バイアウト―企業買収 (文春文庫 こ) (文春文庫 こ 25-5)
- 文藝春秋 (2009年11月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167773168
感想・レビュー・書評
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金融用語たっぷりではあるけれど、バックの親子のストーリーがあるおかげか読みやすい。
「お金儲けが悪いことなのか」「自分が儲かれば、血の通った企業なんて後はどうなっても知らない」「法に触れることをしても、巧く振り切ればいい」、、、等々、お金儲けと人情との行ったり来たりの中、主人公はどんな結末を下すのか、、、圧巻でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ファンド業界にさっそうと登場した相馬顕良が仕掛ける、壮絶な企業買収オペレーション。外資系証券会社の優秀なセールスとして彼に加担する広田美潮にも、彼女自身の思惑があった... これですよこれ。こういうのが読みたくて幸田真音作品を手に取ったのです。専門用語盛りだくさん。素人にはわかりにくい実践的ディテールの解説。本筋の邪魔にならない程度に厚みのある登場人物。見応えのあるプロット。過不足なく楽しめました。
小説で説明されている「任意約定」という手法が現在でも通用するのか、そもそも実在したのかはわかりませんが、ともかく、相馬は買収したい会社の株を数社の証券会社を仲介して買っておきながら、実際に決済をして株式の保有者になるのは任意の期間先延ばしにするという取引きを繰り返しています。名義や議決権は決済日まで売り手の元に残しているので、株主総会前日になってはじめて出現する大口株主に、買収される会社も、他の株主たちもびっくり!というシナリオです。そして権限を掌握し、買収した会社の資産を自由に売却する、と。う〜ん、これだけ見るとやはり違法行為に思えます。
相馬は小規模ながら山の手沿線に多くの土地を保有する、ヴァーグ・ミュージック社に目をつけます。正確には、目をつけている会社があることに目をつけます。インサーダー取引を糾弾されても仕方ないソースからその情報の裏をとった相馬は、株式公開買付け (= TOB) が始まる前に、水面下でヴァーグ社株を買い集めます。(ここで広田美潮が暗躍。) 蓋を開けてみると、買収を企んでいた七福神に加えて、DPキャピタル、サカマキ・ファンド、の二社が名乗りを上げ、事態は三すくみの熾烈なTOB合戦になだれ込みます。
各社の買付け成立、不成立の条件が明記されていないので少々ややこしいのですが、要するに三社ともできるだけ多くの株を買いこむつもりらしく、次々に価格を引き上げていきます。相馬は買付け期限ぎりぎりとなった時点で、一番条件の良い会社に、かき集めておいたヴァーグ社株をすっかり売却、という算段です。ヴァーグ社経営陣も、順当に働いて健全に収益を上げてきた会社を黙って手放すつもりはなく、借金を重ねて自社株を買い集めたり、公開買付けに応じないよう既存株主を説得したり、資産を一時的に売却したりして必死に抵抗します。なかなか読み応えのある一冊です。 -
買収は怖い。
金が絡むと色々ありますよね。
必ずしも会社の価値や業務と関係ない
金というフィールドで会社の価値を決められるのは
怖いですね。 -
いっきに読みおえた。展開の速さが、魅力。
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村上ファンドをモチーフにしているのは明らか。
登場人物の人物描写が非常に浅いと感じるものの、スピード感を大事にした展開を行うのであれば致し方ないか。
タイトルの「バイアウト」に関し、一般的には「株式のマジョリティ取得を狙ったファンドによるM&A」が定義であるのに対し、本書ではマイノリティ投資にも関わらず「バイアウト」という単語が使用されているのが残念。
鞘抜きを狙うファンド、不動産価値に重きを置く事業会社、そして人的資産に着目する事業会社・・・
本書では最終的には人的資産に着目した事業会社が独り勝ちをしたが、個人的には儲けの手法はプレーヤーによって様々で、その手法に長短や是非はないと考えている。
その点、嫌金融、嫌ファンド、嫌資本主義の大衆感情に迎合している。
発売当時と異なり、投資家との対話に関し、重要視されている現在の風潮からすると違和感がある内容。
現在の風潮に合い、かつ本来の意味の「バイアウト」を反映するような、新作の上梓に期待したい。 -
企業買収をめぐる残念物語。TOBとかホワイトナイトとか、当時良く聞いた単語がたくさん出てきたライブドア事件を思い出す。
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ライブドアの件を物語にしたのかなぁと。
でもなんか、イマイチ。
クソみたいな親子愛なんかいらない。ハリウッド映画が全ての物語に恋愛を持ち込むのと同じくらい不要。
もっと泥臭い企業買収を見せて欲しかった。それができなくてチンケなサイドストーリーをつけるなら出さないでほしい。 -
証券会社の広田美潮が、ファンドの有名人との取引、企業買収のステージを基軸に、その中で広田自身の人生や生き方、それを取り巻く同僚や顧客の生き方が見えていく。展開も最後までわからず、楽しく読み切った。
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なんか既読感があったのだが、それはまぁそれなりに楽しめました。
村上ファンドの事件を下敷きにしているのはよくわかりますが、ちょっと見方が一方的かな、と思うのと、登場人物の描写の甘さは彼女の小説の基本になってしまっているのが残念。主人公や歌手の苦悩ももう少し掘り下げて欲しかったし、いくら業界が違ってもあんなに短期間で取引をうまいこと成功させることが現実的でないことはわかるので、そこは小説という逃げ場を作ってほしくなかったかも。