- Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167917463
作品紹介・あらすじ
どうしても「読み終えられない本」がある――。その名も『熱帯』。
この本を探し求める作家の森見登美彦はある日、〈沈黙読書会〉なる催しでふしぎな女性に出会う。彼女は言った「あなたは、何もご存じない」と。
『熱帯』の秘密を解き明かすべく組織された〈学団〉と、彼らがたどり着いた〈暴夜書房〉。
東京・有楽町からはじまった物語は、いつしか京都、さらには予想もしなかった地平へと突き進む。
感想・レビュー・書評
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ファンタジー小説だが、前半はミステリー仕立て、後半は冒険小説のよう。前編を通して「千一夜物語」が鍵になる。南の島の日差し眩しい明るい絵と雪降る京都の祭りの夜の昏さがコントラストになっていて読者を不思議に惑わす。話者が誰なのか?どこの立ち位置にいるのか?幻想的に話は進むが、いつのまにか完全に魅力されている自分がいた。不思議で得もいわれぬ一冊。
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佐山尚一という人物が書いた謎の本『熱帯』をもとに繰り広げられる、壮大な冒険譚。
仕事に行き詰まった森見氏が、『千一夜物語』を読み始めるのですが、この本に関して「物語のマトリョーシカみたいな」という表現が凄く的を得ていると思った。
物語の中に登場する人物が、さらに物語を語ったりするらしい。
この『熱帯』という物語もまさにそのような構成になっていて、読み進むにつれて自分が今、誰の物語を読んでいるのか訳が分からなくなってしまいます。
そして気がつくといつの間にか語り手が替わっていて、全く別の場所へ連れて行かれてしまうのです。
「この本を最後まで読んだ人間はいない」という謎の本『熱帯』
物語は結局のところ、自分たちの思い出が創り出すものらしい。
妄想の渦に巻き込まれ、謎に包まれて出口が見えなくなって、最後にはあ、また森見さんにやられたという感じがして、とても楽しめました。
最後まで読むと、もう一度最初から読み直したくなります。 -
第三章「満月の魔女」まで、とても不思議な感じで、これからどういう展開になるのだろうと何となくワクワクしながら読んでました。
しかし第四章「不可視の群島」から不思議を通り越して、頭が混乱してきた。
鏡の中の鏡、小説の中の小説、夢の中の夢のような、うまく表現できないがそんな感じでした。
結末が無い、千一夜物語になぞらえていて、作者も千一夜物語にかなり影響されているんだと思った。
そういえば、アラビアンナイトとか読んだことないので、いつか読んでみようかな。 -
とても緻密に仕組まれた破綻の世界。
語られ続けるうちに、膨張・削減・改編・混沌などを繰り返す中で当初の明確な輪郭を失くし、やがてはイメージが一人歩きし、けれどもある意味では再構築される「ものがたりの性質」を、現代的かつファンタジックに体現した物語。
スランプに陥っていた小説家「森見登美彦」氏。現実逃避とばかりに読んでいた蔵書から最後に選んだのは、「千一夜物語」。
氏曰く、「奇々怪々の成立史を持つ胡散臭さも魅力」で、「この物語の本当の姿を知る者はひとりもいない」謎の本。
このたいへん由緒ある謎の本は、彼が学生時代に遭遇した小説「熱帯」の記憶を呼び起こす。
それは、読んでいる途中にいつのまにか「物理的に消えて」しまうがために、誰一人として結末を読むことができない謎の本。
物語は、手元から消えた小説「熱帯」との再会を目指して四苦八苦する登場人物たちの姿が語られていたかと思えば。
彼らが求めてやまない小説「熱帯」の世界の中の登場人物の姿が語られ。
さらに、その「中の人」が別の物語を語り…と膨らみに膨らみ、当初の本筋(と思われたところ)から逸れに逸れまくっていく。
「千一夜物語」の中で、シャハラザードがシャハリヤール王に向けて夜毎に語る物語の中で、その登場人物たちが別の物語を語ったように。
そうして膨大になり過ぎた「千一夜物語」が、偽写本や恣意的な翻訳等によって、本当の姿が誰にもわからなくなったのと同様に、本書「熱帯」も、森見氏の仕組んだ「マトリョーシカ」な入れ子構造によって、本当の姿がわからなくなっていく…。
…なんて、レビューを書いているはずなのに、その複雑さに私の頭の中も結局はまたわけがわからなくなってきた。通じないレビューになってたらごめんなさい。
でも、なんとなく思ったのは、森見さんは、序盤で散りばめに散りばめた(ように見せかけた)伏線の回収なんてする気はサラサラないどころか、「千夜一夜物語」と本書「熱帯」、そして、『「熱帯」の中の小説「熱帯」』を、「語り」の作用によって何度も何度もオーバーラップさせながら、あえて「緻密に破綻させる」ことで、現代版の伝承文学の行き着くところを模索したんじゃないかということ。(文字になっている時点で、伝承という言葉を使うのはそもそもおかしいのかもしれないけれど。)
謎は謎のままで、その迷宮感を感じてみたいと思った方には、おすすめしてみたい作品。(反語風に言えば、明確な展開と結末を求める人にはおすすめしづらい、の意味でもあります…。) -
不思議な読書体験がしたい方に 森見先生は何冊か読んだことあって面白いイメージあり
読み終わってみてなんだろうこれ?最初はミステリーぽい 誰も読み終えたことのない謎の本『熱帯』 調べていくとだんだん夢と現実の間の様なふわーっとしてくる そして唐突に島の砂浜に ああこれが『熱帯』の中か 全て読み終えた後は自分も観測所の島から戻ってきたような感覚
序盤にメモした『熱帯』について
不可視の群島 魔王 学団の男 海上列車 砲台の島の地下牢 髭もじゃ囚人 図書室にかよう魔王娘
密林の観測所 海図 ノーチラス島 地下世界 森の賢者 虎と戦う 見せ物小屋 砂漠の宮殿 満月の魔女
登場人物の本の読み方が印象に残った 一心不乱読み メモ 引用線引き -
半分くらいまでは楽しく読めたのだが、それからやや失速…。マトリョーシカのように開けても開けてもまた物語が、という展開に途中から着いていけなくなってしまった。
森見さんの世界観が好きだと思う。
『夜行』はやや作風が違うなぁと感じながらも、とても楽しく読めた。
が、この『熱帯』の後半は読み直す必要がありそう。
モリミンは人間よりムーミンに近い、笑いつつ確かに!と頷いてしまった。モリミンの創る森見ワールドから目が離せない。 -
❇︎
『熱帯』一冊の奇妙な本から始まる物語。
『千一夜物語』を基軸にして、
物語が命を繋ぎ、命が物語をつなぐ。
どなたかが感想として記していた、
マトリョーシカや入れ子構造は正にその通りで、
物語の中で、別の物語が語られ、
それらの物語が時間や空間を超えて
また別の場所で繋がり語られる。
迷路の中に継ぐ迷路、謎に継ぐ謎。
どこまでも面々と続き、語り語られる
不思議な物語という印象です。 -
かなり期待して読んだが、正直理解が及ばずの状態で終了。それぞれの世界での物語は普通に面白い。が、「熱帯」と「千一夜物語」と現実世界の関わりをもう少しだけ明確化してほしかったかなあ。どうしても、異世界性が強すぎて結びつきがいまいち理解できなかった。
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千一夜物語のように
物語の中で物語が語られ
本筋がどの話だったか混乱してくるが、
どれも面白くて読むのが楽しかった。
文章も面白いが、時折出てくる京都の描写に
更に惹き込まれるのが森見作品の魅力だなぁ。 -
’小説を読む’という行為って、すごく神秘的で、素晴らしいことで、最も手軽に別世界を擬似体験する経験が得られる手段である。
という事を、この『熱帯』を読んで改めて認識する事が出来た。
「とにかく、なんだかよく分からない小説」(p18)とある通り、それはその通りで、なんだかよく分からないことを文字で体験することそのことが’読書’の本質なのだろう。
本作冒頭では次回作の執筆に行き詰まる小説家「森見さん」が唐突に過去に読んだ小説「熱帯」のことを思い出す所から始まり、気分転換も兼ねて参加した読書会で同席の女性「白石さん」が「熱帯」について語り出す-「『熱帯』の門」(p44)を開けることで物語は展開をしていく。
第二章以降はまさに魔力と呼ぶべき不思議な力でもって物語は縦横無尽に拡がっていき、’こちら側’と’向こう側’の境界が曖昧模糊とした得も言われぬ高揚と不可思議な空間にトリップする事が出来る。
どうしてそう感じるのかを説明する事は私には出来かねるが、キーワードとして度々登場する『千一夜物語』は現実世界には確かに存在するものでありながらその実体は捉え所がなく、そのイメージから来る刷り込みみたいな心理が作用しているのではなかろうか。
たぶん読む人ごとに感想が全く違う作品だと思う。
「第六回高校生直木賞」受賞作とのことだが、高校時代の私がこの作品を読んだらまた全然違った『熱帯』を感じられたのだろう。
今まで対義だと思っていた「純文学」と「大衆文学」の分類についてもきちんと知ろうと思えた。
大いに影響を受けた作品。
1刷
2021.9.28