小川洋子の陶酔短篇箱

著者 :
制作 : 小川 洋子 
  • 河出書房新社
3.25
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本棚登録 : 367
感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309022468

感想・レビュー・書評

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  • 7月の初め、兄貴が急逝した。4時間前にはプールにも行っていたのだが、突然心臓近くの大動脈が乖離して鼓動が止まった。意識がなくなるのに15秒とも掛からなかったろうと、医者は言った。

    数日後、定年後のアルバイトの仕事先から読みかけの図書館本が届いた。それがコレである。どう考えても読書家ではなかったのに、どうして小川洋子なのか。晩年病院に縁のあった兄貴は、誰からか、岡山県で暫く病院秘書の仕事をしていた小川洋子の話を聞いたのかもしれない、とも思った。何故これを選んだのかを知ろうとして、本書を開いた。そしたら、案に反してアンソロジーだった。

    1. 河童玉(川上弘美)
    2. 遊動円木(葛西善蔵)
    3. 外科室(泉鏡花)
    4. 愛撫(梶井基次郎)
    5. 牧神の春(中井英夫)
    6. 逢いびき(木山捷平)
    7. 雨の中で最初に濡れる(魚住陽子)
    8. 鯉(井伏鱒二)
    9. いりみだれた散歩(武田泰淳)

    ここまで読んで、ほぼ半分。
    全ての短篇に、小川洋子の2頁程の、解説のようには思えないエッセイがつく。

    実際は、すべて小川洋子の新作短篇なのではないか?と思わせるようなアンソロジーだった。

    ここまで読んできて、
    人から勧められたのか
    自分で図書館で数編読んで借りたのか
    わからないけど
    この本の抗いようにない特徴がわかってくる

    総ての作品に、水のようにヒタヒタと沁みこんでくる死の翳が見えるのである。まさか自らのあまりにも速い死を予想していたはずはないが、それでも通常人よりは敏感になっていたはずだ。

    河童は、庭園の池の築山の奥の限りのない奥に舟を進めてゆく。まるで冥府に行くかのよう。

    武田泰淳は、散歩途中に太宰治の入水した川を眺め、または自らガス中毒に遭った経験から川端康成の自殺時の心境を想像する。自らの言っている言葉がおかしくなり、意識が朦朧として倒れたそうだ。まさか、コレが兄貴の最後の読書じゃなかったろうな。

    10. 雀 (色川武大)
    11. 犯された兎 (平岡篤頼)
    12. 流山寺 (小池真理子)
    13. 五人の男 (庄野潤三)
    14. 空想 (武者小路実篤)
    15. 行方(日和聡子)
    16. ラプンツェル未遂事件 (岸本佐知子)

    何故コレを選んだのかは、とうとう分からず仕舞いだった(←当たり前だわな)。
    もう全ての短篇が、彼の最後の読書のような気がする。
    今でも、マクドの席でうたた寝をして、ふと起きると隣に「俺死んだのか?」と言って芒洋と座っている気がする。

    • kuma0504さん
      りまのさん、
      ありがとうございます。
      近所に住んでいるのですが、もう何年もまともな会話をしたことのない兄弟でした。いまだに、まだ実感が湧きま...
      りまのさん、
      ありがとうございます。
      近所に住んでいるのですが、もう何年もまともな会話をしたことのない兄弟でした。いまだに、まだ実感が湧きません。
      2021/07/28
    • よんよんさん
      kuma0504さん
      お兄様のご冥福を心よりお祈りいたします。
      このレビューを読ませていただき、ずっと、うーん…と考え込んでいます。私は...
      kuma0504さん
      お兄様のご冥福を心よりお祈りいたします。
      このレビューを読ませていただき、ずっと、うーん…と考え込んでいます。私はこの本を読んでいないので、見当違いなことを書いてしまっては、と思いますが、この本を読んでお兄様の心情を考えて、このレビューを書かれたこともお兄様の供養になっていると思いました。これによってまた心がぐっと近づいたような。何もわからないのにコメントさせていただきすみません。
      2021/07/31
    • kuma0504さん
      よんよんさん、
      ありがとうございます。
      供養になるんでしょうか。なれば良いんだけどね。
      兄貴の家族に断りもせずにこういうことを書いて、良いの...
      よんよんさん、
      ありがとうございます。
      供養になるんでしょうか。なれば良いんだけどね。
      兄貴の家族に断りもせずにこういうことを書いて、良いのかなともふと思ったのですが、もともとこういう空気を読むのに疎いのが私らしいので、言われるまではこのままにしておこうと思います。
      2021/07/31
  • 小川さん作品、次は弟子丸さん繋がりで『薬指の標本』を読む予定だったのだけど、『注文の多い注文書』の解説が、短いのに絶妙だったので、同じような(そして嬉しいことにもう少し長い)解説エッセイがついている本書を先に読むことに。
    ちょうど読みたかった作品と作家さんが何作か収録されていて、これまた嬉しい。

    読みたかった作家さんは、先日ブク友さんと話題にした中井英夫、武田泰淳(正確には百合子さんの作品が読みたいのだけど)、庄野潤三(エッセイ?私小説?が現行で揃わなさそうで購入逡巡中)、岸本佐知子。
    読みたかった作品は泉鏡花「外科室」。……読みたかった作品だけれど、読むのには苦戦しました。

    好きだと思ったのは魚住陽子と小池真理子の作品。
    小池真理子「流山寺」は、時々帰ってくる亡き夫のお話。愛する人と離れたくない想いが、愛する人を二度送る結果となり切なさも倍増だった。

    印象に残った作品は、川上弘美、武者小路実篤、木山捷平。
    ヘンなモノ、笑えるもののほうが印象に残るということか。むむむ。
    河童の存在は信じているし、空想倶楽部には入部したい。
    そして、ノー・ズロ(笑) 一番笑った作品でした。

  • 痺れてます!

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    「河童、猫、牧神、鮫、鯉……。動物、生き物たちと人間たち。選び抜かれた16本と小川洋子のエッセイが奏でる究極のアンソロジー集! 」

  • 偏愛に続き宝石箱ふたつ目、これもまたまあよくぞと思わせる玲瓏燦然たる短篇の数々に圧倒されまくりである。
    そんな16の物語のうち3つも既読があるという共感は小川洋子信者としてはかなりの喜びで特に私が裏小池真理子と密かに呼んでいる「流山寺」の存在には年甲斐もなく小躍りしてしまった(笑)
    泉鏡花をはじめとする多分教科書でしか読んだことのない重鎮たちも渋い、なんかグッと身近に来た感じで其れこそがこの本の醍醐味だろう。
    そしてもうひとつの醍醐味は新しい発見、日和聡子という若き詩人がいい!この雰囲気はまさに陶酔に値する。
    次回の空想倶楽部で是非とも紹介したいと思う

  • 小川洋子さんが選んだ短編集第二弾。今回も不思議な話がたくさん。どことなく小川洋子さんの世界に通じるものがある。川上弘美『河童玉』、小池真理子『流山寺』、庄野潤三『五人の男』が特に気に入った。

  • 「偏愛短編箱」が「むふ、むふ、おおっ!」とニヤニヤしっぱなしの素晴らしさだったので、こちらも文庫化を待たずに購入してしまいました。が、うーん、結果的には前作の方が好みだったかなあ。こちらは端正すぎたというか。

    それでも好みだったのは、既読だと鏡花「外科室」、初読では日和聡子「行方」庄野潤三「五人の男」、一番うわっと思ったのは色川武大「雀」。読みにくかったが、こんな風に人間の暗部(悪いところ、ではなくて)を薄気味悪く書いた作品というのは、なかなかないのでは...。この人と、日和聡子さんは折を見てもっと読んでみたいと思う。

    巻末の小川さんのエッセイ「私の陶酔短編箱」もよかったな。葛西善蔵「遊動円木」と鏡花「外科室」に触れたところは、思わず拍手してしまうほど見事な解説。

  • 小川洋子さんが「陶酔」をキーワードに編んだ、16篇のアンソロジー。川上弘美、泉鏡花、井伏鱒二、小池真理子、庄野潤三、武者小路実篤・・・様々な作家さんの競演。
    それぞれの作品のあとに、小川さんの解説エッセイがついている。それがまた、面白い!下手をすると、本編をしのぐ面白さ。いや、解説があるからこそ、本編がさらに楽しめる。
    初めて読んだ作家さんもいて、なかなか面白かった。

  • 小川洋子の選んだ短編とその作品に出てきた内容を取り上げた短いエッセイの16編。
    比較的古い作品が多く、きっと若い頃から愛読していた作品なのではないかと思った。
    小川洋子の世界と似通ったものが感じられる。
    泉鏡花の『外科室』など少々読みづらいものもあり、
    作品が面白いと思えるかは差があったものの、文章と世界観の完成度はさすがに高い。

    一番好きだったのは井伏鱒二の『鯉』。
    親友から譲り受けた鯉を下宿にある池で飼っていた主人公だが、下宿を出ることになり、親友の愛人宅の池へ鯉を移す。
    数年の後親友が死に、鯉の処遇に悩んだ主人公は愛人宅の池から鯉を釣り上げ、早稲田大学のプールに鯉を離す。
    悠々と泳ぐ白い鯉と、やがて冬が来てプールに氷が張る情景が美しい。

    魚住陽子『雨の中で最初に濡れる』
    は物語として掴みどころがないのだが、描写のひとつひとつが味があっていい。

    梶井基次郎『愛撫』
    http://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/411_19633.html
    病んでいる感のあふれた物語好き。

  • 偏愛の方が好みだった。こちらはなんだろう、より淡いというか、まっさらで取っ掛かりがない感じ。
    でも、世の中には本当に多くの作家さんがいて、すごいことだなあと純粋に思った。小川洋子さんの読書姿を眺めてみたい。

  • 小川洋子さん陶酔の短編いろいろと、それぞれに解説エッセイがつくという贅沢な一冊。
    陶酔・・・陶酔ね。はぁ、ナルホド。
    読んで面白さのわかりやすいものや、むむむ、難しいぞ!というものや、いろいろでしたが、小川さんの幅広さには敬服・・・。
    それにつけても解説エッセイがまたなんとも・・・w
    的外れというべきか、ピンポイントすぎというべきかwww
    偏愛、陶酔・・・うーん、まさに!という感じですw

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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