新訳 明日の田園都市

  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306073296

作品紹介・あらすじ

近代都市計画の祖、ハワードによる住民の立場から考えられた初の都市計画論。
不朽の名著、新訳版刊行。

『明日の田園都市』は、他のどんな本よりも現代の都市計画運動を導き、その狙いを変えるのに貢献している。でもこれは、古典の伝統的な不運にも直面している。それを明らかに一度も読んでいない人々に糾弾され、そして十分に理解していない人々に受け入れられているのだ。人の生を中心として文明を築くにあたり、サー・エベネザー・ハワードの有名な本を再刊するよりも時節を得た貢献はあり得ないだろう――L・マンフォード(1951年版本文より)

繰り返すが、本書は都市計画文献の中で独特な位置を保ち、あらゆる都市計画文献の参考文献に挙げられ、主要図書館の棚に並び、都市計画に関するほとんどの本で言及されている。それなのに、都市計画をめぐる通俗著述家のほとんどは本書を読んだことがないらしい――F・J・オズボーン(1951年版本文より)

ハワードの考えていた田園都市というは、名前や、その後のレッチワースをはじめとするニュータウン群から想像されるような牧歌的な郊外住宅地ではない。
そもそも本書の大半が都市の物理形態よりは、社会システムや事業収益計算に費やされていることは、改めて指摘しておこう。でもそのわずかなフィジカルプランの部分ですら、ハワードがここで思い描いているのは、むしろ最新のテクノロジーを取り入れた超ハイテク都市だ。――訳者あとがきより

感想・レビュー・書評

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  • 人間的な視点からの都市計画
    空間的な配置が取り上げられる事が多いが、本文は金銭的な運営の視点で語られる部分が大きい

    それぞれの都市は磁石、個人は針だ。今の都市よりも大きな力を持つ磁石を作る方法を見つけなければ、人口を自発的かつ健全に再分配することはできない。
    3つの磁石:町、いなか、町・いなか
    町:人間社会のシンボル
    いなか:自然の美しさ 我々のもつものはすべていなかから来ている
    社会的交流と自然の美しさの両立。高賃金がどうすれば低い地代や物価と共存できるか

    土地はすべて信託財産管理人に帰属し、全コミュニティに代わって信託財産として持つ。生み出される価値の増分は自治体の財産となる。地代は上がるかもしれないが、その上昇分は個人の所有物にならずに地代を下げるのに充てられる。

  • 田園都市計画?知ってるよ…というのは勘違いだった。オリジナルを読み返すのは重要。この本の大部分は経済関連で占められており、この部分が本筋ということになる。道路が放射線状に云々というのは重要点ではなかった。この本の趣旨は都市と田舎の融合と人口の分散にあるようだが、現在存在する田園都市では問題は解決できていない。最大の問題は田園都市において住人を引き付ける磁石となる雇用を用意できず、運営資金の多くを古いタイプの都市に依存していることだと考える。著者の見通しは甘すぎたが、その構想についてはまだ学ぶことが多い。

  • 田園都市の理念的な説明よりも具体的な歳入・歳出の話が多く、難解ではある。都市の過密問題と地方の過疎問題の解決策の一つとして、今も変わらず有効な考え方を示していると思われる。職住近接などは現実のニュータウンでは再現されておらず、引き続き向き合うべき課題であると感じる。

  • 田園都市の実現性について説明した本。当時の問題としてロンドンに人口が集中し、社会的な様々な問題を抱えており、これを解消するための社会実験としての田園都市。第3章あたりで、都心部で低賃金で働く労働者が、高家賃を支払っているのであれば、経済的にはデメリットしかない(ロンドンに住む約15万人の衣服製造業雇用者)とか。ロンドンと田園都市で想定される社会生活を比較しながら、収入と支出について検討している。田園都市を一つの生活圏として考えているので、外部からの影響によって田園都市の雇用が消失するといったことはない前提。

    # 田園都市の運営の仕組み

    1. 6000エーカーの土地を1エーカーあたり400ポンドで購入すると、24万ポンド必要(この前提がまず重要)。
    2. まず土地を担保にして債権を発行(金利は4%)。土地は債権の購入者の担保であり、債権の購入者=土地の所有者となる。
    3. 土地は田園都市の人々のための信託財産。財産の管理は信託管理人が行う。
    4. 信託管理人は、地代を受け取り、元本返済積立金、債権の金利を支払い、残金を中央評議会に渡す。
    5. 中央評議会は、公共施設の建設や維持管理をする。

    第2〜5章は、歳入と歳出について(田園都市が運営可能な一つの組織であることを示す、この本において最も重要なパート)。

    1. 歳入:全部地代から来ている(64000ポンド)。
 農用地からの税・地代 9750ポンド(詳細は第二章)
    住宅用地からの税・地代 33000ポンド(詳細は第三章)
    市街地からの税・地代 21250ポンド(詳細は第三章)
    2. 歳出合計(64000ポンド)
    地主地代(24万ポンド)の利息4% 9600ポンド
    元金返済用積立金(30年) 4400ポンド
    その他各種の使徒 50000ポンド 5万ポンドで自治体のニーズが満たせるかを4,5章で検討。公共サービス(教育、警察、消防、土木建築物など)運営費用など。

    第六章では、自治体のあり方について。

    # 三つの磁石(人を引き寄せる力=磁石と呼んでいる)

    人という生物の生き様を考えると町だけでもダメであるし、田舎だけでもだめ。人が町に集まってくるのはなぜなのか?

    * 町:高賃金+社会的機会+娯楽+明るい街路。長時間労働+高家賃+物価高+群衆の中の孤独+大気汚染や汚水などの不衛生+スラム。など。当時のロンドンは相当酷かったようだ。
    * 田舎:自然の美しさ+綺麗な空気と水。長時間労働+低賃金+仕事なし+娯楽なし+排水皆無+遺棄された土地+人付き合いなし+協働なし+公共心なし。など。労働者として大都市に人が移動し、農村は高齢化していた。
    * 町+田舎:自然の美しさ+綺麗な空気と水+社会的機会+低家賃+高賃金+良い排水+スラムなし+自由、協力。など。

    # 田園都市の外観構成

    1. 総面積24平方km。人口3.2k人。都市部に30k人、農村部2k人。労働人口は20k人。
    2. 都市部4平方km。都市部は中心に配置。このうち市街地と言われる部分は2平方km。
    3. 農地20平方km。農地は都市部の周辺に配置。
    4. 都市部から農地に幅員40mの道路を6本。
    5. 都市部中心に庭園。庭園周辺に公共建築物。
    6. 公共建築物周辺に中央公園。
    7. 中央公園の周り、アーケード(商店街や出店)。
    8. アーケードの周りに住宅。住宅の最低敷地面積は6mx30m。30k人。
    9. 住宅の周りにグランドアベニュー。幅員140m。全長5kmのグリーンベルト。
    10. グリーンベルトの外に工場。煙害は町に影響しないように。
    11. 工場の周りに物資を輸送するための鉄道。
    12. 工場の周りに農場。2k人。

  • 大変有名な本なので手に取ったが、歳入や歳出についての計算混じりの説明が大部分を占めていて難解。建築的な都市論というよりは社会の経済システム論という印象だった。

  • 僕の地元の町のキャッチフレーズはかつて「緑あふれる田園都市」というものだった。昔は、農業と商業の両輪で発展するというような意味かなと思っていたのだが、19世紀に考え出された画期的な理念に基づく思想だったのだということを理解できて、当時の田辺町を作った人々の先進性に感動した。
    ちなみに現在は、それと比較してあまりセンスの感じられないキャッチフレーズになっているのが残念だ。

  • 「田園都市」という言葉をご存知だろうか―。「都市と農村の結婚」とも表現される、その後の都市計画に多大な影響を及ぼした「田園都市」構想の提唱者であり、近代都市計画の父であるエベネザー・ハワードの名著「明日の田園都市(1902)」の新版である。古典と考えがちな本書の、田園都市という社会システムやその事業性という、先駆的側面を今一度捉え直すきっかけの一冊として欲しい。(都市工学専攻)

    配架場所:工14号館図書室
    請求記号:CC:H

    ◆東京大学附属図書館の所蔵状況はこちら
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2003341068&opkey=B147865804522182&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=6&cmode=0&chk_st=0&check=0

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著者プロフィール

エベネザー・ハワード Ebenezer Howard
1850-1928。イギリス、ロンドン生まれ。1898年、To-Morrow: A Peaceful Path to Real Reform(明日:本当の改革に向けた平和的な道)を刊行。1902年に改訂を加え、Garden Cities of To-morrowと題を改め、本書『明日の田園都市』を再刊行する。速記者、発明家、田園都市思想を実践する社会学者などの顔をもつ。1903年、ロンドン郊外のレッチワースに実際に田園都市を着工し、続いてウェリンにも建設。その後の世界的なニュータウン建設に先鞭をつけた。

「2016年 『新訳 明日の田園都市』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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