漱石を売る (文春文庫 て 5-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167575014

感想・レビュー・書評

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  • 筆者の言葉を拝借すると、

    文章の好き嫌いは、理屈じゃない。
    肌に合うか、合わないかである。

    まさしく本書は私の肌に合う。文章構成も気持ちよく唸らせてしまい、自虐にも通じる謙虚な姿勢はいつの間にか彼の目線の先を追うことに興じてしまう。生活の一コマに、妬みや怒りといった社会風刺よりも人との繋がりの大切さを物語る。これも社会の根幹を成す情景の魅力である。触れ合うことに躊躇うべからず、言葉のリズムを心で感じていつしか踊り出す。そのステップが世界を巡っているのだ。実に楽しい読後感。

  • 古本屋エッセイといえばこれ。

  • 漱石イヤー(没後100周年)の最後に、『漱石を売る』の登場です。といつても、漱石の小説作品についての話ではなく、書簡の話。

    著者はご存知のやうに、古本屋「芳雅堂」のあるじであります(当時)。苦心の末、大好きな漱石の書簡を二通手に入れたさうです。その真贋については問題ないやうですが、問題はその中身だとか。一通は礼状であり、特段の問題はない。しかし今一通は、何とお悔やみ状なのでした。
    いくら大文豪の真筆といへど、弔辞となると別で、縁起を担ぐため中中買ひ手がつかぬ。実際、色色と販促活動をしますが、うまくいきません。よし長期戦だと構へたそんな折、意外なところから買ひたいとの声がかかりました。ところがその買ひ手の思惑といふのが......

    漱石専門の古本屋が夢だつたといふ著者の、初期に属する作品集。丁度直木賞を受賞して、注目度が俄然上がり始めた頃でせうか。本好きなら一度くらゐは夢想するであらう古本屋の内幕も適度に披露しながら、表題作ほか約50篇の作品が収録されてゐます。
    当店を待ち合せに利用してゐたアベックが実は兄妹だつたとか、開店以来通算15万冊販売記念イベントの泣き笑ひ、老夫婦が亡き息子の足跡を辿る旅に出て著者の店を訪問した話、あるいはゴミ問題で現代人を嘆き、チラシの裏で時代の変化を感ずる。かういふ感覚、例へば平成生れの人にはどう響くのでせうか。全く響かぬのか。興味のあるところであります。

    本好きならば多分喰ひつく内容の、滋味溢れる文章であります。まあ、特に本書でなくてもいいけど、こんな寒い季節には出久根氏の文章は良く似合ふのです。
    デハまた。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-677.html

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著者プロフィール

出久根達郎(でくね・たつろう):1944年茨城県生まれ。中学卒業後、上京、古書店に勤務する。73年から古書店・芳雅堂(現在は閉店)を営む傍ら、文筆活動に入る。92年『本のお口よごしですが』で講談社エッセイ賞、93年『佃島ふたり書房』で直木賞を受賞する。2015年には『短篇集半分コ』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。著書に『おんな飛脚人』『安政大変』『作家の値段』など多数がある。

「2023年 『出久根達郎の古本屋小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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