「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 夢を食った男たち (文春文庫 あ 8-5)
- 文藝春秋 (2007年12月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167321055
作品紹介・あらすじ
70年代は歌謡曲の黄金時代だった。テレビ番組「スター誕生」は、百恵、淳子、昌子の「花の中三トリオ」をはじめ、数々のスターを産み出し、一大ムーブメントを巻き起こした。60年代後半からGSブームやピンク・レディー、小泉今日子らアイドル全盛時代を作り上げた阿久悠による同時代ドキュメント。
感想・レビュー・書評
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「スタ誕」誕生のいきさつからスタートしてそれぞれの歌手にまつわる思い出話を展開していく。
10年間審査員として素人からアイドルになるその瞬間を見届けてきた内部中の内部の人なので、エピソード自体はどれも面白い上に、さらにそれを阿久悠の感性と言葉選びで綴られているのでいちいちビンタされたように痺れる。
「百恵はそれと悟られぬように変装し、ピンクレディーは変装を宣言して変装した。」(百恵には一曲も提供してないけどね。三人娘の初恋時代だけ。)
「(ピンクレディーのデビューを)手を振る人のない八月の船出。」
「リンダ、フィンガーに次ぐ第三の絵空事路線」
「全く産んだ覚えのない子が里帰りしてくる」
別の本を読んでいて阿久悠の「故郷」へのこだわりが希薄なこと、仕事仲間への敬意はあっても馴れ合いや思い込みがないこと、自身の願望である強い女性と女性の地位向上を徹底して書き出していること、冷静な目で書く歌詞に人は酔うのだなと思ってたけどここでも振付師土井氏との交流を「通勤電車ではそうはならないけど長距離なら。番組が長く続いたから。」とあっさりと書いてる。運命の仕事仲間、ではなく、たまたま長く乗り合わせた乗客になぞらえるドライさが彼が書く歌詞の輪郭のクリアさの秘訣なのかなとか思ったり。
都倉俊一、小林亜星とのエピソードもイキイキしててイイ。現体制をパロってたら桑田にやられて自分が現体制だと気付かされたってのもイイ。
スタ誕の話がひと段落して、ビートルズについて語る章は彼らがたった5日の滞在で日本の音楽の、文化の、何をどう壊して去っていったを分かりやすく書いてくれている。「新しくはあるが奇異ではなく美しかった」「若者を昂らせ大人を落ち着かせる」なるほど。
それにしても。黒木真由美と清水由紀子がプロ達垂涎の有望株だったと聞いたことはあったけどそれ程とは。(札が沢山上がったけどでも。。ってのは渋谷哲平とかもそうでしたよね)実力があっても売れない世界なのか、それともプロの審美眼打率はそれほど高くないのか、本人の魅力の波が活動時期とズレたのか、単に時代が変わったのか。
彼が書くようにただ時期の問題なのか。
理由なんて後から他人がいくらでもつけてくれるものですね。何事も。
最後に。
変わり者ばかりの芸能界。昭和の時代に平安貴族のような「方違え」を実行する中村泰二がキモくていい。(明菜ちゃんに99点くれたから許す)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ノスタルジーを持って見ていたスター誕生の人たち。出演者も制作者も、何かしらの野望を持って番組に臨んでいたんだと分かった。彼らが共闘することでスター誕生は成功した。
当然成功する人もいれば、しない人もいる。そんな当然のことが分かった。
ただ、中森明菜とか小泉今日子とかの時代になると、自分の力で芸能界を生き抜けるだけの力があったんだとか。 -
副題のわりには、話が60年代のGSにまで及んでいるので、全体がややぼやけてしまっているかもしれません。しかし初出が新聞連載であった点を考えると、それは仕方のない事でしょう。当時を知る人は在りし日を懐かしみ、知らない世代は今も昔も、そんなに変わっていない(ただし、決定的な違いがあるのですが)と知る事ができると思います。また、ドキュメントとしてだけではなく、様々なスターを売り出すくだりは、その気になれば、ビジネス書として読めるかもしれません。著者の仕事に対する姿勢は、クリエイター志望の方は参考にできるかと。
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先日読んだ新書「松田聖子と中森明菜」が傍観者からの視点であったのに対してこちらはその中心にいた人物の本。当事者ならではの裏話も多くあり、面白く読めたが、当事者だから語れないこともあるような気もする。
もちろん、私が好きだった曲の多くに彼の名前を見ることができるってのは本当に凄い人だったことは確かだ。合掌。 -
作者の残された深みのある歌詞には、常に「昭和」と自分の「青い頃」の思い出が重なる。口ざわり、耳ざわりの良い言葉だけの羅列ではなく、歌詞のどこかに本音や情念を感じる。そんな歌の作詞活動を通しての歌手達との関りや「スター誕生」という番組に纏わるエピソードが綴られている。特に、「山口百恵」との関りの章には知られざる場面もあり興味深かった。昨年逝去された、この方の書を読み終えた後、つくづくと「昭和の終焉」を感じた。