死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)
- 徳間書店 (2022年1月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
- / ISBN・EAN: 9784198947095
作品紹介・あらすじ
妻は殺された--
封印された呪いの扉を開いて……。
解っていても騙される!
叙述トリックの鬼才が仕掛ける騙しの迷宮によう
こそ!
一本の電話が、彼を栄光の頂点から地獄へと突き落
とした。──脳外科学会で、最先端技術の論文発表
を成功させた大学助教授・堂上富士夫に届いたのは
、妻が田沢湖で溺死したという報せだった。彼女は
中学時代に自らが遭遇した奇妙な密室殺人の真相を
追って同窓会に参加していたのだった。現地に飛ん
だ堂上に対し口を重く閉ざした関係者たちは、次々
に謎の死に見舞われる。
(旧題「田沢湖殺人事件」)
トクマの特選!
イラスト 田中寛崇
〈目次〉
プロローグ
第一部 湖畔に死す
第一章 堂上富士夫
第二章 堂上美保
第三章 元村佐十郎
第四章 谷原卓二
第二部 密室の過去
第一章 秋庭ちか子
第二章 名城貞吉
第三章 狩野友市
第四章 北田健一
第五章 和久井憲三
第六章 浪風理太郎
第七章 添畑明子
第三部 死者の手紙
第一章 和久井俊一
第二章 米山年男
第三章 山口照雄
第四章 金沢久子
第五章 谷原奈那
第六章 真犯人
エピローグ
解説 千街晶之
感想・レビュー・書評
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昔ながらの旅情トラベル本格ミステリー復刊。現在と15年前の事件が交錯していき… #死の湖畔 #追憶
■あらすじ
脳外科医である主人公は、田沢湖で妻が亡くなったとの連絡を受ける。同窓会に出席していた妻だったが、どうやら学生時代の殺人事件の真相を追っていたようだ。過去と現在の事件が重なり合っていくうちに、連鎖的に事件が発生していき…
■きっと読みたくなるレビュー
いいですね~ 昔ながらの火曜サスペンス劇場を見ているようです。
残念ながら作者は他界されているようで、本作は復刊とのこと。かつての隠れた傑作をじっくりと堪能させていただきました。
本作なによりも、しっとりとした昔ながらのミステリー観が素敵。
時代背景は昭和40年代、田沢湖や秋田県各地の情景が目に浮かぶ。電車やタクシー、公衆電話や手紙といったかつての推理小説やドラマで見てきた小道具が生きていて、スマホやネットであふれる現代にはないノスタルジーな魅力がたっぷりです。
また15年前の事件の扱いがめっちゃ上手で、真相が分かるようで分からない。
少しずつ手掛かりが見えては消えていく様は、かつての推理アドベンチャーゲームをやっているかのようで、わくわくが止まらない展開なんですよね。
現代ミステリーにも引けを取らない意外性もあり、本格ミステリーファンとしても納得の一冊。こんな面白い本を復刊していただき大変ありがたい。続編も出ているようなので、続けて読みます!
■きっと共感できる書評
世の中にこんなに素晴らしい景色があるのか。
誰しも一度くらいは感動した景色、風景というものがあるでしょう。
私が学生時代に友人たちと花火大会に行った時のこと。当時は観覧場所の制限がゆるく、打ち上げ場所からかなり近隣で見ていました。その日は大きな花火が打ち上げられるとの噂を聞いていて、友人たちと期待をして空を眺めていたのです。
その日、最後の花火。真っ暗な夜空にはじけていく。
少しずつ視野全体に花火の輪が広がっていくのですが、なんとその花火はあまりにも大きすぎて、視野の限界を超えてもなお、さらに広がっていくのです。
私はただ感嘆の声をあげることしかできずに、友人たちと笑いながら過ごした一夜を今でも思い出します。
さて悲哀と感動に包まれた本作のラストシーン。
私もきっとこんな時が来るのかと、花火の景色を思い出し、少しだけ寂しい気持ちになりました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
脳外科医・堂上富士夫に届いた電話──それは、妻の美保が田沢湖で溺死したという知らせだった。美保は中学時代に発生した密室殺人の謎を解明すべく、同窓会へと参加していた。妻はそこで何を知ったのか。富士夫は妻の死と15年前の殺人事件を追う。しかし、関係者が次々と殺されていく連続殺人に巻き込まれて──。
徳間文庫の復刊プロジェクトの一冊。30年ぶりの復刊と言えども、内容やトリックの切れ味は今なお通じる鮮やかさ。帯の「解っていても騙される!」は言い得て妙だなと。明らかに怪しいポイントはいくつもあれど、それを繋ぐ線が見つからず、最後の最後でアッと言わされた。錯綜する15年前と現在の殺人、しかも過去の殺人は密室!謎の情報量に溺れる楽しさがある。すがりついた板は真実か、それとも嘘か。
サスペンスと意外性だけではなく、「手紙」というアイテムや「湖畔」というロケーションが哀愁を誘う。妻が亡くなる前に書いたとされる手紙は誰に送られたのか。そこにはどんな真相が綴られていたのか。手紙という形だからこそ、そこに切実な想いが宿るのだなと。湖に眠る妻、追憶の行方。なんとも切ないラストでやりきれなかった。
詰め込んでやろうと言わんばかりの事件の謎にトリックの種類も豊富。さらに推理や真実の出し方がまた絶妙で憎らしいほど翻弄された(笑) プロの作家が言葉で書く騙し絵は面白くも恐ろしい。 -
後期作品と初期の復刊作品読んでいるからこそ言えますが、やっぱり人がバタバタ死にすぎ。
とはいえ、この作品はミステリの面白さを十分味わわせてくれています。
最初の死の意味あいを考えながら展開の二転三転はめちゃくちゃいい。
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書き割りじみた情景描写を背景に、個性の感じられないキャラクターが、トリックやプロットの都合で、さしたる感慨もなくパタパタと殺されていく、血も涙もない(褒め言葉)正統派パズラー。パズルに無関係なものを思いきりよく切り捨てたような作風で、今の作家さんなら大山誠一郎氏辺りを思わせる。何度も底が抜ける多重解決といい、これ一本に注がれたアイデアやトリックの量は半端ない。ただ個々のトリックは割と軽めで、それで数を撃ったような気もしないではない。