革命前夜 (文春文庫 す 23-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 490
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910310

感想・レビュー・書評

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  • 読書備忘録593号。
    ★★★★★。
    いやはや、いやはや。須賀さん。凄い。今年の★5つの中でも個人的にはトップクラスです。
    振り返れば村田さん、凪良さん、坂井さん、そして須賀さん。全部女性作家。最近の芥川賞もほとんど女性。もうね、作家という職業は女性の方が適性が高いのではないかと思う次第です。これホント。ヒトの魂を揺さぶる感性を文字に出来る能力。
    さて、この物語。
    1989年正月。そうです。昭和天皇崩御。個人的には神戸の会社独身寮で迎えた初めての正月。笑
    主人公のピアニスト眞山柊史は東ドイツ・ドレスデン留学に向けた道中にあった。留学の理由は漠然とした憧れ。平和ボケしてバブル絶頂期の日本から。
    しかし、そこは東西冷戦の世界、鉄のカーテンでNATOとワルシャワ条約機構が仕切られた向こう側の世界。この国には2種類の人間しかいない。密告するかしないか・・・。
    もともとはドイツ。ソ連占領下において、分割統治された結果、共産世界に組み込まれた東ドイツ。西側世界への憧れが強烈に渦巻く。それを監視する国家保安省(シュタージ)。不届き者は罰する。そうするしか国としての体を保てないということ。
    しかし、柊史が留学した音楽学校には、個性豊かな音楽家達が溢れていた。誰もが強い想いを持って切磋琢磨する世界。
    正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづけるヴァイオリン科のイェンツ。自由で圧倒的な個性を見せつける同じくヴァイオリン科のラカトシュ。透き通った水のような音を奏でるベトナムからの留学生スレイニェット・・・。
    柊史はラカトシュに見込まれ、学内演奏会で伴奏をすることになり、引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。自分が何を目指すのか明確に無い柊史は自分の音を見失う。
    そんな時、旧宮廷教会でパイプオルガンを弾く天才女子クリスタに出逢う。そして一方向の恋に落ちる・・・。
    柊史は自分の音が見つけられずスランプに陥りながらも、時には助け合い、時には反発し合う仲間達の中で次第に自分を見つけていく。
    しかし時代は否応無しに動く。ハンガリーとオーストリアの間にあった鉄のカーテンに穴があく。東ドイツでは体制維持の為の選挙不正が明らかになる。
    音楽学校でも仲間の裏切り、監視、密告・・・。そして起きた殺人未遂事件。殺人なのか事故なのか・・・。
    そして1989年11月。ベルリンの壁崩壊。
    ラスト!革命前夜というピアノとオルガンのデュオ曲。
    ネタバレチェックを入れながら、音楽学校の生徒たちが奏でる物語は、これから読まれる方がいらっしゃるかと思うと・・・、詳しいことは言えないっ!
    須賀さん!素敵すぎる!笑

  • ドイツの情勢だったり音楽等とっつきにくそうな2つのテーマをよく合わせたもんだと読んでみると、意外にも読みやすい。良い意味で、文章に軽さがあってスルスル読める。(個性的な人物も多く、のだめカンタービレを思い出した)
    一方で、音楽の表現力がすごい。文字を追っているだけにも関わらず、何度か主人公と共に曲達に心揺さぶられた。聴いたこともないのに、私にも感動を与えてくれた。読み進めるうちにどんどん嵌まり込んでいく。(検索して曲を聴いてみたりした)

    敵味方もわからない灰色の閉ざされた世界。だからこそより際立つ“音楽”の世界。
    このふたつが、最後まで同じくらいの存在感をしっかり保ったまま物語が進んでいくのもまたすごい。そして新しい世界へと繋がっていく。革命前夜というタイトルもぴったり。

    すごいすごい言いつつ、最後の罪と罰のあたりは若干混乱したし、少し主人公の主観に偏る解釈では?と思う部分もなくはなかったけれど、、面白かった!

  • ベルリンの壁崩壊前後のドイツを舞台に、日本からの音楽留学生が歴史の奔流に巻き込まれながら自分の理想の音楽を探す物語。

    自由主義と共産主義というイデオロギーの対比のみでなく、音楽とは?芸術とは?家族とは?
    様々な思想の違いが全編通して描かれていて、己の正義は他者にとって必ずしも正義ではなく
    絶対的な正義や価値はありはしないということを改めて感じさせられた。

    甘く情熱的なストーリーにミステリー要素も加わって
    後半は一気に読み進んだ。

  • 解説にちょっとしたネタバレがあるので、これから読む人はまず作品を読んだあとに解説も読んで欲しい。

    それぞれ背景を持った個性的なキャラクター達とラストの怒涛の展開。
    3時間くらい時間を確保して一気に読みたい作品。
    細々と育児の合間に読むんじゃなかった…

    主人公が自分の音を見つけた後、素晴らしいピアノを弾き鳴らし大衆から拍手喝采されるシーンがあれば良かったなぁ〜というわがままで星4。
    でもそれはラスト「革命前夜」楽譜に託された未来への希望として残してあるんだろうと思った。

    ラカトシュ。マヤマの音の純化という留学目的もバカにせず闘う人と見てくれていたのかと思うと憎みきれない。本当に音楽バカだったのだろう。指揮者としても周りを翻弄しそう。

    イェンツ。IMの元締めはNYTシャツ着てても良いのか。

    李。実は一番いいやつかもしれない。

  • 読了したときは鳥肌がたった!!

    DDRの街や暮らし、そこに生きる人々の様子はとても新鮮だった。
    解説にもあったが、本を読むことの楽しみである「新しい視点を得ること」を十分に満たしてくれた。
    「ベルリンの壁崩壊」という事実にはこんな暮らしや動きがあったのか…と驚くと同時に、主人公は外の視点からDDRを見ているので、すんなりと理解できる。

    何より音楽描写が良かった。ドイツに行って音楽を体中に浴びてみたい!と思わせてくれた。

    めちゃくちゃお金かけて映像化して欲しい!

  • これ鳥肌!音楽に詳しくないのでいまいち話の中に入りきれない一冊だけどとてもいい本に出会ったとおもった。初めが蜜蜂と遠雷のような感じで自分には合わないなと一回読むのを断念した。だけど読むうちに、似てるけど違うかな?似てるけど違うな、いや、全然違うな!ってなっていった。蜜蜂と遠雷が無理だっただけに最初引きずられてしまったから、こっちから先に読めばよかったと後悔。
    最後のラカトシュからのオーケストラの新譜が届くのはとても粋な終わり方だなとおもった。
    この本が本当にあった話じゃないのかな?って思うぐらいリアルを感じた。須賀しのぶさんの他のも読んでみたいと思う。

  • ピアノを学ぶために東ドイツへ留学した男性のお話。
    ベルリンの壁崩壊前の緊迫した時期に外国人(留学生)として過ごす大学生活、良くも悪くも日本人らしい主人公の葛藤が描かれている。
    個人的には今まで読んだ中でも上位に入るくらい面白かった。普段ピアノを題材にしている小説はいくつか読んでいるが、音楽とその他の要素のバランスが非常に良かった。

  • 息の詰まる展開に傍観者ではいられず、ページをめくるしかない。日本人留学生シュージは演奏家として成長しながら、時間を行きつ戻りつ、「自分探し」をしたといえる。
    シュージ以外の出てくるキャラは音楽家として大成する、エリートたる自分を実現しようとDDRにやってきた外国人だったり、DDRという国の中の自分の立ち位置を自覚しているいわゆる自国民だ。それぞれ、強烈に国を背負っているという自覚がある。みな、その自覚と「自分探し」との共存を探らざるを得ないなか、日本人シュージの国を背負うことの認識が希薄であることが私にはとても印象的だ。

    ベルリンの壁崩壊、東欧革命の頃、私はバブル景気のなかのお気楽な大学生だった。ブラウン管の向こうのニュースショー「ニュースステーション」で繰り広げられる時代の転換期の出来事をただみているだけだった。

    この物語ではシュージがDDRに到着した日が「昭和」から「平成」に変わった日という設定になっている。
    あの半年は「自粛」という言葉が世間をおどり、なんだか変な半年だった。今や慣れた「平成」も最初聞いたときには「へーせー」と同じ「のびた音」になんだか間延びしたような変な感じがした。「昭和」があまりにも長すぎて、「平和」ボケしていたのかもしれない。

    そこからまた時が経ち、戦後75年の昨年、ドイツの首相メルケルがアメリカのトランプ前大統領を非難したニュースをこの本を読みながら、思い出した。「国」も「戦争」も「平和」も人が作るものだ。
    東西冷戦、○○主義の時代は既に歴史的事実となってしまった(はずだ)。

    しかし意識下で続いているなんらかしかの他者の排斥を生み出す感覚、囲い込み、○○主義はいくらでも簡単に生み出され得る。不満があればそこは負の感情の温床となる。「自粛警察」は密告者もどきと言っていいのでは。

    だからこそ、なおさら「個」それぞれの在り方を改めて考えさせられる。

  • 今ほど、読了。
    書店のポップや帯にて、絶賛されていたため気になり購入。
    初須賀しのぶ氏の作品である。

    ファンタジーのイメージが強い氏だったが、朝井リョウ氏の解説を読むと、「骨太な歴史小説」や「瑞々しい青春を描く現代小説」(高校野球小説)等も執筆される、「〝書けないものない系〟の書き手」だとか。
    (朝井氏の、同じ書き手目線の解説も、非常におもしろく読め、良かった)


    「骨太な歴史小説」に当たる本作。
    1989年、ベルリンの壁崩壊の年に、東ドイツへ音楽留学した日本人青年が、一癖も二癖もある音楽家たちや素晴らしい音楽に出会い、時にスランプに陥り、時に歴史の波に翻弄され、それでも音楽の魅力に圧倒される。


    今や歴史となりつつある、ベルリンの壁崩壊。
    東ドイツの灰色の町並み。静かな反乱と西ドイツへの憧れ。死をも恐れず、自由を求めて壁を越える難民。

    シュタージと呼ばれる国家保安省の密告者がどこに潜んでいるかもわからない世界は、ジョージ・オーウェルの『一九八四』をも彷彿とさせる。

    まさに「革命前夜」の渦中で暮らす東西ドイツの人々を、留学生という立場で客観的に捉えていた青年が、出会った人々や音楽を通して巻き込まれていく様は、読み進めずにはいられない展開だった。

    そして終盤の、ある事件の真相が二転三転する結末は、時代と音楽に翻弄された人の罪と罰を描いており、切ない。

    人生をかけて留学している自分と、帰る場所のある日本人留学生の主人公とでは覚悟が違うと、他の留学生に言われる場面がある。

    現代日本に生きる自分とは、尚更違う境遇のため、理解できるはずがないと詰られるかもしれないが、それでも、その時代に生きた人々の想いの一端と、圧倒的な音楽に触れたような気持ちになれた。


    数々のクラシックの名曲(であろう楽曲)が登場した本作。
    惜しむらくは、音楽の知識が自分になかったことだ。もしあれば、より彼らの感じたものが理解できたかもしれない。

  • ブラボー。鳥肌が、スタンディングオベーション。


    初めて読む作家だが、物語にグングン引き込まれた。

    私は丁度、昭和が終わった年、ベルリンの壁が崩壊した年に生まれた。
    だから、その時の情勢がどのようなものだったのかは分からない。

    だけど…
    灰色の音楽の国で、それぞれの音と友情と恋、そして社会情勢に飲まれていく若者たち。
    彼らの音楽に対する気持ち、そして胸に抱える想いに胸がギュンと熱くなった。

    終盤は「イェンツめ…ただのイケメンだと思ったのに……」と思ったが、彼がクリスタに言った「罪には罰を」という言葉。彼の気持ちを思うと遣る瀬無い。

    ヴェンツェルが柊史にしたこと。それは決して柊史からしたら許せないことなのだろうが……それらを踏まえてラスト1ページを読むと…もう駄目ねこれは。

    これは文句なしの星5。

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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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