対岸の彼女 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167672058

感想・レビュー・書評

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  • 【結婚する、しない。子どもがいる、いない。それだけで女どうし、なぜ分かりあえなくなるんだろう。多様化した現代を生きる女性の、友情と亀裂を描く】
    このあらすじを聞いただけで、もう少し若い頃の自分なら敬遠していただろう。興味がないからではない。身につまされすぎて、きっと考えこみすぎてしまうことが明白だったから。
    私は、一番悩んでいたど真ん中の世代を越えたところにきて、若い頃を過ごした友達を何人か無くしたよなあ・・・と、そんなことも懐かしく思えるようになった。だから読んでみようと思えた。
    それでも、読んでいると自分やあの時の友達の、あの時の気持ちを再び味わっているようで、辛い気持ちになった。

    大真面目な感想を書いてしまうと、女性同士の関係(友情だけでなく同僚なども)がこれほど難しいのは、個人の性質と言う要因よりも(それもあるのだけど)、社会の古い常識や慣習や考え方、制度によるものが大きいので、社会が本当の意味で多様性を受け容れるようになることが大切で、女性がそれを個人同士の問題だと思って、一人で抱えて悩むことが無くなると、もう少し女どうしも関係が築きやすくなるんだろうな、と思うが。

    それはそれとして。印象に残った場面を2つだけ残しておこうと思う。

    葵の高校時代の友人、ナナコがいじめの対象になった時に、こんなことを言っている。
    「今、みんながあたしについて言っていることは、あたしの問題じゃなくあの人たちの抱えている問題。あたしの持つべき荷物じゃない」
    これをいじめにあっている最中に、高校生のナナコが言えるのはすごいな、と思ってしまう。私は、もっとずっと大人になって人間関係に悩んだ時に、同じような言葉に出会い、はっとしたのだ。そう、人は意外に、自分の問題と他人の問題を見極められていなくて、自分の不安や苛立ちを人に投影しているのだ。しかし、この年になっても、未だにここを上手くコントロール出来ない自分がいる。
    それから、小夜子がお正月に夫の実家で、いつものごとく義母にあれこれ言われている場面。小夜子は、あれこれ言われたうちの1つだけ、買い物を夫に頼む。すると、そのほんの1つを夫に頼んだだけで、ぐっと事態が変わり、こう思っている。『なんだ簡単じゃないの。ひとりで背負いこまなくたって、言えば、人は動いてくれるじゃないの』
    本当に、こういうことってある。仕事でもなんでも。こんなことを言ったらいけない、弱音をはいちゃいけない、これは自分の仕事・役割だから。そう思っているのは、案外、自分だけだったりするのだ。(まあ、先ほども書いたように、根強く、女性の役割とか、嫁はこうあるべき、と言うのがあるのは事実だけど)自分から孤独にならない、これは必要なことだなあと。

    この物語で、全くタイプの違う2人のような葵と小夜子が、実は葵が小夜子のような高校生だったように、私が対極にいると思っている女性も、案外『対岸の彼女』ではないのかもしれない、と思えたことは、少し心を軽くしてくれる。

  • 35歳、2歳の女の子がいる専業主婦の小夜子。
    人付き合いが苦手で娘の公園デビューも
    うまくいかず悩んでいたところ、
    働きに出ようと試みる。
    採用された旅行会社の社長の葵とは同じ大学の同級生と
    知り、新規事業として行うハウスクリーニングとして
    働くことになった。

    独身の葵と子持ち主婦の小夜子。
    対照的な2人は出会ってすぐ仲良くなるが、
    次第に心のすれ違いが生じてくる。
    さらに葵の過去とは。

    ------------------------------------------------

    角田光代さんの作品はどれも読みごたえがあって
    とても好きである。
    この作品もネットで評価が高かったので
    読んでみたのだが、
    うーん。個人的な感想としては、
    小夜子とナナコと葵の繋がりが
    どうもうまく読み取れず
    あまり感情移入できない作品だったな・・・。

    まだまだ読書初心者だと痛感させられた。笑

  • 女性のドロドロした友情関係を描かせたら読み進むのが嫌になるほど上手い!

    グループになり連れ立って群れて過ごす。大人になってもそこから外れるといじめや学生時代ならカースト制度、仕事を始めてからの夫との軋轢。重苦しい話が続きなかなか読み進まない…

    専業主婦だった、小夜子目線で話は進むが、出会った女社長の葵の過去が各章入れ替わりで構成される。終わり方は清々しく、人との出会いを楽しんでいく、前向きな終わり方はとてもよかった。

  • いつか別れが来るとしても、出会うことは素晴らしいことなのだと教えてくれるようなお話でした。
    (なぜかお掃除の仕方に関する記述が個人的には心に残りました。)

  • 角田光代さんは女性心理を描くのが本当に上手い。日常のどこにでも、誰にでも起こりうるトラブル。軋轢。ミステリーでもなく謎も事件もないけれど「何かが起こりかけている」ハラハラ感を持って読み進めた。ただやっぱり本は多少なり別世界へ連れて行ってくれるものが好み。日常すぎたかな。

  • 私は小学校からずっと嫌われ者でした。今もクラスで孤立気味です。そんな中この本を読んで、肩の力が抜けた感じでした。別に無理して周りに溶け込もうとなんて全然しなくていいんだと気付かしてもらいました。それにしてもなんなんだろう、このリアルさ。女子の集団の残酷さをとてもリアルにえがいているなと感じました。

  • 現在の葵と高校生のナナコが何だか似ていて、逆に高校生の葵が現在の小夜子と似ているのが、初めは不思議だった。読み進めていくうちに、現在の葵を作ったのはナナコとの記憶なのだと腑に落ちた。
    初めは自分に自信が無かった小夜子が家庭から飛び出し外で働くことでだんだんと強くなっていく。かつて葵がそうだったように、自分で選んだ道を自分で歩き始める。「葵の昔と今」が「小夜子の今と未来」に重なるのかなと思う。
    そしてラストのシーンでは、葵と小夜子が高校時代のナナコと葵のような絆で結ばれていくのかもしれないと思わせてくれて、明るい気持ちで読み終えることができた。

  • 私は女性の結婚してるしてない、子どもがいるいないと対極にある女性の本をよく読む
    この本のあらすじを読むとそういう対極の2人が交互に物語を進めていく感じかなと。でも違った。

    確かに違う立場の2人の主人公なんだけど
    小夜子は現在を葵は過去の自分を。

    そこもすごく面白い。
    いまの葵を知りながら過去の葵を追いかけるから
    なぜの理由が分かってくると納得がいく。

    いまの立場の小夜子の育児孤独、でも人と関わり合うことの煩わしさで前に進めない感じもすごくわかる。でも小夜子は一歩踏み出して葵と出会った。

    運命ってなぜか恋愛に使われがちだけど
    友人でも言えることだと想う。
    出会う時期に運命の相手と出会えれば
    やっぱり少なからず人は変わっていける。

    葵の過去はかこで
    その頃って大人には近づくけど、でもやはり子どもで
    狭い世界で生きていかないといけない。
    自分がその狭い世界から排除されたくないから
    必死にもがくけど自分は確実に違う何かを失ってそうで。
    そんな時に出会うナナコはその恐れを感じさせない、自分の世界を歩いていそうな女の子。

    そんなナナコと出会って逃避行もするけど
    ナナコの見えなかった境遇が見えて辛くなる。
    2人が選んだ先で2人が離れ離れになるけど
    葵はずっとナナコを忘れてはいない。
    ナナコを自分の一部として、大きな一歩を、進んできた。そんな彼女がかっこよかった。

    最後また小夜子と葵がともに歩みだすのも応援したくなって、すごく良かった。

    生きてるだけ悩み心配不安は尽きない
    それでも人はきっと人に支えてもらって生きていける

  •  『人と出会うということは、出会ったその人の鋳型を自分の中に穿つようなことで、その人にしか埋められないその鋳型は親密な関係の終了と同時に中身を失い、空洞となって残される。』

     葵は自分の中に出来たナナコの鋳型で、自分が小夜子の前でナナコになることでナナコに出会っていたのだろう。ナナコと葵の、誰にも邪魔をさせない2人だけ分かり合えてる世界は、葵がナナコの鋳型を大事に生きてるから作れるもの。ナナコも、後の葵も、大事なものは自分の中にあるから、ナナコが「ぜーんぜんこわくないの。そんなとこに私の大切なものはないし。」って言ったその理由がわかった。

     ずっと私は、私の中にできた鋳型を数えて、思い出しては埋めたいと思い泣いて、埋められないことを不幸だと嘆いていた。けど、その鋳型にできた空洞が時に私を後押しし、うちから温め、思い出して大事になぞりたいと思える、そんなふうに思える時がきっとくる。だから私は、これからは怖がらずにたくさんの人と出会って別れて、その瞬間や思い出を大事に思える人になりたい。

     森 絵都さんの解説がすごくこの本を読んで共感できた。
     

  • 角田さんにハマるきっかけとなった作品。

    大学時代に読んでいたが、33歳になり、小夜子と同じように娘を保育園に通わせながら働くようになった今、ふと思い出すように手に取って再読した。

    小夜子と葵の現代パートと、葵とナナコの過去パートが交互にくる。以前読んだときには小夜子と葵の決裂場面、どうにもならない分かり合えなさに衝撃があったが、今回再読してみると2人の再出発の清々しさが印象に残った。

    友情は虚しいものだといつから思うようになったのだろう。

    学生時代にどんなに仲良くなっても、社会に出ると仕事も経験も悩みも環境もまるで違う相手になってしまう。
    ライフステージが違うという言い方をすることもあるが、そもそも言語が違うくらいの感覚を覚えることがある。
    違うのが当たり前なのだからその違いを面白がれたらいいのだろう。
    でも、実際の自分はというと会話の節々に感じる噛み合わなさに、言葉選びに細心の注意を払いながら過ごすことに、どっと疲れていたりする。
    学生の頃のように誰かとバカ笑いできる時間を望んでいるだけなのにな、なんて身勝手に思ってしまう。

    本作はそんな最近の自分の心境に見事にマッチしていて、なおかつそれでも誰かと交わることに前向きになれるような小説だった。

    葵とナナコの過去パートはまさに青春だ。
    あまりに眩しい2人の結びつきに羨ましさを覚え、2人の逃避行に明るい未来が見えないことが見て取れると悲しくてたまらない気持ちになった。
    ナナコが幸せでいてほしい。ぐるぐる考えた最後に葵が願ったことが何よりの真実だと思った。

    学生時代に毎日笑い合ったもう2度と交わることはないだろうあの友達も、今どこかで幸せに笑っているといいな、と素直に思う。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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