龍秘御天歌 (文春文庫 む 6-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167318536

感想・レビュー・書評

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  • 慶長の役で日本に連れて来られた朝鮮人陶工の親方が亡くなった。辛島十兵衛、こと張成徹(장성철)である。夫の魂を朝鮮式の葬式で送ってあげたいと亡妻の百婆、こと朴貞玉(박정옥)が言い出したことで、役人の顔色を気にする息子たちと朝鮮式の葬式を出してやりたいと願う老人たちの騒動を描いて、無理やりに日本に連れて来られ、段々と日本式の生活に染まざるを得なかった彼らの無念が心にしみる。司馬遼太郎の「故郷忘れじがたく候」という朝鮮陶工の子孫である沈寿官を描いた本があるが、この龍秘御天歌はフィクションではあるが、このような人々が沢山いたのだろうと思う。この本の題は、李朝創立の時代を歌った、漢文とハングルで書かれた「龍飛御天歌」を元にして付けられている。

  • お葬式というのは、伊丹さんの映画を挙げるまでもなく、最高の喜劇なのだろう。

    大切な人との別離の場であるけど、残されたものの社会での足場でもある。
    コミュニティの一員だから、手順やしきたりが厳密に定められているのだろう。
    現代でも、そういう場での意見の違いや摩擦は起こりがちだけど、江戸時代に渡来人としてこの国に基盤を築いた人たちとその次の世代となると、スケールが違いすぎる。

    それでも、やっぱり、喜劇かな。

  • 江戸時代の九州、陶磁器の窯元の頭領の死に際し、故国・朝鮮の流儀で葬儀を強行しようとする老妻と、仏式の葬儀を執り行おうとする後継ぎの長男。物語の中では、朝鮮出身の者には日本の葬式は死者を悼む情の薄いものと感じられ、日本の者には朝鮮のやり方はひどく異質なものに映る。火葬と土葬についても真っ向から意見が食い違う。「葬式は譲ることのできない民族の死生観が形を成したものだ」と著者は後書きに記している。文化、民族の違い、そう考えても容易に考えがまとまる筈もなく、漠としたまま頭の中で宙吊りになってしまう。

    村田さんの作品に登場する老女はいつも実に個性的なのだが、本作の百婆は老獪にして豪胆、彼女が見せる気迫に大の男達が軒並み怖じ気づき、腰が引けてしまう。まさにグレートマザー。

  • 秀吉の朝鮮戦役により連行され、筑紫で生き延びた渡来人陶工達の物語。帯刀を許される身分を得た一家の棟梁を、死に際してはクニの流儀で葬るべく、和風葬儀の裏で隠密裏に進行される朝鮮式葬儀。その顛末が滑稽かつ哀切に語られる。
    作中折に触れて挿入される朝鮮様式の挽歌が、エモーショナルな高まりを呼びおこす。知られざる逸品小説。

  • 〜百婆の足はとても小さいのだった。足の小さい女は剛胆だと母親が言ったのを思い出す。〜


    剛胆…肝が太く、ものに動じない・こと(さま)。(エキサイト辞書より)
    そうかあ…。

  • 4月14日読了。江戸の陶工の頭領のお葬式の話。百婆とその仲間がクニ(朝鮮)の葬式を強行しようと繰り広げる大騒動。

  •   朝鮮との関わりについて小説という切り口から入れたのが良かった。

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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