一朝の夢 (文春文庫 か 54-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167824013

作品紹介・あらすじ

北町奉行所同心の中根興三郎は、朝顔栽培を唯一の生きがいとしている。世の中は井伊大老と水戸徳川家の確執や、尊王攘夷の機運が高まり不穏だが、無縁だ。だが江戸朝顔界の重鎮、鍋島直孝を通じ宗観と呼ばれる壮年の武家と知り合ったことから、興三郎は思いも寄らぬ形で政情に係わっていく。松本清張賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末期江戸の朝顔ブーム。
    品評会があったり、必死に交配を繰り返したり
    もしかすると今この世にある彩どりの朝顔は
    そんなブームがあったが故に発展していったのかもな〜とふと思った。
    朝顔だけで、どこまでも話が膨らむ上に
    とても面白いしちゃんと歴史背景描かれてて
    フィクションだと分かっていても、あちらこちらに織り交ぜてあって
    立場行く末違えど、友として苦しんでる主人公のセリフに泣いた。
    一期一会、一朝。夢。

  • 2008年6月刊。2011年10月文庫化。140回(2008年下半期)直木賞大衆選考会ノミネート。北町奉行所で名簿作成役の興三郎の生きがいは、朝顔の栽培。江戸人情たっぷりな話から桜田門外の変へと進んで行く展開に目が離せなくなり、一気に読みきってしまいました。

  • 202112/これがデビュー作とは!消極的でパッとしないタイプだけど、朝顔のことなら周囲がドン引きする程饒舌かつ一方的にマシンガントークしちゃう朝顔オタクな北町奉行同心・中根興三郎が主人公。尊王攘夷、安政の大獄など史実をベースに、政情に係わってしまう主人公、朝顔をうまいこと絡めつつ物語が進んでいく。個性豊かな登場人物達も魅力的で、特に主人公の下男で還暦間近の藤吉が良い。この物語での井伊直弼の描写も面白い。多数の人物や出来事が盛り込まれてるけど読みやすく、混乱することなくページを進められた。同作者の『いろあわせ』の主人公・摺師の安次郎がちらっと登場しててニヤリ。ラストの描写もグッときた。梶よう子の植物モノはどれも面白いなー。

  • 「夢の花、咲く」の朝顔同心もの!
    幼い頃の秘結(便秘)の為にお世話になった黒く苦い丸薬が、朝顔の種から作られていたことを成長してから知った興三郎。
    今回は、魅せられたのが何故変化朝顔だったのかについて、母や兄弟のエピソードと共に書かれ、自分こそが変化物だと思っていたとのこと。
    後半は井伊大老絡みとなり、いつもの江戸物とは異なり私は感情移入し難く‥だったかな⁉

  • どこかで江戸時代の変わり咲の朝顔の絵を見たことがあった。
    これが本当に朝顔って姿で、丸葉、丸花の方が好きだなと思った。ただし、色は、紫じゃなくて藍色、縁が白なのがいいな・・・。

    小学生の頃、誰でも育てたことのある朝顔は、おなじみの花。

    主人公は、朝顔栽培オタクのイマイチさえない奉行所同心。部屋住みで終わるはずが、家督を継ぐことになったものの閑職にあり、妻帯もせず。
    その彼が、ひょんなことから様々な知己を得、彼の不器用なやさしさやまっすぐさ、奥行きの広さ、暖かさを知ることになる。
    彼の得た縁は、朝顔の花のように美しく、だけど、はかないもの。それでも、そこに、変わらないものを見出す物語。一炊の夢ならぬ、一朝の花。

  • 変化アサガオのブームは、第1次が江戸時代の文化文政(1804-1830)。その時期に浮世絵や歌舞伎が始まる。第2次が江戸時代末期(嘉永安政期:1850頃)で、交配の技術を持っていた。第3次が明治中期と言われる。
    本書は、第2次ブームの時で、主人公は北町奉行所・同心の中根興三郎。興三郎は6尺あまりの長身であるが武術はほとんどダメで、3男坊。学問の道に行くように言われて、アサガオに興味を持っていた。ところが、2人の兄が死んでしまい、やむなく同心になった。うだつのあがらない仕事をしていたが、アサガオの話になると夢中になる。幼馴染の里美が飯屋で働いているのを見たことで話が展開して行く。里恵が不幸な人生をおくっていて、借金十両あり、興三郎は、自分の育種したアサガオ「柳葉采咲撫子アサガオ」をあげることで、里恵は窮地を脱するのだった。
    時代的な背景が、きちんと押さえられていて、植木職人、成田屋留次郎が関わってくる。成田屋留次郎は変化アサガオ図譜の『三都一朝』の著者であり、アサガオの品評会を主催していた。成田屋留次郎は、柿色のアサガオ団十郎の育成者として有名であった。
    興三郎は、『あさかほ叢』の「大輪極黄采」に惹きつけられて、黄色いアサガオを育種したいと思っていた。アサガオの花いろは、青から赤そして白はあるが黄色の色素がない。
    留次郎は「黄色は夢の花ですぜ。咲かせたいと思っても咲かせられる花じゃないんですよ。懸命に育てて、アサガオが認めてくれたら、その時初めて咲いてくれる。一生に一度だけ、アサガオがくれる褒美の花」という。留次郎も黄色のアサガオは咲かせたことがないが、『三都一朝』にはボタン咲きの黄色いアサガオが描かれている。
    そのころのアサガオで有名な育種家は、杏葉館と言われ、五千石の旗本、元北町奉行所の鍋島直孝だった。その鍋島直孝に興三郎は呼ばれて、茶人宗観に引き合わされて、大輪のアサガオを作って欲しいと依頼される。実は、宗観は井伊直弼だった。興三郎は、井伊直弼の暗殺事件に巻き込まれて行くのだが、その事実は知らないままだった。興三郎は、大輪の黄色アサガオを作ることに専念する。
    なかなかできなかったが、鍋島からもらった「州浜葉」と「とんぼ葉」を掛け合わせて、黄色大輪の『一期一会』作出するのだった。
    物語は、井伊直弼の暗殺を巡っての事件に巻き込まれる中根與三郎であるが、アサガオの育種に専念する。アサガオ同心とも呼ばれている。
    大輪黄色アサガオを題材にして、物語を構成するチカラは並々でない。

  • 2年以上積ん読だったけどようやく。勧めていただいたのだけど、期せずして幕末のお話だった。ただただ朝顔を追究したい男の情熱を描きつつ、時流に翻弄される周りの人物の覚悟を描いていて、どちらもとても好きでした。

  • 閑職を務めながらも、朝顔にだけ情熱を傾けられる「朝顔同心」の興三郎。幼馴染の女性が金策に困っているのを知り、朝顔を渡したことから、事件に巻き込まれ始める……。
    あまり時代小説に歴史ネタが入るのが好きではないので、そこはちょっと……でしたが、そういうのが入るのが好きな人にはすごく面白いかも。私にでもそのほかの部分は面白かったです。思いっきり草食系男子で朝顔オタクの興三郎ののんびりさ加減、でもみんなに好かれている感じとか、やるせなさとか。おすすめです。

  • 江戸末期、ひたすら朝顔栽培を愛する只の同心が朝顔を通じて伊井大老と知り合い、事件に巻き込まれていくストーリー。朝顔栽培に情熱を傾けるだけの内容と思いきや、当時の動乱に向かう情勢や大老の思いも上手く取り入れられていて、結構感動的に面白かったです。

  • 掘り出し物の一冊!!
    朝顔が中心の時代小説は珍しそう、そう思い図書館で手に取っただけだったのが、意外にも幕末の騒動が絡んで来るとは全くの予想外!
    何となく悪役として見られがちな井伊大老の意外な一面。あくまでも小説上の想像の世界の人物像なのだとは思うけれど、歴史的に英雄だとか悪役だとか見られる人物も、描き手の意思によって作り上げれれるもので、鵜呑みには出来ないのだと改めて痛感。
    梶さんの描くい井伊直弼の人物像はとても思慮深い素晴らしい人でした。
    偶然手にした掘り出し物の一冊。こういう出会いは本当に嬉しいです!

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著者プロフィール

東京生まれ。フリーランスライターの傍ら小説執筆を開始、2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞を受賞。08年には『一朝の夢』で松本清張賞を受賞し、単行本デビューする。以後、時代小説の旗手として多くの読者の支持を得る。15年刊行の『ヨイ豊』で直木賞候補となり注目を集める。近著に『葵の月』『五弁の秋花』『北斎まんだら』など。

「2023年 『三年長屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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