大阪

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309029375

感想・レビュー・書評

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  • 【フェア】『大阪』刊行記念 岸政彦・柴崎友香 写真パネル展 | イベント | 梅田 蔦屋書店 | 蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設
    https://store.tsite.jp/umeda/event/humanities/18573-1745580206.html

  • 本の帯の惹句には『大阪に来た人、大阪を出た人』。大阪へやって来たのは社会学者 岸政彦さん。‘67年名古屋市生まれ、大学入学時に大阪へ。上新庄の下宿を皮切りに以来大阪を転々。大阪を出た人は作家 柴崎友香さん。‘73年大阪生まれ、約15年前に仕事で大阪を離れ、現在東京在住。

    このふたりによる【大阪】をテーマを往復書簡風エッセイ。本書に綴られた大阪は、あくまでもふたりの記憶の断片。そう、極私的大阪アーカイブ。

    岸さんは大学生として、ジャズのベーシストとして、バーテンダーとして、バブルに沸く大阪を遊泳。大阪で出会った女性と結婚し、終の住処を手に入れ、この地で死ぬつもりだ…と、語るほど深い愛着を抱くに至っており、大学教員の傍ら自身が暮らした大阪の街を舞台にした大阪弁に溢れた小説を発表。

    方や大正区で生まれ育った柴崎さんは中学生ぐらいから持ち前のフットワークの軽さと好奇心の強さが顔を出しMy Osaka Mapは広がりを見せる。その活動譚を固有名詞をもって記憶を天日干しするかのように仔細に語る。ダウンタウン見たさにごった返す心斎橋2丁目劇場前での出待ち、エレファントカシマシのライヴには欠かさず通い、カルト映画を上映しているミニシアターへも足繁く通う。

    <ふたりにとっての大阪>
    岸さんは…
    大阪が好きだ、と言うとき、たぶん私たち
    は、大阪で暮らした人生が、その時間が好き
    だと言っているのだろう。それは別に、大阪
    での私の人生が楽しく幸せなものだった、と
    いう意味ではない。ほんとうは、ここにもど
    こにも書いていないような辛いことばかりが
    あったとしても、私たちはその人生を愛する
    ことができる。そして、その人生を過ごした
    街を。

    柴崎さんは…
    テレビ経由のイメージだと大阪はどこの家に
    も『おもろいおかん』がいる 、と思われ
    る。当然そんなことはなく、大阪は多様な
    人々が寄り集まって暮らしている大都市であ
    る。『ステレオタイプなイメージの隙間に一
    人一人の現実がある。

    <ふたりの大阪観を堪能して…>
    『サードプレイス〈第三の居場所〉』と『アナザースカイ〈第二の故郷〉』という2つのフレーズが頭に浮かんだ。前者は家庭や職場や学校ではなく、自身を解放できる第三の居場所を指す。後者は生まれ育った街とは異なるインスパイアを受けた場所・土地。岸さんは仕事に行き詰まったり、なにか気晴らしをしたくなると、必ず淀川を歩くという。『淀川の河川敷を宇宙一好きな場所』とも語る。明らかにサード・プレイスである。また、本籍を移すほど大阪に惹かれる岸さんにとってはアナザースカイでもある。

    柴崎さんの場合、故郷大阪を離れ、東京への移住を『長期出張』と例える。大阪でしか観ることができないテレビ番組を思い出しながら、東京以外の場所で生まれた文化を語ることができない…と憂える。今のところ東京が『サードプレイス』にも『アナザースカイ』にもなり得てないのは、柴崎友香を育んだ街 大阪という土地の磁力がそうさせるのかな。

    岸さんの『あとからやってきた街 大阪』感。柴崎さんの『私がいなくなった 大阪』感。おふたりとも大阪在住歴30年余り。今いる場所と、かつていた場所が『私』を通して交差し、その時折時折の街と時間の呼吸を活写した、激しく読み応えありまくりの一冊。

  • この本は読みやすそうだと思ったこと、また、新神戸オリエンタルホテルのロビーで起こった宅見若頭射殺事件(228P)のことまで書いている男気溢れるエッセイだと思い購入しました。この事件、近くに座っていた歯科医師の方も流れ弾に当たり亡くなっています。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

    私自身、昭和63年4月~平成4年3月まで、大阪と奈良の境の奈良県王寺町という所に住んでいたため、大阪には買い物やアルバイトなどで頻繁に出かけていました。その当時を思い出しながら読みました。特に柴崎さんは私より4歳下のため、難波などで出会っている可能性もあると思いました。

    懐かしいのはナンバブックセンターです。(141P)私が難波のプランタンデパートでバイトをしていたため、その帰りにはナンバブックセンターに寄り、本を読んでいました。細長い本屋だったイメージがあります。

    私が感銘を受けたのは、部落解放運動の活動家のYさんの優しさです。タイ人の中学生の娘さんが平仮名も書けないほど日本語が出来ず不登校となっているのを見かねて自宅で日本語を教え、その結果公立学校に合格したという話を聞いて涙が出そうになりました。このようなことを地道に地味に地に足をつけて活動している人に敬意を表したいと思いました。(125P)

    柴崎さんは言います。「今になって振り返ってみると、あんなふうに、ミニシアターが次々できて、小劇団が注目され、百貨店でも美術館並みの展覧会をよくやっていたこと、地上波のテレビで深夜に外国やミニシアター系の映画をやっていたこと、三角公園でただしゃべってるだけでお金がなくても楽しく過ごせたこと、そのこと自体が、好景気の時代で、世の中の豊かさだった、と強く思う。」(151P)私も同感です。

    岸さんは言います。「大阪も90年代は、学生が週に3日もベースを弾けば、それで何とか飯を食うことができた、そういう街だった、しかしいまはもう、その大阪は、どこにもない。あのとき私たちが酒を飲んだり、音楽を演奏したり、付き合ったりフラれたりした大阪は、いまでも変わりなく同じ場所にあるけど、あの大阪はもう、どこにも存在しない。」(182P)

    柴崎さんは言います。「東京に初めて来たとき、驚いたのは木の大きさだった
    表参道の立派な欅並木を見て、道端にこんな巨木が生えているなんて、と感動した。」(191P)私も6年7ヶ月、東京都杉並区高井戸に住んでいたのですが、人見街道沿いに大きなけやきの木があり、とても嬉しかったことを思い出します。

    柴崎さんは言います。「雲一つない青空で、数年ぶりに乗った近鉄奈良線の生駒へ上る車両からは大阪の街が一望できた。この風景は死ぬほど好きだ」(251P)
    私も時折、近鉄奈良線を利用していたのですが、電車から見える大阪の夜景は特に美しかったです。

    この本は大阪に住んでいる方、住んでいた方、そして大阪に全く縁のない方も楽しめる本です。
    私にとって一生、大切に持っておきたい本となりました。
    素晴らしい本を出版してくれた岸政彦さん、柴崎友香さん及び河出書房新社様に深く感謝いたします。ありがとうございました。

    生かされていることに感謝して。

  • 大阪人として生きてきたこと、誇りに思いますな。

    雑多で、せわしなくて、それでいて大雑把、真剣に生きながら、恥ずかしいのかどこか肩透かしで笑いで済ましてしまう。今の私の骨の髄までしみ込んでます性格には、梅田の、あの時の梅新の血が・・・流れていますな。

    そんな、大阪への思いを、社会学者の岸政彦さんと作家の柴崎友香さんが、ご自分の町で語る。

    来月、生まれた梅新で落語会があります・・・早めに行って、町を探索しようと、今から楽しみでおます。

  • 表層に見えるもの、知覚できるものがこの世のすべてではない。
    行きかう人がどういう思いなのかどういう人生を送っているのか。
    自分ではなかった可能性、大阪で生まれ育たなかった可能性、あり得た人生、未来のだれか、取るに足らない出来事。
    それら見えないモノ、存在しないモノに対してすらの敬意を感じる文章群がここにある。
    ここにあるのは筆者たちの至極個人的な文章であるはずが、どこかで読者の心や経験、感情を呼び起こすのはその敬意故だろう。
    我々読者は読むことでこれらの文章に参加することができる。
    こうならなかった未来もあったが、今確かにこうなっていること、偶然に対する畏怖と敬意。
    昔はよかったという懐古的な文章にぎりぎりなっていないのは、それもあり得た可能性の中のただ一つの形だったに過ぎないという態度からだろう。
    偶然ここにある私という存在を語ることが大阪とか世界とか社会みたいな大きくてとらえどころのないようなものを語る唯一の方法なのかもしれない。
    一は全。

  • 大阪生まれの柴崎友香と、大学入学とともに大阪在住となった岸政彦の二人が交互に綴る大阪をめぐるエッセイ。
    柴崎パートは大阪で育った具体的な思い出が語られ、大阪の街が柴崎の人間形成に濃厚に影響したことが溢れている。この人の原点は大正区にあり、やがてミナミを包摂するようになり、東京に住む今でもそこから時代と社会を見通している。
    自分と同じ人文地理学専攻と知って親近感を抱いた。大阪出身とはいえ自分は郊外の方なので、柴崎の書くことはやや遠い街の出来事である。しかし、大阪の過去が積み重なるのが現在の街だというビジョンに深くうなずけた。

    岸の視点はやはりよそから来て面白がっている人のものだ。岸はそのポジションがとても気に入っているのだと思う。生粋の大阪人に憧れて、でもそうではない自分を生きている。

    大阪愛に溢れる良い本で、大阪嫌いなんですよね、という人にもぜひ読んでほしい。

  • 勝手に小説かと思っていたが、エッセイだった。
    何気ない日常について語られているが、その中にハッとさせられる部分があった。

  • 著者のひとりの岸さんはほぼ同年代。大阪は万博前の一番活気に溢れた時期に育った街なので格別な思い入れがある。平成に入った頃からだろうか、妙に大阪の街の人達がギスギスしてきたように感じていたのだが、この本を読んでその理由がつかめた。ちょっと前の大阪への愛情をぶり返させた本。

  • 大阪で生まれ東京へと出ていった柴崎朋香、大阪に来てそのまま大阪で暮らす岸政彦、作家と社会学者それぞれが異なる立場から見た大阪について語り合う連作エッセイ集。

    それぞれが見た大阪の景色からは懐かしさ、大阪の濃い人間関係、変わりゆく街並みなどが伝わってきて、7年ほど大阪に住んでいた自分としても感慨深いものがある。とはいえ、やはりこうした文章を読むと、そこまでの思い入れというのを自分はこの街に抱けていなかった、というのも自身の実感として改めて感じたところではある。

  • 大阪の手ざわりが変わります。
    80〜90年代の大阪を振り返るエッセイのようで、今の大阪の風景・日常への問いかけもあります。
    柴崎さんにとっては「わたしがいなくなった街」、岸さんにとっては「わたしが来た街」、お二人の視点だからこそ見える大阪を読ませてもらったように思います。
    ローカルな話も多いけれど、大阪に来る人・住む人にすすめたくなる一冊でした。

    大阪を褒めそやすわけではなく、批判するわけでもなく、なんとも言えないまさに大阪への愛が込められていると思います。

    個人的に大阪は住み始めた街です。長く付き合ってみたい気持ちが強くなりました。

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著者プロフィール

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学大学院文学研究科教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『質的社会調査の方法』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、第76回毎日出版文化賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家と監修、沖縄タイムス社編、みすず書房、2023年)、『にがにが日記』(新潮社、2023)など。

「2023年 『大阪の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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