胸の香り (文春文庫 み 3-14)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167348144

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  • 不貞、殺人、アルコール依存の母親、機能不全家族、親の失業、貧困、在日問題等々のてんこ盛り。
    宮本輝さんが心血を注いでそぎ落とした先の短編7作。

    陰鬱なのに乾いている。やるせないのに後を引く。
    何度も読み返し、余韻を味わう。

    書いてあることと、光を当てずに敢えて描かない事柄の巧みな調合。

    登場人物たちの視点に近づき過ぎず、離れすぎずに絶妙な距離を取ることにより、価値判断を挟みいれない勇気。

    愛しているからこそ憎い。
    好きの反対は、嫌いではなく、「憎い」。

    恋慕、執着、裏切り、背徳、未練、疎外、孤独、後悔、怒り等々が入り組み、他人から見れば、或いは本人ですら自分の心と行動の乖離に気づかずに、月日を重ねる。

    頑張れば報われるとか、努力は必ず叶うとか、そういうお題目的なものの対極にある作品ばかり。

    生身の人間の生臭さでもあり、香しさでもあり、愛おしさでもあるものが、心の機微を丁寧に描くことで醸し出される。

    作者の視点や価値観、善悪や倫理観を排除し、それを押し付けるために説得しようとするあざとさは微塵も感じない。

    表題作『胸の香り』は圧巻。

    共感を文芸に過剰に求める風潮があるが、そんなものとも無縁。
    『流転シリーズ』に繋がる家族的な作品もあり、もう一度大作である『流転シリーズ』を読みたくなって頁を閉じた。

  • 久しぶりの宮本輝。やっぱりとても巧い上手い大人の7話短編集。

    あとがきに「30枚でちゃんとした短編が書けない作家は2流と言われたことが、犯しがたい約束事と残った」を見事に実現されてる。
    1話30ページに満たない作中に、人物の人と成り、心情がしっかりと。

    7話とも物哀しい喪失感が漂う。
    90年代に書かれた作品は、携帯電話も普及してなく、男性優位の世の中は今以上。愛人を作ったり、一夜限りのアバンチュールを試みたりするのも、男の甲斐性的なところには違和感があるが、それを上回る文章力。

    ストンとした結末も好み。

  • 読後感が爽快とはいきません。しかし、じんわりと考えさせられます。宮本輝さんの文章、好きです。

  • 良かった

  • またタイトルがいいっ

  •  宮本輝 著「胸の香り」、1999.7発行。人生の陰翳を描いた短編が7話、収録されています。どの話も読み応えがあります。私は、第3話の「さざなみ」と第7話の「道に舞う」が強く印象に残りました。
     宮本輝「胸の香り」、1996.6発行、7話が収録。リスボンで再会した男女の話「さざなみ」がお気に入りです。乞食で盲目の母親と幼い少女の物語「道に舞う」は強く印象に残りました。


  • 生き続けるという事は、何かを失い、誰かを失うという事。
    失った痛みはいくつになっても慣れる事はない。
    未練し、執着し、忘れられない。
    しかし、それらを手放した時にきっと何かを得る。
    だから、生き続けなきゃね。

  • 短編7作品を収録しています。

    表題作「胸の香り」と「しぐれ屋の歴史」の2編が、とりわけ強く印象にのこっています。ともに、主人公やその両親の来歴にかかわる秘密が明かされる内容で、30枚程度の分量のなかで巧みに構成されたストーリーをえがきだしています。

    「舟を焼く」は、他の作品とはすこし異なる読後感を受けました。離れることを決意した夫婦が小さな旅館を訪れ、その主人夫妻もまたまもなく離婚することになっていることを知ります。さらに彼らが、二人の思い出の舟を焼くことを決め、砂浜の上で舟を移動させているということを主人公は知るのですが、このエピソードが離婚というリアルな出来事からふわりと遊離していくような雰囲気を生んでいるようにも感じました。

  • 男女の関係は奥深い。

  • 2018 8/2

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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