- Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167549039
作品紹介・あらすじ
予備校受験のために上京した受験生・孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年。雪降りしきる帝都・東京では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた-。大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇。
感想・レビュー・書評
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タイムトラベラーが未来をどう変えるかと下世話な気持ちで手に取ったけど良い意味で裏切られた
もしかすると現代も細かな修正によって成り立った歴史上に暮らしているのかもしれませんね詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
火災に遭遇し、居合わせた時間旅行者と共にタイムトリップして命を救われる主人公。飛んだ先は二二六事件只中の東京。時間旅行者を超人的存在ではなく、歴史の流れに抗えず苦悩する者として描く。SFあり、ミステリーありで最後まで飽きない。
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お初の宮部みゆきさん作品です。
主人公同様歴史に疎く、2.26事件も詳しく知らなかったので、歴史の面白さを味わわせていただきました。何にも知らないで生きてきたなあと思いつつ、この小説に出てくる昭和10年代だろうと平成だろうと、政治や歴史に関心を持たずに生きている人が多いのは同じなんだなと妙に感心。だから戦争に巻き込まれていったわけだし、令和の今だってコロナで政治家酷いなあと思っていても声に出せず行動にも移せず…同じなんですね。これって日本人特有なんでしょうか?
タイムトラベル好きなので、次はどうなるのかハラハラして読み続けたら明け方になっていた。だって昭和と平成を旅してたんだから!
平田という男性がなぜキラキラした平成でなく、昭和島10年代を選んだのか共感できました。キモいと言われていた地味な男性にとって現代は生きにくい。素朴な人情を感じられる昭和10年代はたとえ怖い時代だったとしても魅力を感じます。彼は幸せだったのかなあ。 -
タイムトリップものですが、そういう話は嫌いじゃないです。
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場所の雰囲気の解るエンタメ推理小説
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駅施設内交換本。級友がホテルニュージャパン火災に巻き込まれたとか、いないとか。但し、あれは2/8。2/26だと国立大学受験か。あっ、ダブった
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今から30年近く前の作品で、この圧倒的な読み応えと完成度は圧巻。
SFジャンルでタイムトラベルものは定番中のひとつだが、本作は頭抜けて奇抜で新鮮。なんせSFと昭和史とをブリッジしてるのだから。
これは是非とも山崎貴監督あたりに映画化してもらいたい!
加えて、文庫版巻末の関川夏央氏による解説がまた秀逸なのだ。必読! -
多分、自分が宮部みゆきの名前を意識し始めるきっかけになったのが本作。B!誌で古屋さんが書評を書いていて、それがいかにも面白そうに思えたのに加え、表紙のヘタウマな絵が頭に焼き付いてしまった。で、30年越しくらいにやっと読めたのでした。やたら小さく思えて仕方ない主人公の造形が好きじゃなく、結局そのイメージは、物語が閉じられるまで覆ることはなかった。こういう人物だからこそ、高校卒業したてくらいの設定を充てたのだろうけど、そのキャラと終始付き合わなきゃならないってのは、なかなかのストレスでもあり…。これ以外の著作をいろいろ読んでいる現状、本作が氏のベスト級とはとても思わないけど、それでも面白さはさすが。
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宮部みゆきさんの初期のSF歴史ミステリ。
大学の受験に失敗し、予備校を受けるために上京した主人公の孝史は、とある古びたホテルに宿泊する。ホテルの場所にはかつて陸軍大将蒲生憲之の邸宅があり、時折彼の幽霊が現れるとささやかれていた。さらに、ホテルの宿泊客には妙に暗い影を持つ薄気味悪い男もおり、孝史は落ち着かない気持ちで滞在する。
受験を控えた深夜、ホテルが火災に見舞われる。絶体絶命の危機に陥った孝史の前に突然現れたのは例の薄気味悪い男だった。彼は孝史を連れてとある場所へと避難する。その場所とはなんと、昭和11年2月26日の東京都永田町、まさに2.26事件が始まろうとしている時だった。
本書はいわゆるタイムトラベルものである。この手の話では、タイムトラベラーが歴史を変えられる場合とそうでない場合があるが、本書では歴史の大筋は変えられないという設定になっている。例えば、大事故を未然に防いだとしても別の形で同じような大事故が起こってしまう、といった具合である。本書がこの設定を取ることで、物語の中にタイムトラベラーの存在意義についての苦悩が生まれることになる。
本書はまた、主人公孝史の成長ストーリーでもある。受験範囲に含まれない歴史はほとんど知らない現代の青年で、学歴のない田舎育ちの父親のコンプレックスに振り回され、自分に自信を持てずにいた彼が、昭和11年のリアルを体感することにより、一回り大きくなって現代に戻ってくる。実家に戻った彼が父親に掛ける言葉は、彼の成長を感じさせてじんとくる。
さらに、未来を知ることができるなら、その情報をどう使うのか、といったことも、本書の大きなテーマの一つである。大きな歴史は変えられないけれど、自分や近しい人の未来はある程度コントロールできる。大切な人の有利になるように動くのか、あるがままの歴史の流れに委ねるのか。本書には、歴史に対するさまざまな哲学が描かれる。自分なら都合のいいように利用しちゃうかもしれないな、なんて反省しながら読んだ。
文庫本700頁近くの長編ながらミステリの要素で一気に読み進められ、時にほろっとしたり考え込ませられる、内容の濃い小説である。