- Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167577018
感想・レビュー・書評
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初めての須賀作品だったので手探りだったけど、
やわらかくてあたたかくて少し暗くて
いい手触りだった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1992年発表の須賀敦子の第2作であり、他の多くの作品集と異なる書下ろしのエッセイ集である。
題名の通り、著者がミラノに住んでいたときに生活の中心となっていたコルシア書店に関わりのあった人々が、20余年のときを超えて生き生きと、篇ごとに主人公となって現れてくる。
登場するのは、特別な人生を送った人々ではなく、1960年代に著者と生活・活動を共にした市井の人々なのだが、読み進めるうちに引き込まれていくのは、著者が『ダヴィデに~あとがきにかえて』で、「コルシア・デイ・セルヴィ書店をめぐって、私たちは、ともするとそれを自分たちが求めている世界そのものであるかのように、あれこれと理想を思い描いた。・・・それぞれの心のなかにある書店が微妙に違っているのを、若い私たちは無視して、いちずに前進しようとした。その相違が、人間のだれもが、究極においては生きなければならない孤独と隣りあわせで、人それぞれ自分自身の孤独を確立しないかぎり、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、ながいこと理解できないでいた。若い日に思い描いたコルシア・デイ・セルヴィ書店を徐々に失うことによって、私たちはすこしずつ、孤独が、かつて私たちを恐れさせたような荒野でないことを知ったように思う」という思いを、いつの間にか共有しているからなのだろうか。
振り返る過去を持つ歳にして、心に沁みる作品集である。
(2008年4月了) -
面白かった!エスプリってこんな感じかなあ。青春の名残と、知識人のエスプリと、私の知らない異文化のお話で、楽しかったです。
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イタリア在住時に著者が過ごすことになった、志を共にする仲間たちとの共同体。理想に燃えるそれは青春そのもののような蒼い美しさに溢れているが、青春であるが故にゆっくりと離ればなれになっていく。須賀さんの繊細で丁寧な文体はそんなノスタルジアな感傷を優しく包み込み、諦観に溺れないだけの凛とした強さも携えている。最後の1頁が破格なまでに素晴らしく、本当に大切なことを教えてくれている。そう、孤独とは決してそこから逃れ目を背けるものではない。自身の孤独を抱きしめることが出来ない者が、一体誰を抱きしめられるというのかと。
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『ヴェネチアの宿』が気に入ったので、須賀敦子 2冊目。1960年代にミラノで開いた書店(というよりは、サロンに近いものだったのだろう)を回想しつつ、当時の日常や現在のできごとを綴る。多くの人が一度は経験する「共同体」幻想は、まるで昨日のことにように詳細に描かれるが、しかし、その登場人物たちは遠く霧の中にいるかのように静かな雰囲気をたたえる。解説の松山巖が言うように、約30年という長い長い年月をかけて、この静謐な文章が生み出されたのであろう。
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1960年代前後のイタリアミラノにあるコルシア・デイ・セルヴィ書店に集まった仲間たちを綴るエッセイ。
理想の共同体を夢見た仲間たちは、各々その思想や民族、歴史などバックボーンとなるものが異なれど、あの時あの場所で同じ方向を見ていた。そんな友との出逢いと別れを情緒的になり過ぎない一歩引いたような目で作者は見ています。
はじめ書店の持つ意味や歴史的背景が判らず話に入りにくかったのですが、すぐに人物そのものの魅力に目がいきました。愛嬌ある人もいれば、取っ付きにくい人もいます。でもひとりひとりが実に魅力的なんです。「楽しかった青春」という言葉だけではくぐりきれないものも含めて、作者の目は全てを包括しています。 -
作者の追憶のなかの交友録というかんじです。
最後まで本の世界にあまり入っていけませんでした……。 -
須賀敦子さんの人生に寄り添いながら、
読み進むうちに、圧倒的な人物描写をとうして
様々な人生が見えてくる。ある時期、頻繁に行ったミラノという街、そこで会った一癖ある人達、確かに、自分の生き方に、真っ直ぐな感じであったなあと、今になって思わせてくれた1冊である。 -
透明で ちょっと寂しい
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ジャコメッリの写真のスケートを興じるあの無邪気な二人の修道士が『銀の夜』のダヴィデとカミッロだったんだなあ。コルシア書店に集まる人々。生と死の介在する静かで深い時間の流れ。時代を共にした筆者の紡ぐレクイエム。本を閉じた時、教会の鐘が聞こえた気がした。