王国

著者 :
  • 河出書房新社
3.20
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本棚登録 : 885
感想 : 136
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  • Amazon.co.jp ・本 (177ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309020693

作品紹介・あらすじ

組織によって選ばれた、利用価値のある社会的要人の弱みを人工的に作ること、それが鹿島ユリカの「仕事」だった。ある日、彼女は駅の人ごみの中で見知らぬ男から突然、忠告を受ける。「あの男に関わらない方がいい…何というか、化物なんだ」男の名は、木崎-某施設の施設長を名乗る男。不意に鳴り響く部屋の電話、受話器の中から静かに語りかける男の声。「世界はこれから面白くなる。…あなたを派遣した組織の人間に、そう伝えておくがいい…そのホテルから、無事に出られればの話だが」圧倒的に美しく輝く強力な「黒」がユリカを照らした時、彼女の逃亡劇は始まった。

感想・レビュー・書評

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  • 無駄が無く美しい語り口で物語に入っていけた。
    哲学的に内省的な所が良かった。圧倒的な不条理たる木崎とどのように対峙するのか。クライム映画のような裏世界な世界観。

    矢田が属していたものは、この社会のなにか概念的なものの比喩で、木崎はその反対にある混沌。だとすると、どちらに属するでもなく、その中で必死に道を探す主人公は、社会に迎合することもできず、ふりきれてそれ自体を楽しむ木崎のようにもなれない人達を表してるのかな。月は木崎が言っていた宗教の神で、足掻く私達を俯瞰して楽しむ性格の悪い存在だと思う。
    「長短ではない。肝心なのは、この世界の様々な要素をどう味わうかだ」最悪すら味わえというメッセージは好き。

    掏摸も読んでみたいと思う。

  • この頃の著者の筆の乗り具合は凄い。
    物語自体はあってないようなものだけれど、神的な位置である木崎の台詞や月の表現など読んでいて吸い込まれていくようだ。
    何一つ救いの無い内容だが、読んで救われる人は多いのではないか。

  • 中村先生の仄暗い人物描写の空気感は好み。漠然と感じていたものが上手く言語化されている感じ。
    理不尽に虐げられていく立場の弱い者、みたいのが多い気がする。
    主人公が自分を捨てられ、死というものを経験し、もう確固たる自分だけでいいという感じで強く生きていく部分は感情移入できたし、エリや翔太が誰でどうなったのか徐々に明かされて行くから、スラスラ読めた。
    ただ後半に向かって性描写もキツくて、しんどくもなったし、圧倒的に理不尽な神が残酷で上手く入り込めない感じもした。
    純粋な善意ではなく、この残酷な世界を裏切ってやるって感情で動く主人公の黒くて硬く強い意志はかっこよかった。頭の回る女の人っていいなって思った。

  • 依然読んでいたようだ。

  • ムッチャ面白かった。『掏摸』の姉妹作品。なので『掏摸』→『王国』という順番で読んだ。両作品に木崎という圧倒的なパワーを持つ裏世界の男が登場する。悪魔みたいにまたは神みたいに人の運命を操る。木崎は『亜人』に登場する佐藤、『海辺のカフカ』に出てくるジョニー・ウォーカーと同様に一方的に持論を展開し、人の命をサクサクと奪っていく(好きです)。『掏摸』では、(木崎の存在が)ひたすら怖くて怯えて読んだけど、『王国』の木崎はまるで神のように輝いて見えた。奪うし与えることもしうるものだと思いながら読んだ。

    そして月はそんな男をも照らし、すべてを呑み込み、さらには産む。蛇のような存在で畏怖を感じた。生(性の、女性)の象徴として登場する。強い。きっとこのスパイは生き延びて男児を産み、その子はいつか帝国を滅ぼし新たな王となるのだろう。掏摸師がつないだ命。

    『掏摸』では「塔」が、『王国』では「月」が効果的に使われて、作中に度々登場する。
    わたしが思う塔のイメージは、そびえる、倒れる、傾く、朽ちる、高い。月のイメージは、満ちる、欠ける、狂喜(狂気)、産む、再生。正と逆によって意味が変わるタロットカードの「塔」と「月」を思い出した。
    途中からだけどカード順は、悪魔→塔→星→月→太陽→審判→世界。

  • 高1 ◎

  • 木崎、やっぱりとんでもない趣味。
    あの人が生きてたみたいでよかった、、

  • 闇の組織風。もちょっとリアリティのある情報が欲しかったなあ。
    ユリカはとんでもなく美しいんだろうけど、要所要所の判断は賢さに欠けるというか運が強いだけなのか。
    木崎に何が気に入られたんだろう。
    うーん、色々と私の想像力不足かな。

  • この世の中にある不条理と圧倒的な悪を描いている作品。作中で印象に残ったのは、木崎がラストで語る「肝心なのは、この世界の様々な要素をどう味わうかだ」というか言葉。不条理は善にも悪にも平等に作用していて、受け取りかたによって形を変えるという事を考えさせられる作品でした。

  • 「掏摸」の構造とほぼ同じ。木崎がハンニバル・レクターやジョーカーなみの魅力的ヴィランとは認めるが、では次作こそ木崎を軸にもう少しその悪事を具体的にしてもらわんと飽きてしまうし、もったいない。方やレクターは続編のみならずプリクエルまであるのだから。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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