ボローニャ紀行 (文春文庫 い 3-29)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167111281

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  • アペニン山脈とポー川に挟まれたイタリアの街。世界最古の大学を
    擁し、第二次世界大戦時にはヒトラーのナチス・ドイツとムッソリーニ
    のファシスト党にレジスタンス運動を繰り広げた赤レンガの美しい街。

    作家・井上ひさしが30年間の憧憬を抱いて訪れた街の在り様を綴った
    エッセイである。

    都市再生のモデルとして「ボローニャ方式」という言葉がある。その実態
    が作家の目を通して分かり易く語られている。

    イタリアが統一国家となるまで多くの小国であった名残でもあるのだろう。
    街の在り様は日本のような画一的な都市計画ではなく、古いものを現代
    に活かす工夫が随所に施されている。

    日本であれば歴史ある建築物は修復を施され観光資源にされるか、
    取り壊して復元されるかするだろう。しかし、ボローニャでは外観は
    そのままに内装を変え、人が住い、学び、集う場所に変えられる。

    一時、日本でも道州制が話題になったがボローニャこそ地方自治の
    格好のモデルなのだろう。ただ、日本で同じことをやって成功するかは
    果てしなく疑問だが。

    そこに住み、愛する場所だからこそ済みやすくしたい。だから、後継者が
    なく引退したひとたちが工場や農園を街に寄付し、それを街が必要と
    する人に貸与して新たな何かが始まる。

    そうやって、過去が現在に繋がって行くのだね。

  • 今読んでよかった。
    ページの角をいくつも折り曲げた。

  • 井上ひさしさんが亡くなったときいて、
    思わず書店で文庫を手にとりました。

    井上さんの舞台、すごくすきでした。
    大事に大事に言葉が置かれていて。


    とても素直な紀行です。
    イタリア行きたいイタリア。

  • (欲しい!)/文庫

  • 2011年5月10日購入。
    2011年6月2日読了。

  • ボローニャ訪問のために読んだ。ボローニャについてというより、人間の生き方論、寄り道満載の井上ひさしらしい(と言っても私は語れるほど知らないが)エッセー集だった。

  • イタリアといえば思い浮かべる都市は?
    ローマ、ミラノ、フィレンツェ、ヴェネチアがまず挙がるだろう。私の場合その後に続くのは、ナポリ、トリノ・・・。

    ボローニャ。聞けば「あぁ」となるが、なかなかこの都市の名は出て来ない。ボローニャと聞いて思い浮かぶのはミートソースのスパゲッティで、これはボローニャで誕生したので正しくはボロネーゼ(つまりボロニャー風)という。あとはイタリアには大抵どこの都市にもサッカーチームがあるのは知っているけれど、本文に中田英寿選手が在籍した話が出てきても、ボローニャというチームのことはちっとも記憶になかった(私の記憶はパルマ止まり)。

    本書は、そんな日本人には知名度がイマイチな気もするボローニャに永らく恋をして、ついにそこを訪れた井上ひさしさんの紀行文。

    ボローニャといえば、映画のフィルムの保存、修復などを手がける「ネチテカ」という組合会社が良く知られているそうだ(ちなみに私は知らなかった。いくら古い映画はあまり観ないからといって、これでは映画好きを自認するには恥ずかしいと痛感)。この「ネチテカ」ももちろん、ボローニャには「ボローニャ式」という、ボローニャ独特の文化、スポーツなどに対する支援体制が存在する。

    市民が何か新しいことを始めようとする。彼らは組合会社を作り、そうすることで軌道に乗るまで税金は払わなくていいし、市や県、そして企業はこういう団体に惜しげもなく資金援助を行なう。場所だって、市は使わなくなった古い建物などをただ同然で貸し出してくれる。「ネチテカ」もそうやって援助を受けて最初は小規模にフィルムの修復などを始めたが、やがて世界中の映画配給会社からフィルムが持ち込まれるようになり、今やその分野を一手に引き受け、ボローニャの町にも多額の利益をもたらしている。

    こうした背景には日本とは異なるイタリアのメセナ(文化の保護、支援活動)意識があり、小規模な企業であっても積極的にこうした活動に資金を提供している。特に最大のスポンサーとなっているのが金融機関で、利益の50パーセントはその地域の文化活動などに使い、利益を利用者である人々に還元するよう法律で定められている。

    これだと例えどんなに金融機関がもうけても、半分は私たちにもプラスになる活動に使われるし、ちょっとうがった見方をすれば、私たちのお金を右から左に動かすだけで、何も生み出すことなく利益を得ている金融機関に少しは親近感もわこうというものです。世界中の金融機関がこのような利益を人々に還元するという感覚を持っていたのなら、一部の役員の法外な報酬や、リーマンショックは起きなかったかもしれません。

    ボローニャ式として、この本では知的障害のある子供たちの働く農園、そしてレストランも紹介されていますが、社会的弱者も含めて、みんなが働けて、安心して暮らせる街。古きを維持しながら、積極的に新しいものに挑戦する街。どこに行かなくても街で、家族や友達とおしゃべりをし、街で手に入る食材で美味しい食べ物に舌鼓を打ち、映画を観て、街のスポーツチームを応援し、街の劇場でお芝居を見る。そんな街に住んでいることを想像しただけで、ワクワクするのは私だけだろうか?

    本書の中で井上さんは、「日常の中に楽しみを、そして人生の目的を見つけること。」と書いている。非日常の方法でしか楽しめないのは少しおかしいのではないかと。とすると、日本人のように楽しむ為にわざわざ何処かへ行くなんて事をやっているということは、それだけ日常が楽しくなくて、楽しみをもたらしてくれるような素敵な街に住んではいないということなのかもしれない。


    紀行文というのはこれまで読んだことがありませんでしたが、何処かへ旅するとき、ただそこの有名な観光地を巡っただけで、その町を知った気になるのは間違っているように感じていました。今回初めて紀行文というものに触れてみて、やはりその町の歴史や今やいろんなことを知った上でその街を訪れ、観光スポットにとどまらずにその街に触れてみてこそ本当の「旅」であるように思います。

    今年この本の作者で、作家、劇作家、作詞家など多方面で活躍されていた井上ひさしさんがお亡くなりになりました。私はこれまでお名前以上のことはほとんど存じ上げていませんでした。この本からは井上さんのボローニャへの深い愛と共に、市井の人々とこの社会への暖かな眼差しが感じられます。それは戦中、戦後を生きてきた井上さんの実体験に大いによるところなのかもしれません。さらにこの本からは勉強熱心で博識でいらっしゃったことも伺え、また一人知識人と呼ぶにふさわしい方が亡くなられたように感じます。心からご冥福をお祈りいたします。

  • 旅行書というより都市のあり方、のような内容。でも面白かった。

  • 旅ルポエッセイみたいな内容。
    井上ひさしが何故コミューンフェチか、ボローニャはどんな街か、そのボローニャの視点からイタリアを見た時どうなのか、という事が書いてある。
    イタリアの歴史や日本の未来に対する意見もあり、なるほどなるほどと唸りつつ自らも行ってみたくなる。

  • 須賀敦子のみたイタリア、塩野七生のみたイタリア、で、井上ひさしのみたイタリア(ほかにもいろんなひとがみたイタリア)。うーん、イタリアって、おもしろそうな国だなー、と考える。が、そういう自分が住んでる国も、じゅうぶんおもしろいと思いますがねー、と、その御三方に言われる気がする。そうなんだよね、じっさい。

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著者プロフィール

(いのうえ・ひさし)
一九三四年山形県東置賜郡小松町(現・川西町)に生まれる。一九六四年、NHKの連続人形劇『ひょっこりひょうたん島』の台本を執筆(共作)。六九年、劇団テアトル・エコーに書き下ろした『日本人のへそ』で演劇界デビュー。翌七〇年、長編書き下ろし『ブンとフン』で小説家デビュー。以後、芝居と小説の両輪で数々の傑作を生み出した。小説に『手鎖心中』、『吉里吉里人』、主な戯曲に『藪原検校』、『化粧』、『頭痛肩こり樋口一葉』、『父と暮せば』、『ムサシ』、〈東京裁判三部作〉(『夢の裂け目』、『夢の泪』、『夢の痴』)など。二〇一〇年四月九日、七五歳で死去。

「2023年 『芝居の面白さ、教えます 日本編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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