海がきこえる 〈新装版〉 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947590

作品紹介・あらすじ

天才YA作家 氷室冴子 デビュー45周年
激しくも切ない「90’s青春グラフィティ」


「あたし、高知に行くまでは世間とうまくやってる
いい子だったのよ。あれからずっと世間とずれっぱ
なしの感じがする」大学進学で上京した杜崎拓は
「ある事件」で疎遠になった高校時代の転校生・武
藤里伽子が、地元大学への進学を蹴り東京やな舞い
戻った事を知る。気まぐれな美少女に翻弄されなが
ら、その孤独に耳を澄ました短い日々を回想する拓
に、思いもかけない再会の機会が訪れる。

スタジオジブリの長編アニメーション「海がきこえ
る」の原作。キャラクターデザイン近藤勝也氏のカ
ラーイラストを34点収録。

トクマの特選!

イラスト 近藤勝也

〈目次〉

第一章 フェアウェルがいっぱい
第二章 マン
第三章 里伽子
第四章 里伽子ふたたび
第五章 やさしい夜
第六章 海がきこえる

あとがき
解説 酒井若菜

感想・レビュー・書評

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  • あなたは『修学旅行先』で、他のクラスの親しくもない異性から突然こんなことを言われたとしたらどうするでしょうか?

     『杜崎くん、お金かしてくれない?』

    そもそも『お金』の貸し借りというものは親しき仲であっても慎重を要するものです。”お金は人を変える”とも言われるくらい、その存在は人の心を支配もするものです。ましてや親しくもない相手から旅先でそんなことを言われても戸惑うばかりでしょう。

    しかし、そこにこんな前提条件がついたとしたらどうでしょうか?

     『あのね、持ってきた全財産、落としちゃったみたいなのよ』、『ぜんぜん使わないうちに、見当たらなくなったのよ』。

    持ってきた『全財産』と言えばとんでもない話です。そもそもすぐに先生に報告すべき内容だと思いますが、そんな提案には『叱られるの、イヤなのよ』と本人は応じません。さて、そんな状況下にあなたはどうするでしょうか?

    さてここに、『修学旅行先』で貸したお金をまさかの形で返してもらう展開が描かれる物語があります。高知市の中・高一貫校を舞台に描かれるこの作品。そんな時代を振り返る東京の大学生となった今の主人公が描かれもするこの作品。そしてそれは、激しくも切ない「90’s青春グラフィティ」の熱さを見る物語です。

    『その年の三月に、ぼくはうまれて二度目の東京の土をふんだ』と、『ある私大に合格して、”上京”した』のは主人公の杜崎拓(もりさき たく)。『田舎出の母子ふたり』はモノレールから電車を乗り継ぎ『最終的に降りたのは、石神井公園』という先に、『駅から歩いて15分くらいのところにある「メゾン英」』にたどり着きます。そして、『築13年で、管理費こみで6万8000円』というアパートを掃除し、買い物もした夜、『いろいろ、世話になりました』と拓がお礼を言う中に東京での一人暮らしが始まりました。母親が帰り、『ひとりになって』、『(ここは、どこ。ぼくはだれ) という状況だ』と思う中に『もしもし、杜崎拓?』と電話が鳴ります。『おれちや、おれ。山尾やー』と話す『電話の主は、かつてのクラスメートの山尾忠志』でした。番号は母親から聞いたと語る山尾の『リカちゃんと連絡ついちゅうき、元気で盛りあがってんのか』と訊く言葉に『なんでここに、武藤里伽子(むとう りかこ)が出てくるがな』と返す拓に『知らんかったが?』と言う山尾は『母親の手前、高知大』を受けたものの隠れて東京の大学も受験し、合格後『卒業式のあとのドサクサで』高知を離れたことを説明します。『里伽子と最後に口をきいたのは、たしか学園祭の最終日』、『里伽子は思いきり、ぼくを平手うちし』、『「ばか。あんたなんか最低よ」と罵』られた時でした。あれ以来、ぼくらは口もきいていない』と思う拓。『春から、おなじ街(というか大都市だけども)に住むとわかっていて、里伽子からはなんの連絡もない』と思う拓は、『連絡がないのはつまり、連絡するつもりがないからだ』と考えます。そんな拓は、過去を振り返る中に『里伽子をすごく好きだったことに気がついて、とりかえしのつかないような哀しい気持ちにな』ります。『武藤里伽子は、ぼくが五年生の秋に、編入してきた転校生』と里伽子との出会いを思い出す拓は、高知市にある『中・高の六年間一貫教育がウリの私立の名門校』に通っていました。『お坊お嬢の学校とみられていた』学校に、『卒業まで、あと一年というときに編入してきた』里伽子。その情報を知ったのは拓が『世間でいう高二の夏休み中』のことでした。ある日の夕方、親友の松野豊から『ちょっと、学校こいや。いまやったら、まだ間にあうき』と電話を受けて学校へと向かった拓が、『三階の、五年3組の教室』へ入ると、『中庭をみおろす』松野の姿がありました。『今度、ウチの学年に編入してくる女子やと。武藤里伽子っていうがやと』と指差す松野に『おまえ、なんか興奮してないか?』と訊く拓。そんな拓に『興奮するよ、そりゃ。楽しみが増えるじゃんか。武藤はすげえ美人だぞ』と松野は続けます。そして、教室を出た拓は、松野と一旦分かれて自転車を取り校門へと向かうと、そこには『松野と、白い半袖ブラウスにチェックのスカートをはいた女の子が立ち話をしてい』ました。『こいつ、4組の杜崎拓』と松野に紹介された拓は『ぺこっと頭をさげ』ます。それに、『ひょい、と顎をしゃくるようにした』里伽子。『薄情そうなうすい唇をぎゅっとひき結ん』だ里伽子の『第一印象は、一にも二にも、まっ黒な髪だった』と思う拓。そんな中、『じゃ、あたし、これで帰る。二学期からよろしくね』と言うと『さっさと校門を出ていった』里伽子。そんな里伽子を見送る中に『(女は、みてくれで決めるきな)』と思う拓は『やっぱり武藤里伽子というの』は『特上の美少女』と考える一方で、『いかにも東京から来ましたという都会風の雰囲気に、すこしアテられていたのかもしれない』と振り返ります。そんな拓と里伽子との出会いの先に、高校時代の思い出と、大学生になった今の拓の日常が描かれていきます。

    “大学進学で上京した杜崎拓は「ある事件」で疎遠になった高校時代の転校生・武藤里伽子が、地元大学への進学を蹴り東京に舞い戻った事を知る。 気まぐれな美少女に翻弄されながら、その孤独に耳を澄ました短い日々を回想する拓に、思いもかけない再会の機会が訪れる”と内容紹介にうたわれるこの作品。1993年2月に刊行されたこの作品は、元々、徳間書店のアニメ雑誌「アニメージュ」に23回にわたって連載されていた作品です。その後、同年中にアニメ化され、さらには武田真治さん、佐藤仁美さん主演で1995年にテレビドラマとしても放送されるなど人気を博した作品でもあり、このレビューを読んでくださっている方の中には懐かしい目をされる方もいらっしゃるかも知れません。そんな時代から30年の年月が経過し、すっかり歴史の中に埋もれてしまったこの作品…というのが本来なのだと思いますが、2008年に亡くなられた作者の氷室冴子さんのデビュー45周年を記念して”新装版”として2022年7月に徳間書店から新たに刊行されています。とは言え、私はこの作品について全く知識がなく、読書の次の一冊を探す中にたまたまジャケットが目に留まり手にしたというのがこのレビューに行き着くまでの経緯です。”新装版”のジャケットからは、この作品がまさか30年前の作品だとは思いもよりませんでした。そして、さらに驚いたのはあまりにも時代を感じさせない”青春物語”の姿がそこにあったということです。私は、現代に過去を描く作品のある意味での”不自然さ”はそれも一つの味としてあまり気にしない人間なのですが、それでも当時そのままに書き下された作品のリアルさにはどこまでも魅かれるものを感じます。そのため、”昔”の作品も好きではあります。この作品にもそんな表現を探して読んでみたのですが、驚くほどに時代を感じさせる表現が登場しません。それっぽいのは次の二つくらいでしょうか?

     『土地カンやしなうために地図でも買おうかと、1万円札をポケットにつっこんで、駅まえの書店にいった』、『夕方まで、じっくりと地図をながめて方向感覚をつちかった』

    今や世界中のどこにいてもその場所の地図というものはスマホで簡単に見ることができますが、かつては紙の地図がすべての頼りという時代だったということが分かる箇所です。もう一つは街の様子です。

     『目のまえに、お城みたいな新しい都庁がそびえていて、その向こうにも、高層ホテルが建っていた』

    1990年12月に竣工した東京都庁舎。『お城みたいな』は今でもそんな雰囲気はありますが、『新し』くはありませんね。今や30年で雨漏り対策に1,000億円を注ぎ込んでいるといるという残念な裏事情も抱える東京都庁舎。いずれにしてもこの程度しか時代を感じさせるものはありません。てっきり”新装刊”に合わせて時代表現を消すために手を入れられたのだと思いましたが、氷室さんはすでにお亡くなりになっていらっしゃいますからそれは不可能です。意図されたのか、こういう作風なのかは存じ上げませんが、いずれにしても物語の舞台描写に”古くささ”を全く感じさせないのがこの作品だと思いました。

    では、そんなこの作品について表現上の特徴を三つご紹介します。まず一つ目はレビューに書くことができないものです。この作品の表紙は物語のヒロインとも言える武藤里伽子が読者を睨みつけるかのようなインパクト絶大なものです。このイラストは、スタジオジブリで、アニメ版の「海がきこえる」のキャラクター設計と作画監督をされた近藤勝也さんによるものです。そして、この作品には、近藤勝也さんが描かれたイラストが作品のあちこちに散りばめられています。それは物語の内容に沿うものであり、作品を読む読者の頭の中に浮かぶイメージを絶妙に補完していきます。私はアニメ版を見たことはないですが、アニメ版を見たことがある方にはイメージがより膨らむのではないでしょうか?

    次に二つ目ですが、この作品では、あれ?と思う表現が全編にわたってなされていきます。この作品は終始、杜崎拓視点で描かれていますが、そんな本文中に、”( )”で括られた文章が幾つも登場します。前後の文章とともに抜き出してみます。

     ・『自分のやったことを後悔はしてなかったけれど、かといって、(バカしたなァ。母さんに知れたら、叱られるなァ)と脅えるだけの子供らしい判断力も、ちゃんとあった』。 

     ・『小浜の取り乱しようよりも、(あの、自分勝手な里伽子なら、それくらいやるかもな)という気がしたのだ』。

    “( )”内は拓の心の声と言うべきものだと思いますが、”( )”で括らなくても良いように思います。しかし、この表現の工夫によって、拓の内面を垣間見る感がより強調されるのは間違いないと思います。私は氷室冴子さんの作品はこれが初めてなので他の作品でも同じなのかは分かりませんが、間違いなくこの作品の一つの特徴だと思いました。

    次に、三つ目として美しい比喩表現を抜き出してみましょう。まずは、『夕闇の奥に、ぼうっと浦戸湾の海が浮かびあがってみえた』という情景の描写です。

     『海沿いに建っているふたつのリゾートマンションの夜光灯が反射して、海の表面は鏡の粉をまいたようにきらきらと光っていた。そのむこうの夜の海には、漁船のあかりが、ひとだまのように尾をひいて、ぷかぷかと動いていた』。

    『漁船のあかり』を『ひとだま』に比喩し、それを『ぷかぷかと動いていた』と書く氷室さん。これは独特です。とは言え、昨今『ひとだま』という言葉も聞かなくなりました。ある意味これも時代を表しているかもしれません。もう一つは里伽子とある場所で偶然に再開する拓という場面の描写です。

     『ぼくと里伽子の間にさざめいていた連中が、まるでモーゼの海みたいにサーッと割れたような気がした』。

    誰もが知る『モーゼの海』割れに比喩する離れ業を見せる氷室さん。これは面白いですね。どことなくアニメの絵的な表現にも感じます。以上二つを抜き出してみましたが、そのいずれにも登場するのが『海』です。そう、この作品「海がきこえる」にも含まれる『海』ですが、一方で作品中に「海がきこえる」という表現がストレートに登場するわけではありません。しかし、この作品では全編に渡って『海はおだやかに光っていた』、『海の音がきこえた』、そして『遠い海の音をききながら』というように『海』を強く感じる表現があちこちに登場します。『海』とは切り離すことができないのがこの作品、そこに魅力を感じる作品だと思いました。

    そんなこの作品は、高知に生まれ、高知の中・高一貫校で学び、大学から東京に出てきた杜崎拓が主人公を務めます。物語には大学生の今を生きる拓の描写と、高校時代の拓の描写の両方が描かれていきますが、その双方に共通して登場する人物、それこそが拓が通う学校に途中から編入してきた武藤里伽子です。そもそもこの作品はこんな風に始まります。

     『いろいろ問題はあったけれど、やっぱりすべては里伽子に戻ってゆくんだと思う』。

    物語には、この冒頭の一文が暗示する『いろいろ問題はあった』というその数多の『問題』が描かれていきます。読者としては、物語を読む中で里伽子という女性がどのような女性なのかに興味が沸きます。そんな読者に冷水をかけるかのように里伽子の第一印象はこんな文章で語られます。

     『あのとき里伽子は思いきり、ぼくを平手うちした。あげくに、「ばか。あんたなんか最低よ」と罵り、口もききたくないときっぱり断言した』。

    物語のヒロインとも言える里伽子に期待した読者にこれ以上ないインパクトを与える登場の仕方です。その後も物語中に登場する里伽子はとにかく強烈という言葉が似合う存在です。中でもインパクト最大級なのが、物語の中盤をダイナミックに描いていく展開の種蒔きともなる里伽子のこの言葉です。

     『杜崎くん、お金かしてくれない?』

    高校生活の最後を飾るのが、ハワイへの修学旅行。これだけ聞くと羨ましいと感じますが、そんな行き先で『翌日は日本に帰るという最後の日』に、突然里伽子に声をかけられた拓。そもそもクラスも異なり、『ぜんぜん、有名人じゃなかった』という拓は、『なによりもぼくの名前を知っているのがふしぎ』とさえ感じます。そして、6万円という大金を貸すことになる拓。物語は、この大金の行方に大きな展開を見せてもいきますが、とにかく突拍子もないことを言い出す里伽子の強烈さだけが印象づけられます。『里伽子に利用された』と不満な思いを募らせていく拓。しかし、大学生になった今の拓は久々に耳にした里伽子という名前に一つの思いを抱きます。

     『ぼくはそのとき初めて、里伽子をすごく好きだったことに気がついて、とりかえしのつかないような哀しい気持ちになった』。

    そう、この作品は主人公・拓の里伽子への想い、散々に苦労させられ、『利用され』てきたかもしれない一方で、常に気になる存在であった里伽子に対する拓の隠された本心に気づいてもいく、拓の青春を鮮やかに描き出す物語なのだと思いました。

     『ぼくと里伽子の間には、なにもなかった。残念なくらい、なにも…そしてそれは、やっぱり淋しいことだった。ぼくは里伽子が好きだった』。

    1993年2月に単行本として刊行され、アニメ化、テレビドラマ化もされたこの作品。そこには、高知の街に高校生の青春を生きた主人公・拓が、突如、編入という形で目の前に現れた里伽子に翻弄される姿が描かれていました。雰囲気感抜群のイラストの数々に魅せられるこの作品。青春には時代は関係がないことを再確認させられるこの作品。

    眩しいくらいに青春を闊歩する拓や里伽子のあり様に「海がきこえる」という書名が鮮やかに浮かび上がる、時代を超えた素晴らしい作品でした。

  • 氷室冴子さん文学忌 1957.1.11〜2008.6.6
    藤花忌
    「小説ジュニア」愛読者だったあの頃は、コバルト四天王の一人、氷室冴子さんに 胸キュンの時間をいただいたと記憶しております。
    何をどのくらい読んだか忘れてしまったので、新しめの「海がきこえる」を。アニメ化されたようですね。
    高知の田舎に東京から転校してきた美少女。気が強くて、自由奔放な彼女に、地元の人の良い男子高性が振り回されながら惹かれていく、平成初期の青春小説。強気に隠した孤独が切ない女子です。
    令和のYAも時代反映してよろしいかと思いますが、この時代の健全な恋愛と友情の中間くらいのストーリーもまたよろし。
    振り返れば、「小説ジュニア」の発刊日を待ち焦がれるほどの気持ちは、それ以降なかったかもしれない。まあ、娯楽が少なかったからねえ。

    • おびのりさん
      ジャパネスクもコミックなったよね。
      ちょっとHなのは、富島武夫じゃなかった?
      aoiさん、実は、私は青春時代前だったかも、小説ジュニア。。。...
      ジャパネスクもコミックなったよね。
      ちょっとHなのは、富島武夫じゃなかった?
      aoiさん、実は、私は青春時代前だったかも、小説ジュニア。。。純文学と並行で読んでました。
      ٩( 'ω' )و
      2023/06/06
    • みんみんさん
      おびさん凄い!その人だ(*_*)
      おびさん凄い!その人だ(*_*)
      2023/06/06
    • aoi-soraさん
      小説ジュニアは知らないんだけど、雑誌なんですね
      富島さんのは多分読んでなくて、新井素子、久美沙織、赤川次郎とか読んでたかなぁ?
      懐かしー
      小説ジュニアは知らないんだけど、雑誌なんですね
      富島さんのは多分読んでなくて、新井素子、久美沙織、赤川次郎とか読んでたかなぁ?
      懐かしー
      2023/06/06
  • ベスト『海がきこえる』『海がきこえるⅡ アイがあるから』 | 教文館ナルニア国
    https://onl.sc/aYfQ9L1

    天才YA作家・氷室冴子デビュー45周年を記念して『海がきこえる』新装版発売! 7月8日(金)発売 復刊レーベル〈トクマの特選!〉|徳間書店のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000446.000016935.html

    海がきこえる - 徳間書店
    https://www.tokuma.jp/book/b608463.html

  • とっても良かった。何が?って言われたら難しいけど、自分が経験した高校生活とは違うけど、でもなんか「わかる」って感じで。
    この本を理解できるんだぜ〜って威張りたい訳じゃなくて、読んでもらえばきっと分かって貰えると思う。時代が全然違う私でもこんなに分かるんだから、きっと誰でもわかるんだと思う。てかだからジブリになるし名作なんだと思う。

  • 大学進学で高知から上京した青年。その一年と少し前に、東京から高知へ転校してきた少女は、とんでもなくわがままで気が強くて、でも…。高校時代の邂逅と東京での再会。
    若さ、恋愛、友情、成長…そんな青春要素がギュッと詰まった、世辞抜きの素敵なお話。この年だから言えるんですけどね(笑)

    ジブリのアニメ化時から知っていましたが、今回初読み。
    青春が、瑞々しく、かといって過度に美化することもなく、描かれています。
    読む年齢によって読後感が変わると思います。

  • ジブリのアニメで有名な作品だが、じつは原作もいい。いや、原作の方が好きかもしれない。まだ読んでいない方は、読まないと損だ。

    高知の高校を出て東京の大学に進学した杜崎拓は、地元の同級生からの電話で、武藤里伽子も東京にいることを知る。てっきり彼女は地元組だと思っていたのに。そこから拓は、里伽子と過ごした高校時代を回想する。
    里伽子は東京から高知にやってきた転校生で、ツンとしてわがままだが、とびきりの美人だった。父親の浮気が原因で両親が離婚し、母親の実家がある高知に連れられてきたのだ。たが、里伽子は本当は父親と暮らしたかった。バイトに精を出していた拓から金を借り、こっそり東京の父親のもとへ行く計画を立てていた。拓も成り行きでそれに同行することになる。
    ところが、父親のマンションを訪れると、父にはすでに新しい家族がいた。裏切られた里伽子は腹いせに元カレを呼び出すが、彼も親友とデキていた。高知にも東京にも、どこにも居場所がない里伽子。そんな痛々しい里伽子を、拓はどうすることもできない。
    拓には松野という親友がいた。松野はもともと里伽子に惚れていたが、二人が隠れて東京にお泊まりしたことが学校にバレ、噂になったあとも、拓との友情は変わらなかった。だが、里伽子をなぐさめる流れで告白した松野は玉砕し、そのことを拓に打ち明ける。心ない言葉で松野を傷つけた里伽子に、拓は平手打ちする。
    一方、松野は松野で、じつは拓も里伽子のことが好きなのだと、あるとき気づいてしまう。親友なのに、あるいは親友であるがゆえに、自分が気を遣われているとわかった彼は、拓を殴って絶交する。そんな気まずい三角関係のまま、彼らは卒業を迎える。
    そして舞台は現在に戻り、拓と里伽子は東京で偶然に再会する。物語が再び動き始める。里伽子で始まった物語は、もう一度里伽子に帰っていく──。

    この小説を一言で表すなら、「ほろ苦い青春」だ。もちろん、こんなドラマチックな展開は、自分の人生にはない。しかし、そうとわかっていても、あり得たかもしれない青春のひとコマをみんな想像してしまうのだ。そしてその味は、なぜか甘酸っぱい心地よいものではなくて、舌の奥でじんわりと苦味が広がるような、なんとも言えない特有の味なのだ。
    われわれは大人になってから「そうか、これが青春の味なのか」と気づく。いや、気づいてはいたけれど、気に入らなかったのだ。あんなもの、もうごめんだ。でも、大人になると、だんだんそれが変わってくる。はじめてビールの味を覚えたときのように、そのほろ苦さを味わえるようになったとき、われわれは青春と和解する。この小説は、そんな青春ソーダの味だ。

  • 待ちに待った新装版!!
    速攻で買いに行きました。
    カラーイラストが豊富で泣きそう。
    ありがとうございます。
    ありがとうございます、続編も新装版待ってます!!

    氷室冴子を読み直したいなあと思って、
    気づいた時にはほとんど手に入らなくなっていて。
    海がきこえる、は絶対欲しかったので本当にうれしい。



    以下、以前書いて登録してあった感想↓
    ちくちくしている青春の香りというか情景というか、あまりに尊すぎて何回か本を閉じた。
    田舎と都会の対比がキレイすぎる。
    高知弁がまた良いのである。

    リカコ、とっても嫌なやつなんだけど、同時にめちゃくちゃいい女で、だからやっぱりまわりは放っておけないんだよな。そうなんだよな。

  • この本がリアルタイムで出た頃自分はもう氷室冴子作品を読んでいなかったので今更ながら初めて読みました。

    もちろん時代的なものもあるけれども不自由だったからこそあった自由を懐かしく思ったりもしました。

    恋愛はもどかしいくらいが一番楽しくて、誰かを好きになった時の幸せな気分をこの作品を通して追体験できたような気がしました。

    自分は千と千尋しかジブリ映画見たことないのだけど「海がきこえる」も見てみたくなりました。

  • 先輩におすすめされたのがきっかけだったのですが、とても良い本で1日で一気に読んでしまいました。

    10代後半から20代始めにかけての時期の瑞々しさにあふれた物語です。懐かしい気持ちと、この年代の生きづらさや苦い思い出の両方がリアルに描かれています。
    里伽子が久しぶりに東京に戻ったら自分の居場所がなくなっていたシーンや、クラスメイトの女の子たちから「つるしあげ」されるシーンは、本心を隠して強がる里伽子を見ていて苦しかったです。でも、それらの情景が杜崎の視点を通じて語られるおかげで、しんどさが少し軽減されて目を背けたくなるはどではなくなっていたような気がします。

    杜崎も杜崎で、気を遣ったり見栄を張ったりで常に周りに振り回されていて可哀想なところがあって同情せずにはいられませんでした。でも誰からも好かれるところはめちゃくちゃ羨ましいなと思いました。

  • ノルタルジックな昭和の恋愛作品写真。思春期の繊細で脆い心理描写や現代からすれば不便にすら感じる社会での恋愛模様が爽やかに書かれていて、読後は後味の良さを味わえました。
    東京から訳アリで高知に来る里伽子は容姿端麗で頭脳明晰ながら、田舎を小馬鹿にし、協調性に欠ける態度をとるといった要するに面倒くさい人物ではありますが、実はかなり繊細で不安定であるという実に人間らしいキャラだと思います。そうした里伽子のことを心に留めておいてしまう杜崎拓の気持ちが少しながらわかってしまう人もいるのではないでしょうか。
    連絡に家の固定電話を使い、本屋で慣れない新天地の地図を買って、コミュニケーションは声でしか行えないやや面倒な時代に、互いに不器用さを隠しきれないながらも次第に心通わせていく面倒な恋愛模様が私は好きでした。

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著者プロフィール

氷室冴子(ひむろ・さえこ)
1957年、北海道岩見沢市生まれ。 1977年、「さようならアルルカン」で第10回小説ジュニア青春小説新人賞佳作を受賞し、デビュー。集英社コバルト文庫で人気を博した『クララ白書』『ざ・ちぇんじ!』『なんて素敵にジャパネスク』『銀の海 金の大地』シリーズや、『レディ・アンをさがして』『いもうと物語』、1993年にスタジオジブリによってアニメ化された『海がきこえる』など多数の小説作品がある。ほか、エッセイに『冴子の東京物語』『冴子の母娘草』『ホンの幸せ』など。 2008年、逝去。

「2021年 『新版 いっぱしの女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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