もののたはむれ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167703011

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  • 気づくとそこに漂う雨の匂い。
    そっと、じんわりとその気配を濃密にする夕闇。
    誘われるように足を踏み入れてしまう路地。
    (どれもわたしがこころ惹かれるもの・・・)
    そして現実なのか幻想なのか、不確かな空間へ無意識のうちに迷い込んでしまう。

    異世界への入り口は、案外すぐそばにぽっかり穴を開けているもので。
    現実から逃れたい思いを抱えているとき、こころが無防備になっているとき、たやすく足を踏み入れてしまうのかもしれない・・・と、
    この人の作品を読んでいると、すんなりと思わされてしまうのであります。

    内田百けんの「冥土」ととても近いものがあるのだが、
    すっと受け入れてしまうような現実味を感じさせる分、実は恐ろしいのかも・・・。

  • 「――とにかくあまり人の来ない閑散とした一室に置かれた参観客用のソファの端に、年取った警備の職員が制服制帽のまま座りこんで居眠りをしていて、そこには人を微笑に誘う何かがあり、しんと静まりかえった昼下がりの博物館の、時間が永遠に止まってしまったような感覚にいかにもそぐわしい光景だった。巡回中の若い館員たちがやって来てその老人の姿を見てもべつだん苦々しく舌打ちするでもなく、困った爺さんだとでもいうように互いに笑みの籠った目配せを交わし合いながらむしろその小柄な皺だらけの老人の目を覚まさせないように気を遣っていて、そこには好意とともにそこはかとない敬意のようなものが感じられたのも良い印象だった。老人が老人であることだけで敬われるということがないのは今日の日本だけはないだろうか。――」 集中 『アノマロカリス』より。
    他十四の短編が納められています。「芥川賞作家の処女小説にして、彫心鏤骨の連作集」と裏表紙に!

  • 日常生活の中で、道を曲がったら、世界が少し違っている。自分の夢の中での出来事なのか、異なった世界に来てしまったのか。当惑気味になるのは、主人公たちもだが、読んでいる者も少し違う世界に案内してくれます。
    読んでいて、この読後感は癖になりそうで、しばらくするとまた、この本を手にしたくなると思えてきました。

  • 処女小説。14篇。
    詩人、評論家、教授、芥川賞。

    インテリだけど時代と世界がよく見えている。

    明治期の小説みたい。なんか雰囲気が。

    文章も難解ではなくリズムも良い。

    乳房を舐め回したり、そういう表現があるだけでぼくは読む気力が湧くしww

    読み返してなかなかに味わえる作品集だなと思い返した。

    捨てようと思っていたので。

    5年後くらいに読み替えそうかな。

    そうそう、大阪のしゃれた本屋「Berlin Books」で購入したのは

    個人的にいい思い出。

    「グラシン紙」につつまれた愛らしい一冊。

  • エッセイ風の話もあれば、ちょっと怖いのなんかもありつつ、それぞれ日常の中での不思議な体験を扱った短編集。「鳥の木」が個人的に好きでした。

  • 12/20
    「空間芸術としての小説」
    解説にもあるように、時間の流れ方が異質。
    文体は好みだが、カギカッコが確かに浮いている。
    留保つきでの評価。

  • 2008/9/20読了

  • 正直、書店で題名にひかれて買いました。
    読んでみてびっくり!私の大好きな作風なのです。

    分類すると川上弘美のいとこって感じかなぁ・・
    2000年の芥川賞受賞者だとは後から気がつき、受賞作の花腐しと言う題名には覚えがありました。
    何故、あの時に手に取らなかったのか、それはやっぱり縁なのですねぇ・・・


    生きていると、現実ともうつつともつかない事象ってあるでしょう。
    それは物の怪だったり、霊象だったり、夢だったり・・・
    そんなお話を14編集めた短編集です。

    事象的に語れば恐ろしげなことも、彼の作風には少しもそれを感じさせず、ありのままを受け取ってしまう魔術なのかなんなのか・・
    それはエロティックな描写を少しもいやらしさを感じさせず、すんなりと読めてしまうのに似ています。


    川上弘美には路線が二つあると私は思うのだけど、本人はどっちも同じだとなんかのインタヴュで語っていました。
    その摩訶不思議系な書き方が、いとこって感じたのかも・・


    松浦氏の別の世界も是非、覗いてみたい・・・

  • 2006年6月17日(土)、読了。

  • 背筋を駆け上がる恐怖と快楽。

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著者プロフィール

1954年生れ。詩人、作家、評論家。
1988年に詩集『冬の本』で高見順賞、95年に評論『エッフェル塔試論』で吉田秀和賞、2000年に小説『花腐し』で芥川賞、05年に小説『半島』で読売文学賞を受賞するなど、縦横の活躍を続けている。
2012年3月まで、東京大学大学院総合文化研究科教授を務めた。

「2013年 『波打ち際に生きる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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