死の湖畔 Murder by The Lake 三部作#1 追憶(recollection) 田沢湖からの手紙 (徳間文庫)

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  • 徳間書店 (2022年1月12日発売)
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感想 : 7
3

 大学教授で脳外科医である堂上富士夫の妻、堂上美保が突然、同窓会に向かったホテルの側の田沢湖で、死体で見つかる。同上の妻はミステリ作家でもあり、15年前に起こった事件について調べている様子だった。
 15年前に学校で起こった殺人事件。名城貞吉という元教師が、殺害される。容疑者だった和久井俊一は、自殺。美保はこの事件について調べている様子だった。
 美保の死は自殺なのか、他殺なのか。他殺だとすれば、15年、前の事件と関わりがあるのか。美保が、15年前の事件の真相を知り、その真犯人に殺害されたのではないかと考え、堂上富士夫と、谷原奈那が捜査をする。
 この作品には2つの事件がある。15年前の名城貞吉殺し。この事件では、殺人犯とたまたまその場に出くわして、死体遺棄がされたことを黙っていた3人の学生がいる。その3人が、15年後に、相次いで死亡することで、つながりがあり、二つの事件の犯人が同じであるとミスリードしていく。
 15年前の事件の真相を書いた手紙があるが、その手紙には、5年前の堂上富士夫が妻に行った脳の手術が失敗であったことが書いてあった。美保は夫の名誉を守りるため、自身が闘病のつらさに耐えられないと感じたため自殺していた。
 15年前の事件の犯人は、本村という男。この男も作中で自殺する。美保の死は自殺で、15年前の事件の死体遺棄の目撃者でもあった3人、谷原卓二、秋庭ちか子、添畑明子は、脳手術の失敗を隠蔽するため、堂上富士夫に殺害されていた。
 15年前の事件とのつながりがあると見せかけるミスディレクションは巧み。脳手術が失敗していると思わせるような伏線もあり、最後に、真の動機が分かる部分は意外性もある。
 ただし、最後の最後で一気に真相が分かるが、つながりがさほどスムーズでなく、2つのミステリが無理やりくっついている印象がある。添畑明子がベランダにいたというトリック、長靴のサイズの違いから、死体遺棄があったことを推理する点等の小技もあり、堂上富士夫の谷原卓二殺しには時刻表を使ったトリックまで出てくる。
 盛沢山でもあるが、ごった煮的で、あまりエレガントな構成とはいえない。その辺りが中町信らしくもある。
 トリックそのものは、時刻表のトリックも、ベランダを利用した消失トリックも、いずれもチープ。この作品のウリは、15年前の事件の真犯人が現在の事件の犯人であると見せかけ、その捜査をしていた人物が犯人。動機は、脳手術の失敗を隠すためで、その伏線はあからさまに示されている。この「伏線」の使い方が、中町信作品のウリでもある。
 解説でも書かれているが、都合よく人が死に過ぎるなど、リアリティはない。叙述トリックを使った本格ミステリで、中の上くらいか。★3で。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫36
感想投稿日 : 2022年12月29日
読了日 : 2022年12月29日
本棚登録日 : 2022年12月29日

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