- Amazon.co.jp ・本 (527ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167802028
作品紹介・あらすじ
外交官として北方領土交渉の第一線で活躍した著者が、実体験をもとにインテリジェンスの技法を明かす。各国のスパイが繰り広げるカネやセックスを用いた交渉術、霞が関官僚と政治家の交渉術、国家間の交渉に臨む首相や大統領の孤独-メモワールとして読んで面白く、ビジネスマンの実用書としても役に立つ、第一級の教科書。
感想・レビュー・書評
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読んでいて怖くなりました。
日露平和条約の締結と北方領土問題を阻んだものは何であったのか。
あゝ、今少しで失われし国土を取り戻すことができたかもしれず、非常に残念です。
巻末にひっそりと語られている鈴木宗男氏の杉原千畝の名誉回復に始まる国際協調
佐藤氏と築いた、唯一、プーチンにいつでも会える政治家としての、鈴木宗男氏。
チェルノブイリの支援を含めた、ロシア、中央アジア、アフリカ諸国、イスラエルとの関係を戦略的に強化しようとした鈴木宗男氏の構想。
それらが外務省のアメリカスクールで、いやアメリカそのものを刺激してしまったのでしょうか。
気になったものは以下です。
・「貴様嘘をつくな!」といえば、相手も「なに!」といってけんかになる。ところが、「お互い正直にやりましょう」といえば、誰も嫌な思いをしない。日本人にはこの使い分けがわかっていない。
・交渉術は、善でも悪でもない、価値中立的な技法である。したがって、交渉術においては、物事の本質を見極める洞察力よりも、道具的知性の方が必要とされる。
・インテリジェンスと交渉術は、不即不離の関係にある。
・ターゲットの論理を深く知ることは、交渉術の要諦の一つである。
・広義の交渉術には3つのカテゴリーがある。①交渉をしないための交渉術、②暴力で相手を押さえつける交渉術、③取引による交渉術
・交渉の世界に完全に対等な立場はない。お互いに少しでも有利な立場を獲得するために交渉で、虚々実々の駆け引きが行われる。
・だます者が悪いのではなく、だまされる者が間抜けなのである。
・インテリジェンス機関は、心理学、動物行動学を汚い交渉術を組み立てる上での基本として重視している。
・実際の工作においては、人間は保守的に行動することを前提とする。つまり、動物でありながら、愛や名誉を重んじ、対面を気にかけ、社会的慣習に縛られるという人間の矛盾が、こちらのつけ込むスキとなるのだ。
・人間が本気で怒るときは、全く事実無根の話で名誉を傷つけられたか、知られたくない事実を暴露されたときかのいずれかである。
・自分にとって都合の良くない秘密の話の9割は本人の口からもれる。
・直接カネを渡すより、相手が必要とするサービスに対して、費用を肩代わりするというのが案外効果がある。相手の配偶者や子供が病気になったときの医療支援は人間的信頼関係を強化する上で大きな効果をもつ。命を助けてくれるために協力してくれた人に対する恩義は、たとえ手術が失敗しても忘れない。したがって、熟練したヒューマン・インテリジェンスの専門家は、名医とのネットワークを必ずもっている。
・拷問のやり方でもっとも効果的な手法は、被尋問者には暴力を一切与えずに、目の前で被尋問者がもっとも愛する人、妻や子供に対して拷問を加え自白を迫る手法である。
・難しい仕事には2つの種類がある。一つ目は、仕事の内容自体が難しい話、二つ目は、仕事自体は、それほど、困難なことではなないが、政治的な事情で面倒な話だ。
・嘘が露見したときにとる方法は2つある。第一は、嘘をついたことを認め、相手に詫び、嘘をつかざるを得なかった事情について説明をすること。第二は、嘘はついていないと怒って見せることである。
・情報屋の修正は私自身が情報屋なので、だいたいわかる。会談相手に関する情報を徹底的に集める。特に相手以上に相手について知っているということが、交渉で有利な立場を確保するためには不可欠だ。
・トップは孤独に耐えなくてはならない。むしろこのことは裏返しで表現すべきだ。孤独に耐える資質がある者でないと、トップにはなれないのである。
・何も見返りを求めず、相手の懐に入ることによって、自己の利益を最大化するのが交渉の弁証法だ。
・ほんとうの取り引きとは、取り引きということを相手に悟られずに行うものだ。
・ゲンナ元ロシア国務長官に言われたことは2つだ。1つは、過去の歴史をよく勉強しろ。現在、起きていること、また、近未来に起きることは、必ず過去によく似た歴史のひな形がある。それをお押さえていれば、情勢分析を誤ることはない。2つ目は、人間研究を怠るな。その人間の心理をよく観察せよ。特に、嫉妬、私怨についての調査を怠るな。
最後に”大和魂”という言葉を核に という言葉がありました。
明治天皇の御製 「しきしまの やまと心の をゝしさは ことある時ぞ あらはれにける」、意味は、日本人の勇気は日本国家に一大事が起きた時に発揮されるという意味
東日本大震災の折に、天皇のビデオメッセージは、終戦時に玉音放送に匹敵するとのコメントをしめしています。
目次は以下の通りです。
1 神をも論破する説得の技法
2 本当に怖いセックスの罠
3 私が体験したハニートラップ
4 酒は人間の本性を暴く
5 賢いワイロの渡し方
6 外務省・松尾事件の真相
7 私が誘われた国際経済犯罪
8 上司と部下の危険な関係
9 「恥を棄てる」サバイバルの極意
10 「加藤の乱」で知るトップの孤独
11 リーダの本質を見極める
12 小沢vsプーチンの真剣勝負
13 意地悪も人身掌握術
14 総理の女性スキャンダル
15 エリツィンの五段階解決論
16 米原万里さんの仕掛け
17 交渉の失敗から学ぶには
あとがき
東日本大震災と交渉術詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
異能の外交官佐藤優氏が実際のインテリジェンス現場で使用したというテクニックの数々。ビジネス書としても一人の外交官の失敗の記録としても貴重な一冊になります。追録された「東日本大震災と交渉術」も必読です。
この本を一人の若い外交官の失敗の記録と読むか?それともビジネス書として読むのか?はたまたインテリジェンスの記録として読むのか?いろいろな読み方が存在しますが、どれとして読み始めても一筋縄では読み終えることのできる本ではなく、骨の折れる本ではありますが、富み終えたあとの達成感はひとしおでしょう。
この本は『交渉術』を用いて自分(自国)に有利な条件をいかに引き出していくかということについて、かつて外交の一線で活躍していた筆者がつづるだけに非常に濃密で、実際に役立つであろうテクニックや、筆者が仕えた橋本、小渕、森の歴代総理大臣や鈴木宗男氏の『知られざる素顔』についても必読であると思います。
特に森元総理大臣が当時、プーチン氏との会談の前後あたりで俗に言う『加藤の乱』があった時に筆者と二人きりになった際、
「俺はもうダメかもしれない。しかし、君は加藤政権になっても、俺に仕えるのと同じ気持ちで加藤にも仕えてくれよ。(中略)加藤を支えてくれよ、頼む」
と筆者に頭を下げて頼んでいたというエピソードが印象的で、僕の中で森元総理大臣や鈴木宗男氏の評価がいかにマスコミによって「情報操作」されていたのかということと、こういう「知られざる話」が彼らのことを間近で見ていた筆者の手によって明らかになるのは貴重な記録であると感じました。
そして、筆者の真骨頂である外務省のウラ話もこれまた秀逸で、この場では実名を出しませんが鈴木宗男と「アルマジロ大使」のエピソードは「人間追い詰められるとここまでするのか…。」という意味では貴重な記録だと思いました、筆者いわく、こういう行動原理は動物行動学に照らし合わせると納得がいくというようなことを記していましたが、近いうち本格的に専門書でも紐解いてみようかしらと、そんなことを考えている自分がいるのでした。
最後に、筆者はこの本をこのまま真似すると、必ず失敗すると書いておりますので、「佐藤優のような失敗を犯さないためにはどうすればいいのか?」という観点で本書を読んで欲しい、と書いておりました。 -
佐藤氏の実体験を交えた外交官時代の交渉術を解説した本。とはいえ、交渉術よりも外交の事情や、佐藤氏の過去の事情の詳細という面が強く、多くの一般人の役に立つ交渉術ではないという印象は強い。
しかしながら、外交や官僚の世界の一端を垣間見ることが出来るのは本書の魅力であり、文体も読みやすく楽しんで読み進めることが出来た。 -
『交渉に絶対勝利することができる確実な技法を身につけることはできないが、交渉術のある種の原則と具体的な事例を研究すれば、交渉に勝利する可能性はかなり高くなる。
この点について、これからアルコール、セックス、カネ、ポストなど人間がもつ欲望を分析して、交渉能力を強化する方策について考えてみたい。』
交渉術を「交渉をしないための交渉術」、「暴力で相手を押さえつける交渉術」、「取り引きによる交渉術」に分類して、特に取り引きによる交渉術について分かりやすく説明している。綺麗事やロジカルな話ではなく、人間の感性に働きかける視点での説明は興味深く面白い。 -
外交の裏側が垣間見れて面白い。こんなに書いていいのかと思うくらいだ。読み物として面白く、ためになる。
交渉には3つあるという。
交渉しないという交渉。
暴力で押さえつける交渉。
取引による交渉。
また、取引を行う上でのシナリオ、物語の描き方、登場人物の動かせ方、情報の取り方などなど勉強になる。
そういう交渉術の一方、最後は人間力なんだなとも思わされる。首脳同士の相性によって国家関係はかなり変わってくる。
また、度々出てくる「職業的良心」という言葉が気になった。民間企業でいえば受注確保、利益増大のために奉仕する、ということになるだろうか。
佐藤優の職業的良心が強く感じられる本であった。 -
タイトルは交渉術でも、これは
ほとんど佐藤優の経験が詰まった実社会の
お話、もしくはハードボイルドのような
読み物です。
ロシアでは殺人以外のたいていの犯罪は、秘密警察で
もみ消すことができることや、
世間でイメージされているハニートラップなどは
現実にないことなど、情報も満載。
何より、外務省として働いている雰囲気が
ビシビシ文面から感じられてきます。
一国の総理大臣に対して説明をすること、それで
国の流れが変わるのですから、その緊張感や
正確性の必要さなどは相当なものでしょう。
自分の仕事を顧みると、こんな状況下になることなど
ありませんからね。
男の仕事とは、を考えさせられる優れた
自己啓発書と言えるのではないでしょうか。
佐藤本でおなじみの、外務省の西村課長が
どういう状況でアルマジロになったかも、
リアルにわかります。
嘘を突き通そうとしても、上司(鈴木宗男)に
見破られたときにアルマジロのように転がる。
実は、これも立派な逃げ方(!)だったのですね。
個人的には、佐藤本のベストです。 -
交渉のノウハウというよりも、外交官の活動記録(裏対応含む)という内容だった。
魂を込めて仕事をしていた人だけにリアリティー満載で冒険活劇のように楽しむことができました。
自分に寄せて考えると、普段の仕事が妙にドラマチックになりすぎてしまいそうなのでどうかなと思いましたが、企業でサラリーマンとして生きていくためにも役立つ術を得ることができました。 -
読み応えあった。通勤往復の車内のみで読んでいたが、丸々1か月間かかってしまった。交渉術というタイトルだが、ハウツー本というよりは、著者の外務省在勤中のエピソードが中心になっており、一連の佐藤優の自叙伝の一つ。改めて、すごい仕事をしてきたことに圧倒された。
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外交官として北方領土問題の第一線で活躍した著者。
外交官時代の実体験をもとに交渉術が綴られる。
鈴木宗男氏ってのは熱い男だったんだな。
佐藤氏の著作は初めて読んだが、外交官というのは凄まじい仕事なんですね。北方領土問題関係を読んでた流れで手に取ったわけだが。
ここに記された交渉術。一般人がhow toものとして気軽に利用できるものではない。外交交渉を覗き見るという意味では楽しい読み物でした。