有栖川有栖選 必読! Selection6 求婚の密室 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947644

作品紹介・あらすじ

美貌の女優・西城富士子の花婿候補は二人にしぼら
れた。莫大な財産と共に彼女を手にするのは誰か?
花婿発表当日の朝、父西城教授と妻が堅牢な地下貯
蔵庫で殺害される。ジャーナリスト・天知昌二郎も
、富士子への秘められた恋情故に、推理に参加。犯
人は思惑含みの十三人の招待客の中に? 錯綜する
謎と著者渾身の密室トリックが炸裂する本格推理。

トクマの特選!
イラスト 涼

〈目次〉

Introduction 有栖川有栖
求婚の密室
Closing 有栖川有栖

感想・レビュー・書評

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  • 女優・西城富士子の花婿を決めるパーティに招待されたジャーナリスト・天知。しかし発表当日の朝、富士子の両親が密室で毒死!これは心中か?他殺か?富士子と惹かれ合う天知は真相を追うが──。

    前作『他殺岬』に続いて、天知父子が主人公のミステリ。初の密室トリックによる長編に挑戦したという作者の気概が伝わってくる。花婿発表が推理合戦へともつれ込み、花婿候補同士が推理の応酬をする展開が熱い。そこで暴かれていく予想外の事実!密室の扉は人間関係の鍵によって開かれるのだ。

    ミステリで訪れる軽井沢はいつも重井沢。まったく安らげない別荘地。今回は趣向を凝らしたトリックに加えて、天知と富士子のロマンスとしても読み応えがある。花婿候補が定められていても惹かれ合った二人。天知はその愛ゆえに事件の真相を追う。その先に何があろうとも、二人の愛は揺るがないのだ──。

    花婿候補の推理対決!なんでこんな倉庫で?という密室での毒死!ダイイングメッセージの意味とは?!剥ぎ取られていく人々の仮面。その素顔に刻まれた醜い傷。傷が傷を呼び、それを美しく飾って隠そうとすることこそ、醜いことなのかもしれない。ありのままを愛すること──それがどれほど難しく、時に悲劇的なものなのかを思い知る物語だった。

  • ● 感想
     筆者、笹沢左保が編み出した新たな密室トリックは、真犯人である幼児を被害者夫婦が、およそ一人では脱出できない高さの天窓から脱出させたというもの。このシチュエーションでしかなりたたないので、新たなトリックというほどでもない。しかも物理トリック。これを面白いと感じるか、つまらないと感じるか。面白いと感じる人が「本格ミステリ」好きなのだろう。個人的には、このような「推理クイズ」的な密室トリックはあまり好きではない。まさか、幼児が実行犯?という意外性はあるが、これは別の古典ミステリで、ミステリ初期体験の頃に味わっているので、衝撃がそれほどでもない。
     実行犯である子どもとそれを裏で操る大人…という構図だけで見れば、その古典ミステリの方が上手。求婚者の密室は、求婚、ヒロインへの告白が成功するのが、推理を成功させた探偵役となるという設定と、実はそのヒロインが黒幕という構成が面白い。この点は、さすがだと思う。
     ただ、3人の探偵役が推理をしているとは言え、多重解決モノとは感じなかった。1人目の小野里の推理は、密室だったんだから自殺というもので、これは推理でも何でもない。密室だから自殺というのは推理というより事実というイメージ。通常のミステリだったら、推理というより推理の前提となる事実だろう。自殺ではあり得ないような死に方をしておかないと、密室殺人にはなり得ない。この作品も、戸籍上離婚しているから心中はあり得ない。だから自殺ではないとしているが、裏切られたことを知った妻が夫を殺害した上で自殺したという推理も成り立ちうる。自殺の可能性の排除の論理が弱い。というよりない。
     石戸の推理は、ロープを使って天窓から出たというもの。これもおよそ推理とはいえない。物理的な痕跡からあっという間に否定される。窓からロープをつかって脱出したというのはトリックとはいえない。
     そうすると、犯人である幼児を被害者夫婦が、およそ脱出できない高さの窓から出したというトリックは、このトリックそのものは新しいとしても、このトリック一本で書かれたミステリに過ぎない。この点が、今の本格ミステリなら、ほかのトリックも出して、3つの多重解決モノにしそうな気がする。
     ミステリとしては弱いが、天知と富士子のロマンスを悲劇に仕立てて詠ませているのは、作家の物語づくりのうまさだろう。ちょっと古臭く、チープではあるが、推理クイズというようなトリックを読ませる作品に仕上げているのは笹沢左保の力量だろう。
     評価は、…難しい。推理クイズばりのトリックだが、新しいトリックといえばトリックなのだろう。ミステリの古典でもあり、今でもそれなりに楽しめるデキ。★3としておく。

    ● メモ
     軽井沢の西城豊士の別荘で、西城豊士の誕生、引退、そして女優でもある西城富士子の結婚相手を決めるパーティをする。
     富士子の結婚相手の候補は、弁護士の小野里実と医師の石戸昌也。富士子は、天知昌二郎が受賞した「第一回ジャーナリスト大衆賞・受賞記念パーティ」で、天知にもパーティに来てほしいと伝える。
     西城豊士は、東都学院大学の教授だが、研究室でいかがわしい行為を強要されたと告訴されていた。その騒ぎは告訴取り下げとなったが、マスコミが騒ぐのを天知が抑えたという縁があった。
     天地は妻を亡くしている身であり、5歳の息子、春彦を連れて軽井沢のパーティに向かう。
     富士子は西城豊士と若子の養子だったが、豊士と若子には、年がいってからできた娘、サツキがいる。富士子とサツキは姉妹だが、親子のような関係でもあった。
     パーティには、告訴事件の関係者も招待されていた。
     初日は、バーベキューパーティ。そして翌朝。西城夫妻の姿が見えない。この老夫婦は、母屋の北側にあるコンクリート作りの建物。地下室の採光の天窓がある。この建物の地下の密室で、西城豊士と若子の死体が発見される。毒の入った合成樹脂でできた瓶に入ったミネラルウォーターを飲んで、二人とも死んでいた。WSというダイイングメッセージがある。
     扉は南京錠で施錠され、鍵は1mの深さの土管の中にあった。高さ3.8メートルの地下室。天窓はあるが、完全な密室状態であった。
     西城富士子の二人の婚約者候補のうち、弁護士の小野里は、西城夫妻は心中したという推理をする。小野里は、自身の理論的立証について、別荘にいる人々が判定をする。その後、医師の石戸も理論的立証をし、判定をしてもらう。勝った方が富士子と結婚について話し合うという取決めをする。
     小野里の推理。まず、WSは、ダブル・スーサイドの意味だという。小野里は、他殺、自殺、事故死、自然死の4つの死因から消去法で自殺と推理。また、このような特殊な環境で、ミネラルウォーターに入った毒を飲ませるのは困難。夫婦の心中は世間への抗議の意味もあった。
     石戸は、小野里の推理の根底にある心中説の前提を崩す。西城夫妻は、3年前から戸籍上は夫婦ではないという。
     その晩、富士子と天知の間でのロマンス
     翌朝、石戸の部屋でカーテンから出火するという騒ぎがあった。
     翌日、天知は雑誌「婦人自身」の編集長、田部井に電話をし、富士子の過去などの調査を依頼する。
     石戸による推理。石戸は、死をもって抗議をする人間が、その抗議の対象となる人に、娘の婚約決定を依頼するというのは矛盾していると指摘。石戸は、今回のパーティで何か起こるのではと考え、興信所に依頼し、参加者の身元を調べていた。その調査で、西城夫妻が3年前から夫婦でなくなっていたことを知った。
     西城豊士とその秘書だった沢田真弓は愛人関係だった。
     浦上礼美、前田秀次、大河内、新藤の4人は、西城豊士を、女子学生強姦未遂事件に巻き込んだ。大河内は新藤夫人の診察でミスをした。誤信により新藤夫人は全卵巣を摘出することになった。新藤は、大河内の妻と不倫関係にある。このような関係を西城は知っており、そういった背景もあって浦上達4人と西城は和解をした、
     婦人が残したWSは、「綿貫純夫」と「綿貫澄江」のイニシャルだという。石戸は、西城夫妻の死亡すいて時刻、9日の午前10時頃のアリバイから綿貫純夫を疑う。綿貫はかつて富士子と熱烈な恋愛関係にあったことを指摘。綿貫は、毒物を盗み出すことも可能な職業であった。密室は、ロープを使って、天窓から脱出したと推理
     石戸と小野里の推理について、石戸、小野里、富士子を除く9人の評決は、棄権4,石戸説5、小野里説0
     天地は、綿貫が、午前6時から午前9時までのアリバイがあり、その時間、西城夫妻を監禁することができなかったことから、犯人ではないと指摘
     翌朝、また小火騒ぎが起こる。今回はベランダに仕掛けがあり、よりかかれば落ちるようになっていた。事故死を狙った仕掛け。サツキが事故死する危険があった。サツキに、その部屋に行くようにいったのは小野里だったという。
     田部井からの連絡。富士子のスケジュールから、富士子がサツキの母ということはあり得ない。富士子の父は、不審な事故死。富士子の母であるマリ子は精神病院に入院し、やっと社会復帰。西城とマリ子は不倫関係にあった。マリ子の実兄は、西城の別荘の管理人の内海
     天地の推理。犯人の条件は3つ。
     ・まったく警戒心を抱かせずに、地下室に誘い込める。
     ・朝6時から7時までの間に別荘の外に出ている。
     ・WSに当てはまる。
     3時間監禁し、のどがカラカラの状態の西城夫妻に毒入りのミネラルウォーターを天窓から投げ入れ、毒殺。
     Wsは、Sがダブルという意味。つまりイニシャルがS.S。それは西城サツキのみ。 
     サツキを操っていたのは西城富士子。真犯人は富士子だった。富士子は、父を殺害していた。そのことを知った上で、西城豊士は富士子を養子とする。西城夫婦は、結婚させることで富士子を西城家から追い出そうとした。
     綿貫と富士子の恋愛が終わったのは、富士子が8歳のときに、父を殺したということを伝えたため。富士子は、今回、西城夫妻が天知に同じことを伝えようとしていると疑い、殺害に及んだ。
     密室トリックの鍵は、被害者が加害者に協力しているという点。西城夫妻は、密室となってしまった小屋から脱出するため、助けを呼びに行くように、肩車をし、天窓から実行犯であるサツキを出した。富士子は、最後に事故死に見せかけてサツキを殺害しようとした。
     富士子の父は西城豊士だった。富士子とサツキは異母姉妹。富士子は自害

  • メインの密室トリックはなるほどという感じ。
    ただ、ページ数の割には登場人物が多いにも関わらず、個々の描き込みが甘いため、犯人を当てるのは容易。
    もう少し登場人物を少なくし、そのぶん、それぞれに見せ場のシーンを与えてあげれば、犯人当ての難度があがったのではないか。

  • 品のある文体でカチっとはまるロジック。
    じめっとしてる和の美女ミステリー。
    結末のドラマチックさもいい。
    またこの作家さんの作品を読みたい。

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著者プロフィール

1930年生まれ。1960年、初長篇『招かれざる客』が第5回江戸川乱歩賞候補次席となり、本格的な小説家デビュー。 1961年『人喰い』で第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞。 テレビドラマ化されて大ヒットした『木枯し紋次郎』シリーズの原作者として知られ、推理小説、サスペンス小説、恋愛論などのエッセイ他、歴史書等も著し、380冊近くもの著書がある。2002年、逝去。

「2023年 『有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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