神様の暇つぶし (文春文庫 ち 8-5)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167919054

作品紹介・あらすじ

親を亡くし一人になった20歳の夏、父よりも年上の写真家の男と出会った――。男の最後の写真集を前にあのひとときが蘇る。妙に人懐っこいくせに、時折みせるひやりとした目つき。臆病な私の心に踏み込んで揺さぶった。彼と出会う前の自分にはもう戻れない。唯一無二の関係を生々しく鮮烈に描いた恋愛小説。 解説・石内都

感想・レビュー・書評

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  • なんと描写がリアルで生々しく食欲、性欲といった人間の濃い欲望に圧倒された物語だった!
    最初は歳の差が離れすぎてえっ?!って思ったけど、最後はむしゃむしゃと喰って喰われて依存しあう二人の世界が美しいと思ってしまうほどに。
    たったひと夏の間を共に過ごした全さんは藤子にとって男を教えてくれたことだけではなく生きた証をもしっかり刻んでいったし、彼に恋をして愛していた瞬間が生涯写真集という形で永遠に残されると思うと彼の執念深さを感じさせられた。

  • 何気なく手に取り、初めて千早茜さんの作品を読んだので、あまり参考にならない感想かもしれませんが、ご了承ください。

    題名である『神様の暇つぶし』の意味する所は、最後まで読み切った今でも色んな解釈が出来る一方で、どれも当てはまりが良いと感じていない。おそらく、それが本作の魅力なのかも知れない。

    自身の見た目や生い立ちにコンプレックスを抱えた女子大生は、日常に何ら刺激もなく生き甲斐もなく過ごしている中、ある日、父親と同然の年齢くらいのカメラマンの男性と出逢う。この出逢いをきっかけに二人の奇妙な生活が始まり、そして女子大生は男性に恋心を抱いていく。しかし男性は猫のように付かず離れずを繰り返しながら、女子大生は男性に振り回されることに苦悩しつつも、恋愛の底なし沼にどっぷりと浸ってしまう。

    ここまでの恋愛模様の他にも登場人物数名の恋愛の形が描かれており、多様性だったり、恋愛は年齢を超えると言ったメッセージ性も込められていることは分かるが、どうしてもハッピーエンドでない作品は私個人として好みでないため、申し訳ないですが星3つ。

    しかし、千早茜さんの『恋愛』の心理描写は、とても繊細かつ共感しやすいため、没頭しやすい作品でした。

    ちなみに100ページ目のやり取りは大好き(笑)

  • 美しい表現と、濃密で情熱的な物語。
    女にしてくれた彼は、この先も彼女の中で、神様として揺るがない存在で居続けるのだろう。

  • 千早さんの作品2冊目です。
    もがきながら、必死に生きる
    男女の生き様にとても惹かれていっきに
    読んでしまいました。
    年齢差があるからこその純愛を感じ
    心の奥にある感情にふるえました。

    友達の里見君とのやりとりがとても
    温かく優しい気持ちになり
    こんな友達がいたらいいなぁと思いました。

    ふじこの食べっぷりが気持ちよく
    生きることの難しさと同時にたくましさを
    感じエネルギーをたくさんもらいました。

  • 父が死んでひとりぼっちになり、停滞していた藤子の時間を動かしてくれたのは、近所の写真館の息子で30歳ぐらい年上のカメラマンの全さんとの出会いでした、なんて。しかも年上の余裕と、危なっかしさをあわせもっていたら恋に落ちてしまいますよね。残された藤子の方が辛いかもしれないけど、全さんが最後に「死期が近づいたら味覚が変わるとか、世界が違って見えるとか、言うけどそれって死にたくないくらい大切なものがある奴だけなんだろうな」、「なんかわかったわ」と言うぐらい大切に思われていたんだなということを、誇りに思って進んでいってくれればいいなと思いました。

  • いただき本

    写真家のオヤジとプリミティブなふじこ。
    限りなく生々しく、生きている感溢れる関係性だが、その根っこは純愛だと思う。
    身体の関係に目が向きがちだけど、まっすぐな思いとか、使命とか、そういうのって心のことだよね。
    読みやすく、沁みた一冊。

  • 普通の恋愛小説、、ではなく歪な恋愛小説。
    それは恋なのか愛なのかそれとも執着なのか依存なのか、あるいは呪いなのか。
    人の愛を、人の心を、求めてしまう感情はきっと誰にでもあって。承認欲求も性的欲求も全て自分以外の人間からしか満たして貰えない。なんて醜い生き物だろう。なんて傲慢な生き物を神様は作ったのだろうと思ってしまう小説だった。
    「みんな自分だけは綺麗な恋愛をしている」と思っているんだろうなと共感した。
    思い通りにいかない恋ほど恋らしい恋はない。恋に狂わされていても狂わされているその瞬間がいちばん幸せで相手を神様だと思ってしまう恋愛感情は、ある意味宗教的だなと感じた。
    千早茜さんの描く官能的な小説、人間味のある小説が大好きだから今作も出逢えてよかったの気持ち。

  • 全さんのような、どこか掴みどころのないふわふわしてるのに鋭い目線をもっているような人を身近に知っていたので妙に納得しながら読み進められました。私の知っているその人は全さんほど格好良くはないけど笑

    藤子は藤子で全さんによって止まっていた時が進み出すし、全さんは生の終わりに向かってはいるが最後まで全さんらしさを貫き通す。年の差恋愛が全面に描かれた話ではあったが、そこよりも大きいテーマとして「生」があったように感じました。

    里見が個人的に大好きです。「やっぱり病気は平等だったな」と笑いながら言って死んでいった里見のことを考えると、彼は果たして幸せを感じることができた人生だったのだろうか?と思い胸が苦しくなりました。全さんもまた然り。藤子が出会った人みんな死んじゃったのが心苦しすぎた。

    それでも私の中で色濃く残るであろう作品の一つです。千早茜さん、本当に素敵な文章表現ばかりで…大好きな作家さんです。

  • 千早茜の薄暗い感情を通してこっちの隠していた部分をひん剥かれるような、この感じはなんなのだろう。

    どんなに深く愛し合っていても、お互い自分の物語の中にいる。それが完全に重なることはきっとないんです。だから、僕はあなたの話を聞きたかった。

    このセリフが刺さったな。同じ時間を過ごしても見ている方向や思っていることは違うのだから、今どう思っているのかをずっと知りたい。

    みんな自分の恋愛だけがきれいなんだよ、て言うのもそう。どんなに間違っているように見えても、それぞれの正義があるのよ。

  • 読み終わってすぐに『どうして装丁が"りんご"なのだろう』と不思議に思った。
    物語の鍵になるのは、同じ果物でもりんごではなく桃なのに、何故?と。

    神様とりんごといえば連想されるのは禁断の果実。
    食べることを禁じられていたのに、口にしてしまったアダムとイブ。その結果、ふたりは知恵をつけ、神によりエデンの園を追放されてしまう。
    一度口にしてしまえば、口にする前には戻れない。

    藤子も似たようなことを語っている。
    「誰かと関わると、もう出会う前の自分には戻れなくなってしまう」と。
    全さんと出会い、彼が世界のすべてと思うほどの恋を知ってしまった藤子。
    残り僅かの命であるのに、命の塊のような藤子と出会い、その生命力に魅入られ、嫉妬し、執着心を覚えてしまった全さん。
    関わってしまったことで、以前の自分たちには戻れなくなったふたり。ふたりは各々にとって禁断の果実だったのかもしれない。

    こんなにも烈しい恋愛なんて、もうできないし、したくないなぁ。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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