死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947095

作品紹介・あらすじ

妻は殺された--
封印された呪いの扉を開いて……。

解っていても騙される!
叙述トリックの鬼才が仕掛ける騙しの迷宮によう
こそ!

一本の電話が、彼を栄光の頂点から地獄へと突き落
とした。──脳外科学会で、最先端技術の論文発表
を成功させた大学助教授・堂上富士夫に届いたのは
、妻が田沢湖で溺死したという報せだった。彼女は
中学時代に自らが遭遇した奇妙な密室殺人の真相を
追って同窓会に参加していたのだった。現地に飛ん
だ堂上に対し口を重く閉ざした関係者たちは、次々
に謎の死に見舞われる。
(旧題「田沢湖殺人事件」)

トクマの特選!
イラスト 田中寛崇


〈目次〉
プロローグ 

第一部 湖畔に死す
 第一章 堂上富士夫
 第二章 堂上美保
 第三章 元村佐十郎
 第四章 谷原卓二


第二部 密室の過去
 第一章 秋庭ちか子
 第二章 名城貞吉
 第三章 狩野友市
 第四章 北田健一
 第五章 和久井憲三 
 第六章 浪風理太郎
 第七章 添畑明子


第三部 死者の手紙
 第一章 和久井俊一
 第二章 米山年男
 第三章 山口照雄
 第四章 金沢久子
 第五章 谷原奈那
 第六章 真犯人

エピローグ

解説 千街晶之

感想・レビュー・書評

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  • 昔ながらの旅情トラベル本格ミステリー復刊。現在と15年前の事件が交錯していき… #死の湖畔 #追憶

    ■あらすじ
    脳外科医である主人公は、田沢湖で妻が亡くなったとの連絡を受ける。同窓会に出席していた妻だったが、どうやら学生時代の殺人事件の真相を追っていたようだ。過去と現在の事件が重なり合っていくうちに、連鎖的に事件が発生していき…

    ■きっと読みたくなるレビュー
    いいですね~ 昔ながらの火曜サスペンス劇場を見ているようです。
    残念ながら作者は他界されているようで、本作は復刊とのこと。かつての隠れた傑作をじっくりと堪能させていただきました。

    本作なによりも、しっとりとした昔ながらのミステリー観が素敵。
    時代背景は昭和40年代、田沢湖や秋田県各地の情景が目に浮かぶ。電車やタクシー、公衆電話や手紙といったかつての推理小説やドラマで見てきた小道具が生きていて、スマホやネットであふれる現代にはないノスタルジーな魅力がたっぷりです。

    また15年前の事件の扱いがめっちゃ上手で、真相が分かるようで分からない。
    少しずつ手掛かりが見えては消えていく様は、かつての推理アドベンチャーゲームをやっているかのようで、わくわくが止まらない展開なんですよね。

    現代ミステリーにも引けを取らない意外性もあり、本格ミステリーファンとしても納得の一冊。こんな面白い本を復刊していただき大変ありがたい。続編も出ているようなので、続けて読みます!

    ■きっと共感できる書評
    世の中にこんなに素晴らしい景色があるのか。
    誰しも一度くらいは感動した景色、風景というものがあるでしょう。

    私が学生時代に友人たちと花火大会に行った時のこと。当時は観覧場所の制限がゆるく、打ち上げ場所からかなり近隣で見ていました。その日は大きな花火が打ち上げられるとの噂を聞いていて、友人たちと期待をして空を眺めていたのです。

    その日、最後の花火。真っ暗な夜空にはじけていく。
    少しずつ視野全体に花火の輪が広がっていくのですが、なんとその花火はあまりにも大きすぎて、視野の限界を超えてもなお、さらに広がっていくのです。
    私はただ感嘆の声をあげることしかできずに、友人たちと笑いながら過ごした一夜を今でも思い出します。

    さて悲哀と感動に包まれた本作のラストシーン。
    私もきっとこんな時が来るのかと、花火の景色を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになりました。

  • 脳外科医・堂上富士夫に届いた電話──それは、妻の美保が田沢湖で溺死したという知らせだった。美保は中学時代に発生した密室殺人の謎を解明すべく、同窓会へと参加していた。妻はそこで何を知ったのか。富士夫は妻の死と15年前の殺人事件を追う。しかし、関係者が次々と殺されていく連続殺人に巻き込まれて──。

    徳間文庫の復刊プロジェクトの一冊。30年ぶりの復刊と言えども、内容やトリックの切れ味は今なお通じる鮮やかさ。帯の「解っていても騙される!」は言い得て妙だなと。明らかに怪しいポイントはいくつもあれど、それを繋ぐ線が見つからず、最後の最後でアッと言わされた。錯綜する15年前と現在の殺人、しかも過去の殺人は密室!謎の情報量に溺れる楽しさがある。すがりついた板は真実か、それとも嘘か。

    サスペンスと意外性だけではなく、「手紙」というアイテムや「湖畔」というロケーションが哀愁を誘う。妻が亡くなる前に書いたとされる手紙は誰に送られたのか。そこにはどんな真相が綴られていたのか。手紙という形だからこそ、そこに切実な想いが宿るのだなと。湖に眠る妻、追憶の行方。なんとも切ないラストでやりきれなかった。

    詰め込んでやろうと言わんばかりの事件の謎にトリックの種類も豊富。さらに推理や真実の出し方がまた絶妙で憎らしいほど翻弄された(笑) プロの作家が言葉で書く騙し絵は面白くも恐ろしい。

  •  大学教授で脳外科医である堂上富士夫の妻、堂上美保が突然、同窓会に向かったホテルの側の田沢湖で、死体で見つかる。同上の妻はミステリ作家でもあり、15年前に起こった事件について調べている様子だった。
     15年前に学校で起こった殺人事件。名城貞吉という元教師が、殺害される。容疑者だった和久井俊一は、自殺。美保はこの事件について調べている様子だった。
     美保の死は自殺なのか、他殺なのか。他殺だとすれば、15年、前の事件と関わりがあるのか。美保が、15年前の事件の真相を知り、その真犯人に殺害されたのではないかと考え、堂上富士夫と、谷原奈那が捜査をする。
     この作品には2つの事件がある。15年前の名城貞吉殺し。この事件では、殺人犯とたまたまその場に出くわして、死体遺棄がされたことを黙っていた3人の学生がいる。その3人が、15年後に、相次いで死亡することで、つながりがあり、二つの事件の犯人が同じであるとミスリードしていく。
     15年前の事件の真相を書いた手紙があるが、その手紙には、5年前の堂上富士夫が妻に行った脳の手術が失敗であったことが書いてあった。美保は夫の名誉を守りるため、自身が闘病のつらさに耐えられないと感じたため自殺していた。
     15年前の事件の犯人は、本村という男。この男も作中で自殺する。美保の死は自殺で、15年前の事件の死体遺棄の目撃者でもあった3人、谷原卓二、秋庭ちか子、添畑明子は、脳手術の失敗を隠蔽するため、堂上富士夫に殺害されていた。
     15年前の事件とのつながりがあると見せかけるミスディレクションは巧み。脳手術が失敗していると思わせるような伏線もあり、最後に、真の動機が分かる部分は意外性もある。
     ただし、最後の最後で一気に真相が分かるが、つながりがさほどスムーズでなく、2つのミステリが無理やりくっついている印象がある。添畑明子がベランダにいたというトリック、長靴のサイズの違いから、死体遺棄があったことを推理する点等の小技もあり、堂上富士夫の谷原卓二殺しには時刻表を使ったトリックまで出てくる。
     盛沢山でもあるが、ごった煮的で、あまりエレガントな構成とはいえない。その辺りが中町信らしくもある。
     トリックそのものは、時刻表のトリックも、ベランダを利用した消失トリックも、いずれもチープ。この作品のウリは、15年前の事件の真犯人が現在の事件の犯人であると見せかけ、その捜査をしていた人物が犯人。動機は、脳手術の失敗を隠すためで、その伏線はあからさまに示されている。この「伏線」の使い方が、中町信作品のウリでもある。
     解説でも書かれているが、都合よく人が死に過ぎるなど、リアリティはない。叙述トリックを使った本格ミステリで、中の上くらいか。★3で。

  •  日本脳外科医の第一人者・堂上に届いたのは、妻が田沢湖で遺体で発見されたという知らせ。彼女は15年前のある事件の真相を追って同窓会に参加していた。15年前に殺されたある男とその事件の容疑者、そして壊された家族、妻の死の動機は一体どこにあるのか。過去の事件に口を閉ざす関係者は次々と殺されていく、残された手掛かりは妻が最期に残した手紙、そこに宛てられたタンちゃん呼ばれた人物・・・。

     1983年刊行の田沢湖殺人事件の改題および徳間文庫からの復刊ですね。死の湖畔三部作ということでこの後に二作出るようですが内容的な繋がりはなかったはず。新本格以前の作品であり、携帯電話は無し、時刻表有りといった80年代の雰囲気満載の作品ですがトリックについては中町信さんらしい現代に匹敵するインパクト強めなものになってます。


    妻の死は他殺に見せかけるように描かれた自殺であり、その後の一連の殺人は妻の自殺を起因とする夫・堂上の犯行という全てがひっくり返った真相。確かに過去の手術は失敗してたとはいえ、勝手に検査されて患者に自殺されてしまったら悔やんでも悔やみきれないだろうなぁ。そして妻が自信を犠牲にして守った自身の脳外科医という名誉を守るために一連の事件を起こす。連続殺人事件に15年前の事件が関係していなかったという当初の根底を覆すトリックであった。

  • 後期作品と初期の復刊作品読んでいるからこそ言えますが、やっぱり人がバタバタ死にすぎ。
    とはいえ、この作品はミステリの面白さを十分味わわせてくれています。
    最初の死の意味あいを考えながら展開の二転三転はめちゃくちゃいい。

  •  故・中町信氏は、多数の著作を残したものの、現在ほとんどが絶版である。一部作品が、改題の上創元推理文庫から復刊され、ミステリ好きの間ではちょっとした話題となったが、徳間文庫からも復刊が進んでいるらしい。

     本作は1983年に『田沢湖殺人事件』として刊行され、今年1月に改題の上徳間文庫から復刊された。今後「死の湖畔三部作」として刊行予定だそうで、徳間書店としても力を入れているようだ。何だかどこかで見たようなカバーイラストだな。

     他作品同様に、本作も過度な期待はせずに読み始めた。意外や意外と言ったら故人に大変失礼かもしれないが、自分が読んだ数少ない中町信作品の中では最も面白かった。内容は明解かつ読みやすい。こんなに文章がこなれていたっけ?

     脳外科学会の論文発表で喝采を浴びた直後、妻の美保が田沢湖で溺死したという報せを受けた、堂上富士夫。美保は同窓会に出席していて、15年前の「事件」を調べていたという。悲しみに浸る間もなく、堂上は田沢湖に急行する。

     美保の死を発端に、15年前の関係者たちが次々に死んでいく、お約束の展開。見破る人は見破るのかもしれないが、フェアとは言い難い。あの手法のバリエーションではあるだろう。でも、他作品と比較すると実にスマートなのだ。

     混乱しない程度に繰り返されるどんでん返しと、タイミングよく提示される新情報。一言で述べると、バランスが大変よい。内容もさほど古びていないし、タイトルからして二時間ドラマの原作として打ってつけではないだろうか。

     密室あり、時刻表あり、アリバイありのフルコース。解説にある通り、動機という面でも興味深い。詳しくは書けないが、あまりに自分勝手で苦笑した。共感はできないが、思考回路として理解はできる。これが人間の悲哀というものか。

     カルト的に評価される中町信氏だが、本作は一般読者でも手を出しやすいだろう。デビュー作に当たる『模倣の殺意』など創元推理文庫のラインナップとは毛色が異なるので、マニアには「読みやすさ」に不満が残るかもしれない。

  • 書き割りじみた情景描写を背景に、個性の感じられないキャラクターが、トリックやプロットの都合で、さしたる感慨もなくパタパタと殺されていく、血も涙もない(褒め言葉)正統派パズラー。パズルに無関係なものを思いきりよく切り捨てたような作風で、今の作家さんなら大山誠一郎氏辺りを思わせる。何度も底が抜ける多重解決といい、これ一本に注がれたアイデアやトリックの量は半端ない。ただ個々のトリックは割と軽めで、それで数を撃ったような気もしないではない。

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著者プロフィール

1935年群馬県生まれ。早稲田大学文学部卒業。 66年に「闇の顔」で第1回双葉推理賞候補になる。『新人賞殺人事件』(後に『模倣の殺意』に改題)で単行本デビュー。叙述トリックを得意とし、『空白の殺意』『三幕の殺意』『天啓の殺意』などの著作がある。2009年逝去。

「2022年 『死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#2 告発(accusation) 十和田湖・夏の日の悲劇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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