新装版 隣りの女 (文春文庫) (文春文庫 む 1-22)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167277222

作品紹介・あらすじ

「一生に一度でいい、恋っての、してみたかったの」-平凡な主婦が飛び込んだNYへの恋の道行を描いた表題作、嫁き遅れた女の心の揺れを浮かび上がらせた「幸福」「胡桃の部屋」、異母兄弟の交流を綴った「下駄」、絶筆となった「春が来た」の五篇を収録。温かい眼差しで人間の哀歓を紡いだ短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • *隣りの女
    *幸福
    *胡桃の部屋
    *下駄
    *春が来た

    5編の短編集
    昭和感が溢れる。
    しかしどの作品にも時代をこえて存在する男女、夫婦、家族の日常に潜んでいる危うさの様な心模様が描かれている。
    それにしても総じて男性陣の柔なこと、反し女性陣は案外柔軟で力強いのかも。

  • 最後の短編「春が来た」はテレビドラマで観たのを覚えてました。
    桃井かおりさんがヒロインで、最初の喫茶店でコーヒーに砂糖を入れたあと、そのスプーンを舐める仕草がなんだか話してる内容と合わないぞと思ってたら、それがミエであったわけで……なるほど、そのためのスプーン舐めなのか?とすごく納得したのでおよそ40年以上も前のドラマを今でも覚えてました。あとのディテールはすっかり忘れてて、とっても良き確認となりました。
    それにしても「父の詫び状」とはテイストの違う内容に驚きつつも、何を書いても上手な方だなぁと感心しきりでした。

  • 文章はとても読みやすかったです。ただ、内容がちょっと苦しくて……おすすめできるかというと、微妙かなぁと思ってしまいました。
    エッセイを買ってみたので、そちらに期待しています。

    20代後半〜30代前半の主人公たち。このあたりの年齢に、作者さんは何か思い入れがあるのかなぁ……と思いました。
    ただ、時代が違うので、結婚してそこそこ経っている方もいました。いずれにせよ、人生にちょっと疲れてしまっている方が多かったです。

    どの物語も苦しかったり切なかったりして、悲しくなりました。

    「世間的には、そばにいると苦しくなる男性から離れたほうがしあわせかもしれないけれど、その苦しさが生きていることだと思う」……みたいな主張をしている主人公のひとりに、心がぐさぐさ刺されました。それでも、わたしは、「苦しくない人がこの世には存在するんだよ」と伝えたくなります。
    本人が良いのなら良いのですけれど……見ていて、とても、つらいです。


    (以下、読みながら書いた感想)


    2023/09/19 p.8-170

    p.12
    “三十前に第一子を、と実家の両親にも言われ、”
    二十代後半でしょうか。27とか?
    引用してみて気づいたのですけれど、“にも”ということは、別の方からも同じことを言われたのですね。パートナーさんか、義両親か、ご友人か……。そのプレッシャーは現代よりもつらいでしょうね……。

    p.12
    “化粧をしないせいか二十八にしては正気がない”
    お。年齢の予想はおおよそ当たっていました。

    p.17
    “「負け」という字が、チラついた。”
    人生に勝ち負けはないです。意識し始めたらあるのでしょうけれど、そんな勝負に乗らなければ、自分の人生は何であれ自分に価値あるものとなります。

    p.58
    “「のぼるより、もどるほうが勇気がいると言われたよ」”
    (中略)
    “「そのはなしは、七十か八十になったらしようじゃないか」”
    戻ってくれたのは、あちらだったのかなぁ……と過去を思い出しました。
    人間関係は1人で成り立つものではないので、どちらか一方が完全な悪になることはないのでしょう。お互いに、良いところも悪いところもあります。

    ところでこの方、一生そばにいると考えているのですね。それはすてきだなぁと思いました。

    p.62
    “二十七の年までまじめに洋裁店のお針子をして来た。”
    (中略)
    p.63
    “鏡には、年よりも老けた暗い顔が映っていた。”
    先程の物語の主人公は28歳。27、28あたりの疲れてしまっている女性をえがくのが好きなのでしょうか?

    p.97

    「そういうことあるな。でもね」
     立ち止まって、
    「それじゃ、幸福は掴めないよ」

    これを、友人に言えたら、どんなにいいでしょう。

    p.99

    「気持ってやつは見えないから」
    「見えなきゃ判んないか」

    わからないなら、きちんと向き合って話し合ってください。逃げないでください。

    p.100

     それから、叩きつけるように叫んだ。
    「あんたは男のクズ!」
     もっと大きな声で、もう一回どなった。
    「オレも男のカス!」

    なんだかテンポが良くて、笑っちゃいます。笑ってはいけないのでしょうけれど。

    p.102

     姉の心とからだがまだ澄んでいる男のそばで苦しみ澱(よど)むより、川の流れではないが、海へ出て、別な世界で生きるほうが、世間で言うしあわせかも知れない。
     しかし、握り返してくる数夫の指の力を信じて、もうすこし、ここに居たいと素子は思った。苦しい毎日だったが、苦しいときのほうが、泣いたり恨んだりした日のほうが、生きている実感があった。
     これも幸福ではないのか。

    友人の声で再生されました……。

    あなたが良いのなら、良いのですけれど……。
    どんな状況でも、本人が「しあわせ」と思うなら「しあわせ」です。第三者があれこれ言う権利はありません。わかっています。わかっていますけれど……。
    見ていて、とても、つらいです。

    p.104
    “桃子のひとつ下だから二十九歳の花嫁だった。”
    今度は三十歳の方が主人公なのですね。二十代後半〜三十代をえがくのが得意な方?

    p.156
    “口やかましいが、女の苦労だけはかけたことのない人だった。女としてあたしほど幸せ者はいない。”
    浮気の心配がない人ほど、信頼できる人はいないです。個人的な考えですけれど。
    ……一方で、世の中には知らないほうが良いこともありますよね。


    2023/09/20 p.170-222

    p.178
    “片思いが二つ三つあっただけで二十七になってしまった。”
    また、このあたりの年齢の女性が主人公なのですね。強い思い入れがあるのでしょうか。

  • 女と男は性別ではない
    女という生物がいた

    現実的な表層の裏にある醜さ
    論理的に、倫理的に、常識では理解できない行動

    恋に、愛に、家族に、見栄に、
    ふりまわさる哀れな女ではなかった

    どこか自分から望んで落ちていくような

    作者が捉える女性を創作として再構築し、現実の女をありのまま表していた

  • ハッピーエンドかと思ったらどん底に落とされるとか、もやもやした終わりが多くて、本の話は本の中で完結させたいわたしには合わなかった。
    でも情景描写は分かりやすく、鮮明に想像することができた。どんどん読み進められる。
    恋愛って難しい…。

  • 「昭和」の夫婦、恋愛、家族が描かれた五つの短編。独特の湿り気を感じるんだけど、じっとりしすぎず、怖いもの読みたさでページを繰る手が止められなかった。何だか、哀しさと可笑しさが混ざり合って、泣きながら笑うような…一筋縄では行かない感情が捻れて捩れて、思いがけないところに着地する。皆、それぞれに器がちっちゃいんだけど、その小ささ加減が絶妙なんだよなぁ。どこか欠けているからこそ、そういう完璧じゃないところに共感する。
    実はいまだに向田邦子ドラマをちゃんと観たことがないのだが、本作を読んで、さすが脚本を書く人の言葉のチョイスだなとつくづく思った。こんな場面でこんなセリフ…ぞくぞくするわ!!「隣りの女」で、壁の向こうから聞こえてくるあるセリフ。こちらも盗み聞きしてる気分になり、たまらない場面だ。向田邦子ワールド,クセになりますな。

  • 何かに秀でているわけでも特別に感受性が豊かなわけでもない普通の人たちの日常を書いてるんだけど、続きが気になって全部飽きずに読めた。『胡桃の部屋』の自分が頑張らなければいけないここ一番のとき、繊細でメランコリーな曲では頑張れない、これまで興味のなかった元気な曲(水前寺清子)を聴くようになった、みたいなのはなんかわかる。

  • 情け無い男ばかり出てくるけど、
    その無神経さはむしろ羨ましいと感じた
    私もいつかは?なんて笑

  • 色々な生活。

    隣りの女性を訪ねてくる男性は二人になった、な1話。
    腋から何故ここに? な着地の2話。
    行方をくらました父は、案外近くな3話。
    弟がいる事実を知った、唯一の男性主人公の4話。
    よくある見栄張りな女性がばれた時、の5話。

    どれも日常のようなそうでないような。
    5話の最後に、じゃぁなぜここまでしたのか、と
    確かに聞きたいものがありました。
    甘え方を間違ってないか、と突っ込みたい4話の弟。
    気になるのは、その2話だけ、でしょうか。

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

向田邦子の作品

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