- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309030036
感想・レビュー・書評
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ほのぼのとしていて優しい、江國香織さんのエッセイとどこかしら似ている雰囲気です。
本書は、神戸新聞でのエッセイのタイトルをそのまま使っているそうですが、このタイトルの意味が終始気になっていました。
この謎は、あとがきで説明されていました。郷土岡山の敬愛する内田百閒さんが関係しています。
小説家の観察眼は凄いなといつも感じますが、こんなことを考えながら見てるのかと思ったのが、病院の待合室の赤ちゃんの話。
自分の耳をずっと触っている赤ちゃん。
私だったら、たぶん耳がかゆいのかな?くらいにしか思いません。
ところが、小川洋子さんが見ると、
「こんなところに…」という感じで、耳たぶを折りたたんだり、引っ張ったりしている。
適度に芯があるのに柔らかく、複雑な輪郭を持ち、自在に形を変えてもすぐまた元に戻る。
「いったいこれは何なんだ」
この世に生まれてまだ何カ月もたっていない人間が、大きな謎と直面した瞬間に私は立ち会っている。
となり、同じ光景を見ているのに見えている世界が違ってきます。
このエッセイには、阪神タイガースや岡山県のことが出てくるので、個人的な興味が惹かれ読みやすかったです。
また、ご本人の小説に関係する逸話もずい分ありました。
「ことり」のモデルになった文鳥の"ブンチャン"は8年も生きた。
「ブラフマンの埋葬」ほど、のびのびと書けた小説はない。
「最果てアーケード」は、小さい時の思い出から。
とか「琥珀のまたたき」や「小箱」についても書かれていました。
「きかんしゃやえもん」は、最も多く声に出して読んだ本で、なぜかというと… とか、好きな本のエピソードも何冊か紹介されています。
きっと、小川洋子さんに関係した本を何冊か読んでみたいと思うでしょう。
最後の方に「みんな気を付けて!」というようなことが書かれていました。
誰もが経験あると思いますが、私自身が今でもそうしそうになることです。
『小説を読んで、わけが分からない、とつぶやきながら表紙を閉じることは、よくある。
分からない=つまらない、となり、ピンと来ない、退屈、共感できない、認めない、意味不明……。
さまざまな言葉で芸術は否定される。
若い頃は自分もそうだった。自分が基準で理解できないと感じた時点で自分とは無関係と決めつけていた。』
『自分の価値観だけを物差しにして、他者を容赦なく切り捨ててゆく"ツイッター炎上"のニュースは気分が暗くなる。』
みな自分基準で生きているに違いないですが、自分を正当化しすぎる姿勢は、自分を小さな世界に閉じ込めることになりそうですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
陶器の絵皿を思わせる素敵な装丁。
思わず手に取ってしまいました。
小川洋子さんの作品は初読み。
ずっと以前、映画『博士の愛した数式』を観て
美しい数式の世界に感動しましたが。
ひとつひとつのエッセイは短くて、
2ページから、長くても7ページで完結。
ちょっと辛い長編を読んだあとだったので、ほっと一息。
日々の暮らしの中で生まれるちょっとした発見。
それを文字に落とし込んだものを読みながら
ふと、自分の経験と重ね合わせます。
小川さんは阪神タイガースの大ファン。
私の母もそうだったな…。
関西出身の母にとって
ほかのチームは眼中にありませんでした。
本屋さんが大好きな小川さん。
高校時代は友だちとコミュニケーションがうまく取れず
本屋さんに入ると、やっと息ができる気がしたとか。
ふと、一度も思い出したことのない過去が顔を見せました。
小学六年の時、気になる男の子の姿を求めて
その子がよく行く本屋さんに通ったことがあったっけ。
今思い出すと、ちょっと気恥ずかしい…。
エッセイというのは
読み手の個人的な琴線に触れるところが面白いなぁ。
そして、小川さんのエピソードに ほほえましいものが。
知人の結婚式の披露宴で自分のところに回ってきた色紙のお話。
「作家なのだから気の利いたことを」と緊張した結果
結局、平凡な言葉を記したというところ。
次の人のことが気になって慌てて書いたのが
「お幸せをお折りします」(“お祈り”でなく)
親近感しかありません (^^)♪ -
伊万里焼に藍色で絵付けしてあるような質感の装丁に手を伸ばした1冊。
『博士の愛した数式』の小川洋子さんのエッセイ集でした。
老いを感じ、ジョギングをして、ミュージカルの推しを持ち過ごす中で小説家の感性や想像力の凄まじさを感じ、この人も神様から特別に愛されてる人なんだと実感しました。
阪神ファンで忍耐力を養ったあたりも活かされてるような。
犬派なところはちと距離を感じるのですが・・
この人を前にして感想を書くなんておこがましすぎる。
そんな思いに、「ふと」の2文字を使ってみたくなる暴挙にも出たくなる。あまり使った事ないので、ふとの女王の蟻地獄に滑り落ちる価値もないのかと卑下したりです。
とにかく、文章の至るところに神経を張り巡らせている緊張感、浅はかな者が触れたら火傷しそうです。
官能とユーモアの共存についてのエッセイは観察眼に震えてました。
特に心に響いたのは、「答えのない問い」なのですが小説を読んで、退屈、共感できない、意味不明など様々な言葉から本を閉じてしまう行為。私はよくありますけど、それは芸術を否定する行為との厳しいご指摘が迫ってきました。
分かる分からないかにこだわる行為は実に勿体ないと、自分が理解できる範囲はたかが知れており、その狭い枠を取り払って広大な世界に足を踏み入れなければ真実にたどり着けないとおっしゃってました。
なんと気高い志であろうか、そんな境地に行けばもがき苦しむ事になるとは思うのですが、それは死すら受け入れる行為に等しいのではないかと・・・完全に打ちのめされました。
彼女の「ことり」と「小箱」も読んみたく思いました。
そうそう、彼女の偏愛書「西瓜糖の日々」何度読み返しても読みおわり感のない小説らしいのですがこれも開いてみたい。 -
人気作家小川洋子さんが、2006年から今年まで
あちこちに書いたエッセイを一冊にまとめたものです。
「改めて読み返してみると、
エッセイとは本当に難しいものだ、と感じます」
だそうです。最近の私は、エッセイより小説のほうが難しいのだと決めていたので、ここで逆転してしまいました。
やっぱり敬愛する作家の随筆が頭にあって
より良いものを書こうとすると難しくなるのではないか?
と思いました。
いかにも小川洋子さんらしいエッセイをちょっと載せます。
どうぞお許しください。
「素数は私を裏切らない」
2011年になって早々、知人から年賀メールが届いた。
〈あけましておめでとうございます。
2011は連続する11個の素数の和であり、
連続三個の素数の和でもあります。
2011自体も、平成23年の23も素数ですから、
今年は素数に囲まれた一年なのかもしれません。
2011=157+163+167+173+179+181+191+193+197+199+211
=661+673+677〉(文藝春秋3月号) -
「遠慮深いうたた寝」小川洋子(著)
2021年 11月9日 河出書房新社
2022年 1/27日 読了
小説の裏側を覗いているようなので
好きな小説家のエッセイはなるべく読まないのだけれど
小川洋子はぼくにとって特別だ。
一言も疎かにしないのはエッセイでも変わる事はなく真実の言葉に何度も涙しました。
羽生結弦さんはスケートを
大谷翔平さんは野球をやる事になんの迷いもなかったように
小川洋子さんも小説を書く事になんのためらいもない人なんだろう。
そりゃ魅力的なはずだわ。
小説家を目指してる人はぜひ読むべき。 -
小川洋子の考え方のクセみたいなところが覗けるようで楽しいです。
よくこんな次々と想像が膨らむなあ…これであの作品を書き上げたのか…と納得するところも。動物や子ども好きでよく観察しているところはやっぱりそうですよね!と嬉しくなりました。
短いエッセイが多くて、「もう少し深掘りして欲しいな」ってところで終わるのが多くてちよっと惜しい気もします。 -
機内でのCAの心配りをスケッチした「幸福のおすそわけ」、吠え続ける犬を怖がる母親を「でも女の子だよ」と宥める少年「小さなナイト」、閉業する本屋への思いを綴った「本屋さんの最終日」など、日常で出会う優しさに触れたエッセイ。後半にあるユダヤ人収容所の中で人間らしさを失わない人々を綴った二冊の本を紹介した「答えのない問い」は、文学者としての責任と覚悟を示した秀逸なエッセイで、読み返さずにはいられませんでした。
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大好きな小川さんのエッセイ集。
小川さんのあの不思議な小説たちは、こうやって生み出されていったんだな、と知れてよかった。
やっぱり小説家の方々は、普段接している物事に対しての感じ方が私たちとは違うんだなーと思った。