察本」とでも言いましょうか。「証拠は無いけど疑惑だなあ」という事件について一章づつ書かれたものです。読み物としてまずオモシロイです。
▼もう何十年も前に「上」は読んでいて、更に最近再読までしていたのですが、恐らく下は始めて読んだのではと思います。別段続き物ぢゃないので、ついつい読み逃していました。
▼下巻はGHQがドサクサにダイヤモンドを着服?したのでは、という「征服者とダイヤモンド」。ほか、「帝銀事件の謎」「鹿地亘事件」「推理・松川事件」「追放とレッドパージ」「謀略朝鮮戦争」。特に印象に残ったのは「鹿地亘事件」。
▼中国共産党などへのシンパだった小説家の男性が、アメリカ諜報機関に拉致監禁された事件。1951年から翌年末にかけて、なんと1年以上。自殺未遂2回。それが結局、「こりゃあんまりだ」と感じたのか、諜報機関にいた日本人協力者が、家族などにリークしたことから公然たる騒ぎになり、結果、解放された。
▼それが、長くに渡って監禁された場所のひとつが、東京湯島の旧岩崎邸。明治の立派な洋館で、今では一般公開もしています。結構好きで何度か訪れているんですが、色んな近現代史の舞台になっているんだなあ・・・。 -
松本清張 「日本の黒い霧」 戦後占領下の日本で起きた数々の怪事件の謎を追った本。
実際起きた怪事件の推理といい、それぞれの事件に隠された共通の謀略を突き止める構想力といい、タイトルの妙といい、結文の締め方といい〜傑作だと思う。
最終章「謀略朝鮮戦争」で それまでの怪事件がつながっていき、占領下の日本がタイトル通り「日本の黒い霧」の状況であることに恐怖を感じる
著者が危惧した「日本の黒い霧」の状況は今も変わらず、日本は アメリカの同化戦略に乗っかって、反共産主義化し、アメリカ依存を強めているのかもしれない。アメリカが主導する反共的な国際社会以外の選択肢がないのだろうかと思う
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上巻よりも読みやすく、面白い。こういった陰謀論に接すると、いつも、真実って何なんだろう?と思う。「実際はどうだった」という意味ではなくて、「『真実』というものは何なんだろう?」という意味で。
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終戦直後の日本で社会主義、共産主義が進歩的だと考えられ、一旦は思想信条の自由から労働組合や教員などに受け入れられた。しかし、東西冷戦が顕在化するに及びGHQはレッドパージへと日本人の思想を操作し、それに関係する未解決事件の真相が「黒い霧」の奥にあるのだと思った。共産主義国という地球規模の実験結果は成功とは言えない。しかし、だからと言って資本主義が成功したとも思えない。私達は理想の国家に生きることができるのだろうか……という不安も感じる読書だった。
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下巻ではやはり帝銀事件が興味深い。
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これはすごい、すこぶるつきに面白し。著者は、ジェイムズ・エルロイにずっと先行していたのだ。
戦後、世情を騒がせた怪事件の数々、その主催者、背後で蠢く勢力は?
占領軍が目指す地平は明確。そこに到達するまでの過程において、GHQなる当初の一枚岩の組織は次第に瓦解し、内部分裂、反目を繰り返し、互いに勢力を競いながら血みどろの争いに耽る。状況は、この国の民を反共の最前線に駆り立てつつ、必然的な帰結として、朝鮮戦争という一代イベントに収斂されることとなる。付合わされた日本人はたまったもんじゃなかったろう。そんなことどもが、著者独自の視点から、ノンフィクションの形式をもって綴られてるわけだ。
想像力を巡らせれば、冷戦を終えて久しい今日、先のJR西日本の惨事を将来する禍根も、この時期より培われた悪意に起因するのだと容易に確信できる。恐ろしくもタイムリーな一冊であった。
(2005年5月記) -
上巻の勢いが若干落ちたような気がする点がもったいない。それは、戦後史における転換点に段々迫ってくるにつれ、歴史叙述に近づいているからかもしれない。しかし、ノンフィクションとしては第一級品であるという評価は、変わらず。
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半藤一利解説にもあるように「あまりにも意図的である」「反米的でありすぎる」との
この作品に対する批判は確かに分からないでもないが、これも解説で言うように
当時これだけのものを書いた作者はさすがとも思う。
陰謀史観は好きではないが当時の?「アメリカならこれくらいは平気でやったろう」
と言う感じはするし(笑)
戦中~GHQ占領期は良くも悪くも現在の体制の基礎になっているのかなあ?
司馬さんが旧陸軍に恨みがあるように(笑)清張さんも旧軍やアメリカに対する恨みがこういう作品を書かせたのではないかと・・・。
適当な考えですが(^^ゞ