南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947811

作品紹介・あらすじ

好評「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズ第7弾。

山はいつだってここにある――。
北岳でさまざまな人々の想いが交錯する。


人と犬、人間と人間の相棒小説。大自然が舞台の山岳冒険小説。警察小説。
そのすべてを兼ね備えているのが、〈南アルプス山岳救助隊K-9〉である。
――文芸評論家・西上心太氏(解説より)


南アルプス・北岳を舞台に、山岳救助隊員と相棒の救助犬の活躍を描く2篇を収録。
【文庫書き下ろし】

「リタイア」
南アルプス山岳救助隊の星野夏実と神崎静奈は、かつて北岳で事件に遭遇した
アイドル・安西友梨香のライブ帰り、若者にからまれていた初老の男性を助ける。
男は作家の鷹森と名乗り、次回作は山を舞台にした作品を構想中だという。
半年後、友梨香と鷹森が偶然同じ日に北岳を訪れた。二人は夏実と一緒に
頂上を目指すが、途中、捜索のため夏実と別れることに。
二人きりの登山行は果たして……。

「孤高の果て」
息子が山で亡くなったのは山岳救助隊の責任だと、両親が訴訟を起こした。
困惑する隊員たち。
なかでも現場に最初に駆けつけた隊員の関は責任を感じ、事件を再検証する。
だが、なぜか突然相手は訴訟を取り下げ、一同は安堵する。
それからしばらくして、母親が北岳御池の警備派出所を訪ねてきた。
関に現場を案内してほしいという……。

感想・レビュー・書評

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  • 〈南アルプス山岳救助隊K-9〉シリーズ第11作。
    長いシリーズとなったが救助隊の面々、特に夏実や静奈の状況には変わりはない。二人とも思い人あるいは思われ人はいるが、進展する様子もない。じれったいような気もするがこのままでも良いようにも思う。特に静奈と大柴はこのまま友情関係というか同志関係で良いのではないかとも思っている。

    今回は2編。
    「リタイア」
    以前「風の渓」で出会ったアイドル・安西友梨香と、初老の作家・鷹森壮十郎がそれぞれの思いを胸に北岳に登る。途中まで夏実が同行するも、遭難の連絡により離脱。「風の渓」で遭遇した事件のトラウマを引き摺る友梨香と登山初心者の鷹森。これで何も起こらない筈はない。
    タイトルが意味する通りの結末となるのか、それとも別の結末になるのかを楽しみに読んだ。ヘビースモーカーは気に入らないが、意外に頑張る鷹森は良かった。

    江草隊長はまだリハビリ中で休職中。

    「孤高の果て」
    単独登山中に遭難死した大学生の父親が、『あんたらが息子を殺したんだ』と逆恨みする。これまでもこうしたことはあったとの静奈の邂逅だが、今回は南アルプス警察署への訴状が届く。

    これまであまりスポットを浴びていなかった関真輝雄隊員の回。『いい大学』の医学部を出たという彼が、人を助けたいという思いで選んだ山岳救助の仕事。彼が助けた命はたくさんあるはずだが、むしろ心に残るのは助けられなかった命の方なのだろう。

    大学生の両親のやったことは許されないことだが、気持ちは分からなくもない。しかしその思いを正面から受け止めた関と彼の妻が良かった。ちょっとあっけない終わり方ではあったが。

    前の話でリハビリ中だった江草隊長が普通に仕事をしている。どちらも書下ろし作品らしいが、こちらの話の方はずいぶん前に書かれたものなのだろうか。
    大柴が上手いこと絡んでくれて良かった。
    関の妹・千晶は環境省の野生鳥獣保全管理官ということで、今後も関わりがあるかも知れない。

    ※シリーズ作品一覧 ★はレビュー登録あり
    ①「天空の犬」
    ②「ハルカの空」
    ③「ブロッケンの悪魔」
    ④「火竜の山」→「炎の岳」に改名 ★
    ⑤「レスキュードッグ・ストーリーズ」★
    ⑥「白い標的」★
    ⑦「クリムゾンの疾走」★
    ⑧「逃亡山脈」★
    ⑨「風の渓(たに)」★
    ⑩「異形の山」★
    ⑪「それぞれの山」本書 ★

  • <南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの10冊目。
    今度も巻頭に北岳付近の地図はないが、今回は山を舞台にした160頁程度のお話が2篇。

    最初の話には「風の渓」に出て来たアイドル安西友梨香が再び登場。ちょっとしたなりゆきで山を舞台に作品を構想中という作家の鷹森と一緒に北岳の頂上を目指すことになる…。
    アイドルにせよ作家にせよ、その世界でトップにあり続けるのは大変ね。
    傍若無人な作家先生が実はあんなんでしたというのはあまり面白みはなかったが、しっかり者で過去も乗り越えた友梨香は芸能界だけでなくどこででもきっと活躍できることでしょう。

    次の話は息子を山で亡くした両親vs.山岳救助隊のお話。
    誰かのせいにしたい気持ちは分からないでもないが、息子が助からなかったのは救助が遅れたからと恨まれても、隊員としてはなかなか辛い状況ね。
    真摯に仕事に向き合う関隊員と彼の思いを理解している新妻の心根が塞いだ両親の心を溶かしていくところが良かった。

    2つの話とも展開はありがちだが、読み心地は山の空気に似て爽やかだった。

  • 樋口明雄『南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』徳間文庫。

    山岳冒険警察小説シリーズの第11弾。文庫書き下ろし。南アルプスの北岳を舞台に、山岳救助隊員と相棒の救助犬の活躍を描く『リタイア』と『孤高の果て』の2編を収録。安定、安心の面白さ。シリーズが11作を数えるのも読んでみれば、その理由が自ずと解るというもの。

    このシリーズは徳間文庫、ハルキ文庫、新潮文庫、ヤマケイ文庫と4つの文庫レーベルから刊行されており、油断が出来ない。中でも『南アルプス山岳救助隊K-9』のサブタイトルが付かないヤマケイ文庫の『レスキュードッグ・ストーリーズ』には全く意表を突かれた。

    『リタイア』。引退を考えるアイドルと初老の作家。山は2人に何を伝えたのか。人生の道に迷ったら、自然の中で自身を見つめ直せば、答えが見付かることもある。南アルプス山岳救助隊の星野夏実と神崎静奈は、かつて北岳で事件に遭遇した安西友梨香の所属するアイドルグループのライブの帰り、3人の若者にからまれていた初老の男性を助ける。男は作家の鷹森壮十郎と名乗り、次回作は山を舞台にした作品を構想中だという。半年後、偶然にも安西友梨香と鷹森壮十郎が同じ日に北岳を訪れる。2人は星野夏実と一緒に頂上を目指すが、途中、夏実は要救助者の捜索のため、2人と別れることになるが……★★★★★

    『孤高の果て』。感動、感涙のラスト。死にゆく者への悲しみと生き続けることの苦しさ。人は誰もが運命には逆らえないが、天寿を迎えるまでは真っ直ぐに強く生きたいものだ。北岳に単独行に来て、悪天候の中、亡くなった大学2年生の中砂雅斗。現地に駆け付けた父親の和俊は息子の死は山岳救助隊の失態によるものだと糾弾する。その後、母親の瑠璃子が山岳救助隊を相手に訴訟を起こす。中砂雅斗の遭難現場に最初に駆け付けた山岳救助隊の関真輝雄は責任を感じ、事件を再検証する。突然、訴訟は取り下げられたが、ある日、母親の瑠璃子が息子の遭難現場を案内して欲しいと北岳の警備派出所を訪れる。★★★★★

    本体価格750円
    ★★★★★

  • シリーズ11作目。
    シリーズ初の中編集で、「リタイア」「孤高の果て」の2編を収録。
    「リタイア」には「風の渓」に登場したアイドル・安西友梨香が再登場。自身の引退に悩み、再び北岳を訪れる。同じく、ベテラン作家の鷹森と夏実の案内の元、頂上を目指すが、救助命令の出た夏実が途中で二人の元を離れてしまう。
    何とか北岳の頂にたどり着くが、下山途中で滑落してしまう。しかし、お互いを助け合い、思いやることで、抱えた悩みを吐き出し、それぞれの答えを見つけていく。
    「孤高の果て」では、これまであまり前に出ることがなかった救助隊で唯一医師免許を持つ関がメインで登場。
    山で再会した同級生と結婚したばかりの関だったが、少し前に救助した大学生が死亡したことにより、遺族である大学生の両親から恨みを買ってしまう。
    一人息子を失い、自らも末期がんである父親の暴走を止めるものとは・・・
    「孤高の果て」には「逃亡山脈」などに登場する阿佐ヶ谷署の大柴刑事が再登場。これまたシリーズを全部読んでいるファンには堪らない。
    書下ろしなので、時系列が分からないが、1作目ではリハビリ中の江草隊長が2作目では普通に出て来るし、2作目の関に恨みを持つ、阿佐ヶ谷署のマル暴の刑事・中砂が辞職した時の静奈と大柴のやり取りが2回繰り返されるところに違和感があったので、星は一つ減点で。

  • 最近は1年に1冊のペースで刊行され、それが待ち望まれるシリーズの一つ。
    今回は中編が2篇で、『南アルプス山岳救助隊Kー9』が2倍楽しめるかのよう(笑)。
    相変わらず、彼ら彼女たちの活躍は、南アルプス北岳の描写とともに爽快で、このシリーズ病みつきになる。
    『リタイア』では、『風の渓』でのヒロイン安西友梨香が再登場する。
    己の仕事に真摯に取り組む救助隊たちに涙腺が刺激される『孤高の果て』では、警視庁阿佐ヶ谷署の大柴刑事が活躍する。これもシリーズものならではの楽しみだろう。
    山岳救助隊の星野夏実と神崎静奈、この二人の恋の行方も気になるシリーズでもある。

  • 南アルプス山岳救助隊シリーズ。

    南アルプス北岳の山岳救助隊の夏実と救助犬メイを主人公としたシリーズだが、今作では救助犬はあまり登場せず、中編2作が収められている。

    以前、山で夏実たちに救助された女性アイドルが、再び北岳を訪れ、過去の事件のトラウマや自分の仕事と向き合う1篇。『リタイア』

    山で命を救えなかった隊員の関と、その遺族の悲しみや苦しみから生じた事件を描いた1篇。『孤高の果て』

    読み慣れたシリーズなので、安心して読める。
    『孤高の果て』では八ヶ岳の野生鳥獣保全管理官がクマの生態調査にやってくるなど、他作品の人物も登場して楽しめる。
    山を訪れる人間の身勝手さや、山の厳しさも伝わるが、長編ではないため、さらりとした印象でもあった。

  • ◆おすすめ度◆
    ・山岳小説度:★★★★
    ・読後は爽やか度:★★★★
    ・ちょっと出来すぎだけど山が舞台だと許せます度:★★★★

    ◆感想◆
    「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズの第7弾。
    樋口明雄の『南アルプス山岳救助隊K-9シリーズ』にハズレなしです。どれも面白いし、読後の爽快感もたまりません。
    ドロドロした人間関係なんかを描いた小説を読んだあと、心の安らぎを取り戻すのに最適ですね。

  • 南アルプス山岳救助隊K-9シリーズ11作目。
    いつものように、夏美と神崎の2名の山岳救助隊警察官・ハンドラーが遭遇する様々な事件。

    天空の犬も流石に11作目ともなると、シリーズ初期の作品とは異なり、夏美とメイだけが主人公になることはない。
    山岳救助隊の面々が、様々な場面で遭遇する日常の事件。そこに各メンバーの個性を活かした展開がある。
    本作は2つのエピソードを合わせた中編集。
    朝の電車で読み始めたのに、帰りの電車までもたないという面白さ。
    私は北岳に入ったことがないけれど、八ヶ岳付近にはしばしば通っている。
    今回も、本書を読みつつ、脳裏に山の景色が浮かんできた。
    次の作品を読めるようになる日が、待ち遠しいものだ。

  • 安定の安心感。途中で幾ら不安に思っても、最後はハッピーエンドやからね。
    癒されるわ。

  • R5/10/28

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著者プロフィール

1960年山口県生まれ。明治学院大学卒業。雑誌記者を経て、87年に小説家デビュー。2008年『約束の地』で、第27回日本冒険小説協会大賞、第12回大藪春彦賞をダブル受賞。2013年刊行には『ミッドナイト・ラン!』で第2回エキナカ大賞を受賞。山岳救助犬の活躍を描く「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズの他、『狼は瞑らない』『光の山脈』『酔いどれ犬』『還らざる聖地』、エッセイ『北岳山小屋物語』『田舎暮らし毒本』などの著作がある。有害鳥獣対策犬ハンドラー資格取得。山梨県自然監視員。

「2022年 『南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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