怪しい来客簿 (文春文庫 い 9-4)

著者 :
  • 文藝春秋
3.79
  • (49)
  • (41)
  • (72)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 592
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167296049

作品紹介・あらすじ

私が関東平野で生まれ育ったせいであろうか、地面というものは平らなものだと思ってしまっているようなところがある-「門の前の青春」。亡くなった叔父が、頻々と私のところを訊ねてくるようになった-「墓」。独自の性癖と感性、幻想が醸す妖しの世界を清冽に描き泉鏡花賞を受賞した、世評高い連作短篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  
    ── 色川 武大《怪しい来客簿 1977 19891007 文春文庫》第5回泉鏡花文学賞
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4167296047
     
    (20231201)

  • 色川武大の視線は優しさにあふれている。
    本人の写真からもそれが滲んでいる。

    生きにくさを感じている人は一読すると価値観が変わるかもしれない。

    「怪しい来客簿」の時代は戦後の混乱期或いはその名残の時代のもので、生きていくのに各人の「地」がより試された頃。色川武大はそこで日々を必死に生きる人々を深い洞察力と暖かい目で見事に描いている。

    どうにもうまくいかない、器用に生きれない自分と重ね合わせながら読める。

    引き込まれるエピソードや個性的な人間模様、色川武大の社会に対する視線に触れたりする中で、どこかいまの自分もそれでいいのかもしれないと、そんな感じに自分の背中をおしてくれるような気持ちになった。
    また戦前の空気感とともに、戦後間もない頃の混沌としたなかで新たな社会がつくられていく日本の当時の様相に、どこか不思議な羨ましさを覚えた自分がいた。同時に死がいまよりもずっと身近であったことも感じた。
    中でも印象的だったのが、『右向け右』等のほか、『サバ折り文ちゃん』のエピソードだった。

    一見順調に見える人も含め、皆どこかで折合いをつけて日々を凌いでいる、とこの本を紹介してくれた方は話していた。

  • 戦前から戦後付近の時代の仄暗い、そして猥雑な感じが目の奥に見えるような本だった。
    その時代に実際にいた人、有名だった人などを筆者の独特な目線にてその数奇な運命や生き様を静かに物語っていて、心がざわつきながら時にゾクっとしたりして惹かれる内容だった。
    わたしは昭和のまぁ、終わりの方の生まれだが、子供の頃にはまだそういう昔の時代の仄暗さや猥雑さの残り香みたいなものが残っていて、「あぁ、こういう人、時々いたよな…」と妙な懐かしさも覚えてしまった。

  •  戦中から活躍し戦後に没落した知人、芸人、スポーツ選手などを描いている。
     相撲力士の出羽ヶ嶽文治郎、プロ野球の木暮外野手など、幸せと言える晩年を送った人物に救われる。
     多く没落して亡くなり、知人など、亡霊として現れたりする。
     仕舞いの「たすけておくれ」では、自身の胆石手術(こじれて危篤に陥った)をも、戯画化してユーモラスに描く。まるで亡くなった人たちの、仲間のように。

  • 戦中戦後の不気味な感じが伝わる。その時代に生きた人の感じた空気なのか色川さんの感じ方なのか分からないけど。色川さんの個人的なことが書かれてて、こういう生き方もあるのだなと肩の力が抜けた。文章がスルスル流れるようです。

  • 語り手も語り手以外の人物たちも、世界にうまくはまり込めない人たち。疲れ切って学校をずる休みしていたときの感情が甦ってしまい、読むのが苦しかった。高校を卒業して何十年もたっているのに、忘れられないものだ。

    描写にどん底暮らしを経験した者ならではの非情さがあり、一文一文句点にたどり着くまで気が抜けない。読む体力があるうちに読むべき本。

  • 文学

  • 泉鏡花賞受賞作。「空襲のあと」 8回も9回も空襲で焼け出された婆さん。「墓」 亡くなった叔父が頻々と私のところを訪ねてくるようになった。等が良かった。川上弘美の『<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4122041058\" target=\"_blank\">あるようなないような</a>』で知って、興味を持ったので購入。次は<a href=\"http://mediamarker.net/u/nonbe/?asin=4061960830\" target=\"_blank\">田紳有楽;空気頭</a>を買ってみよう。色川さんので「狂人日記」も読みたいのだが、amazonにない。残念。[private]諫早に持ち帰る2007/1/1[/private]

  • 別名で書いた麻雀放浪記は読んでいたが、本作は町田康の書評で興味を持った。短編集であるが、小説と言うべきか、実際の自分の身辺の経験に基づいているように見える。町田康も評するように、著者の冷徹で率直な視線がただものならぬ感じであり、ただのエッセーという気がしない。自分の周辺の「怪しい来客」を描きながら、彼らを見つめる視線が逆に著者本人の輪郭を描き出していくさまは、最近読んだ須賀敦子のエッセーに近いと思ってしまった。

    力士や教師をシビアに見つめた「サバ折り文ちゃん」、「右むけ右」。タイトルの一言に友人の人生を集約していて思わず吹いてしまった「したいことはできなくて」。ドサ健を思わせる登場人物の「タップダンス」。年を食った著者の現況にて締める「たすけておくれ」などなど傑作多数。

  •  ここに登場するのは、少し変わった(いやいや、かなり変わった)人々であり、人生の落伍者であり、異常を来たした人々である。
     生きるのが下手な人々、どうやって生きていけばいいのかわからない人々、と言い換えてもいいかもしれない。
     そんな人間に向けられる著者の視線のなんと暖かいことか。
     人とどうやって関わり、人の中でどうやって生きていくか。
     著者なりの視線でとらえた、僕の心に残った一節がこれ。
    『私たちはお互いに、助け合うことはできない。許しあうことができるだけだ。そこで生きている以上、お互いにどれほど寛大になってもなりすぎることはないのである』
     そうなのかも知れない。

全43件中 1 - 10件を表示

色川武大の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
三島由紀夫
ウィリアム・ゴー...
フランツ・カフカ
吾妻 ひでお
色川武大
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×