北条政子 (文春文庫 な 2-55)

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  • Amazon.co.jp ・本 (595ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167916251

作品紹介・あらすじ

2022大河ドラマ主人公・北条義時の姉にして、源頼朝の妻。
彼女はいつも動乱の渦中にいた。

伊豆の豪族・北条時政の娘に生まれ、流人源頼朝に遅い恋をした政子。やがて夫は平家への叛旗をあげる。源平の合戦、鎌倉幕府開設――御台所になった政子は、実子・頼家や実朝、北条一族、有力御家人達の間で自らの愛憎の深さに思い悩む。歴史の激流にもまれつつ乱世を生きぬいた女を描き、NHK大河ドラマ「草燃える」原作にもなった傑作歴史長編。

解説・大矢博子

感想・レビュー・書評

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  • 流れを掴めた一冊。

    漠然とした知識しかなかったこの時代のこの鎌倉の地。
    今回、この時の流れを掴むことができて満足。

    政子目線で描かれるストーリーも読みやすく、嫉妬深さが可愛らしい、頼朝を一途に想い、慈愛に満ち、頼朝亡き後の行く末をただひたすら案ずる政子に出逢えたのが何よりも良かった。

    頼朝との夫婦愛は微笑ましく描かれ、子を想う姿にはこちらまで心打たれるほど。

    随所で、自分の心の声に揺れまくる政子の姿もまた良い。

    そして数々の良かれと思った決断が後々の運命を変えてしまうとは。

    大河ドラマで黒幕達の表情をしっかり追いたい。

  • 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を観るにあたり、知識を補おうととっさに浮かんだ本作。政子自身の妻や母親の視点で書かれているが、鎌倉時代の大きな流れを理解するには適切な選択だった。
    『吾妻鏡』などの資料をもとに永井さんは政子像を描いている。そもそも女性は歴史資料に残っていないことが多く、「政子」と云う名も、三代将軍実朝の時代になり朝廷から官位を授かった際に、父の名から一字もらってつけられている。頼朝の時代に果たして”政子”とは呼ばれていたのだろうか。平家との争いだけでなく、乳母一族との権力争いも凄まじい。はからずも将軍の妻、そして将軍の母になってしまった政子が、子を愛したい、子に愛されたいと願いながらも立場上許されず、夫の頼朝や大姫ら4人の子供と孫にまで先立たれてしまった悲しみに胸が痛んだ。
    小説に登場する人物たちに、ドラマで活躍する役者の顔を重ね合わせて一気に読み終えることができた。

  • 岩下志麻の政子役が懐かしい大河ドラマ「草燃える」の原作の一つ。永井さんの確かな史観による名作で、下手な解説書より分かり易く、読み易い。頼朝挙兵から実朝暗殺までの世の中。源氏の骨肉の争い、まるでヤクザの抗争のような血で血を洗う権力闘争の中で、妻・母・祖母、或いは一人の女としてオロオロし、葛藤する血の通った政子像が描かれる。考証緻密な歴史小説であると同時にドロドロの恋愛小説、残酷な家族小説でもあり、読み応えは十分。脇役の女たちの描き方もさすがで、大姫&静御前のエピソードなどは胸が締めつけられた。

  • 永井路子氏が描いた北条政子は、一人の翻弄される女だった。

    正直、従来の政子像にあまり触れていないので、それほど衝撃は受けていないのだけど。
    一夫一妻多妾を地で行く頼朝に、何で浮気するんだよとイライラしながらも、頼朝を慕う気持ちを隠せない政子が、なんだかとても良い。
    その後の夫の死、そして子どもたちの死に、その都度、自身の愛し方を省み、深く傷ついていく。

    結局のところ、表舞台では父を殺された恨みと復讐、そして、そのことに乗じて、自身の躍進を狙う政治ばかりが、延々と繰り返されている。
    そのカラクリを知る男たちは、復讐の種となる子を残してはならないと、非常な決断もする。

    そんな武士の論理に反発し、人を想うことによって、感情的に咄嗟に動いてしまう政子は、確かに危なっかしい。
    そして、想うほどには想われない立場も、妻や母の切なさを感じさせるのだ。
    大姫にも頼家にも拒絶された上に亡くしてしまう、その時の気持ちは、恐らく私には寄り添えない。

    だからこそ、それらをエネルギーとして溜めに溜めた政子が、尼将軍として向かっていく様が作品に描かれず、作品の後の最大の「空所」としている所が非常に面白いように思う。

    ふと。それまでの都の女性は、ほとんど名を遺さなかったのではないか。
    その中にあって、北条政子として描かれることに、なんだか、やっぱり親しみを感じるのだった。

  • 大河ドラマの影響で、北条政子その人に興味を持った。
    政子の心の動きを細やかに捉え、鮮やかに描いている。
    時代の波が容赦なく政子を悲しみに陥れる。
    果たして本当に彼女は悪女だったろうか。
    この本では政子を悪女としては書いていない。
    一人の女、一人の妻、一人の母、一人の祖母として書かれている。
    妬みや恨み、裏切りや悲しい死に囲まれ、悪女になるなと言う方が無理である。
    ただ自分のわがままや欲望のために生きた人ではなく、深い愛情を与え続けたにもかかわらず、報われなかった悲しい人生の人であった。
    当然、最終的にはどのような人生として受け入れていたかは、政子本人にしか分からない。
    それでも、同情したり、同苦せずにはいられなかった。
    ただの歴史の波に飲み込まれてしまった人には思えなかった。
    その悲しさの中でも、自分の行動に後悔しもがきながら必死で生き抜いた強い人だっただろうことが見て取れた。
    少なくとも同じ人間なのだなと、どこか身近に感じてしまう。

    女性が書いているので当然なのだが、文章の印象がすごく女性的であった。
    ページ数は600近く気後れしそうになるが、実際は改行も多く、文章が柔らかいために長く感じなかった。
    むしろ残り少なくなってくるにしたがって、どう着地させるのかと楽しみであった。
    終始、一貫した政子の印象のまま着地されていて、その余韻がまた色々と想像させてくれる。

    大河ドラマの予習にもなったのだが、今後どのように政子を描いていくのか、比べる楽しみが増えた。

  • 政子は女としても妻としてもまずまず幸せだったのではと思う。大恋愛の末結婚し、夫は浮気はするも夫婦仲はいい。
    ただ、全ての子どもに先立たれ、母としては悲惨としか言いようがない。
    しかし政子が政治の表舞台に顔を出すのは夫も子ども達も全て失ったあと。尼将軍になった後の様子を知りたかったけど、この小説は実朝暗殺までしか書かれていばい。残念!

  • 政子は、ただ愛して生きただけなのかもしれません。炎のように激しく熱すぎただけなのかもしれません。娘たちも息子たちも、孫たちまで、若すぎる非業の死を見なければならなかったなんて…。
    物語は公暁の死で終わっていますが、「尼将軍」としての多難と重責と凄絶な孤独を甘んじて受ける覚悟ができていたような感じです。

  • それにしてもすさまじい一生である。

    北条というと、頼朝のと血のつながる者たちが亡くなったおかげで幕府の実権を握れた一族。ただ、政子の立場からすると、長女は政略結婚の末の悲劇を嘆いて若くして亡くなり、長男は精神を病み、次男は長男の子どもに殺されるいったように、これ以上不幸なことはないというひどい目に合う。

    これらもすべて日本で初めての武士の政権の確立のために仕方が無かったといってしまえばそうなのだが、政子の中ではいかばかりの葛藤があったのか。本書では、そうした政子に思いを馳せる。

    物語は、実朝が殺されたところで終わる。自分の人生を狂わせた幕府を憎むこともあっただろうが、承久の乱では政子は幕府を救う。本当に強いひとなんだと思う。

  • 愛する者のためにただの女で、妻で、母で、祖母でたまたま御台所だった。うまく歯車が噛み合わない。時代に翻弄されてしまったね。

  • 大河ドラマでこの時代と北条政子に興味を持って手に取った。頼朝との出会いから実朝暗殺まで、文庫本で約600頁、ボリュームのある作品だった。

    昨年の大河が「マンガ日本の歴史」なら、こちらは少女漫画「北条政子」のようだったが、解説にも史実に基づいての歴史解釈がしっかりしているとあるように、改めてこの時代の出来事を少し理解できたように思う。

    これまで北条政子は自分の子供を殺す冷酷な悪女だと思っていたが、現代とは価値観も死生観も異なる激動の時代を一生懸命生き抜いた聡明な女性というイメージも加わった。

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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