詩歌探偵フラヌール

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 222
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309030876

感想・レビュー・書評

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  • ・ヴァルター・ベンヤミンの「遊歩者(フラヌール)」という概念@「パサージュ論」。近代や都市を分析するための概念らしいが、それを転用して、詩歌を探偵する都市散歩者の二人組を描く、という、まずはアイデア勝ちで、それを達成するための文体勝ち。二段構え。
    ・そう、文体なのだ。読んでいるだけでポーっと頬が上気するような。この文体、なかなかないぜ。メリとジュンや各話ゲストキャラとの会話文も素敵だが、地の文もまた素敵。この地の文があるからこそ、地面から数センチ浮いたフワフワな二人組の存在に説得力が生まれる。
    ・引用される詩人のセレクトも絶妙。萩原朔太郎、大手拓次あたりでは、この作者らしいなと思いきや、最果タヒで、wao! 現在じゃん! と驚かされ、さらに左川ちかで、全集刊行(書肆侃侃房)という出版業界のナウやん! と。高原氏は「新版 うさと私」「観念結晶大系」を書肆侃侃房から出しているので、無関係なムーブではないはず。またコッソリと紫宮透を入れてくるあたり、やりよるな……。
    ・氏のツイッターにいわく、自分の作品は「言語探求」「博物誌」「形而上」「奇想」「散歩」「なかよし」という要素で区分できるが、本作は「言語探求・散歩・なかよし」である、と。確かに! またさらに続けて、「以前は自分の守備範囲というものがわからなくていつも違うことばかりやっていて、これでは積み上げにならないのではと思われていたが、実のところ、限られた、しかし複数の要素の繰り返しと組み合わせでできていると知った最近 ある程度数多く作品を世に問わないとわかってこないことがある」……なるほどな。
    ・近未来か? ともほんのり思われる「ポエティック・スポット」以後の3短編を、どう解釈するか(善きものか/ディストピアか)で全体の印象は大きく変わると思うが、今回は保留としたい。
    ・カバーイラストも、カバーをはがした本体の表紙も、素晴らしい。装幀・名久井直子。装画・カワグチタクヤ。

    flâneur 01 フラヌール
    flâneur 02 林檎料理
    flâneur 03 永遠ハント
    flâneur 04 Dエクストラ
    flâneur 05 きの旅
    flâneur 06 ポエティック・スポット
    flâneur 07 塔と空と柔毛
    flâneur 08 モダンクエスト

  • フラヌールとはベンヤミンの『パサージュ論』の中の言葉で「遊歩者」という意味らしい。メリとジュンがふらふらと探索散歩しながら景色や日常、出会う人に様々な「詩歌」を探し出し、見出す。とても楽しく読みました。軽快な文章はスキップしているみたい。作中で引用される萩原朔太郎、大手拓次、ランボー、ディキンソン、最果タヒ、佐川ちかの詩ににやける。読んでみたい詩集がたくさん増えました。後日、まとてめ買うか図書館で借りるつもりです。最終章の『モダンクエスト』は著者が一番言いたかったことなのではないかな、と感じました。私も詩歌を探して日々の生活でフラヌールしたい。素敵な本でした。

  • メリとジュンの二人は詩に隠された謎に導かれてふわふわと都市を彷徨う。謎は解けたり解けなかったり。現実と詩歌のはざまをフラヌールする連続短篇集。


    『エイリア綺譚集』収録の短篇「林檎料理」の連作化。「林檎料理」は好きな作品だったので、このスタイルを膨らませてくれたのが嬉しい。メリとジュンはめちゃくちゃなジャーゴンで話すのでときどき何の話をしているかわからないんだけど、周辺情報から推理してなんとなく何を指しているのかわかるようになる。そういう小説の読み方自体が詩歌を読む面白さにも通じていて、言葉をめぐって一つには定まりきらない解釈を楽しむのが「詩歌探偵」だ、というお話だと思う。
    完成度ではやっぱり「林檎料理」が一番だと思うんだけど、新しいのだと「Dエクストラ」と「きの旅」が良かった。「Dエクストラ」は阿佐ヶ谷姉妹みたいな二人組に渡されたカードの謎を追ううちにヘビメタバンドと仲良くなって、みんなで一緒に天才少女が朗読するエミリ・ディキンスンに聞き入る話。『僕たちは歩かない』とか『サマーバケーションEP』のころの古川日出男みたいだった。「きの旅」はきのこ俳句・きのこ短歌を探してクトゥルフ的な世界に迷い込む話。『日々のきのこ』でしっかりファンタジーしていたところを与太にしてしまうズッコケ感が楽しい。
    終盤、プラットル・プロジェクトまで話が広がると、私は少しノれなくなってしまった。そもそも「林檎料理」が好きだったのは、あくまで現実の都市を歩き現実の風景を描いていながら、詩を読んだメリとジュンのフィルターを通すとあの仕上がりになるというところだったので、現実側にファンタジーが持ってこられるとむしろ酩酊感がなくなって素面になってしまう。濃いキャラクターがたくさんでてきて、詩と現実の結節点としてのメリとジュンの役割も薄れてしまうように思った。でも二人のフラヌールに続きがあるならまた読みたい。

  • 探偵というが物騒なことは一切起こらない、ジュンとメリの2人がいろいろとそぞろ歩き、文学に関わる不思議な人に会ったり謎解きゲームしたりする話。
    最初2人はませた小学生くらいに思っていたが、途中で20代だと判明した。付き合ってるのかどうかも不明。

  • 初めて読むジャンル。
    独特な書き方に戸惑って、知らない言葉が多く携帯片手に読んでかなり時間がかかった。
    でも、苦にはならずに楽しめました。

  • 『フラヌール』とは『遊歩者』。タイトルの通り、メリとジュンが詩歌を求めて遊歩するのだが、こんな自由な文章の小説は初めて。出会った詩を読んで、感想はいいね〜で良いの。その時の自分にグッと来るかどうか。ふわふわ出かけて目に入るものを自由に声に出す。この詩を思い出した、いいね〜。詩ってとても自由なんだ。それを体感した、軽快で奔放な本だった。

  • メリとジュンのふたりが、詩歌をもとめて、アパートに、レストランに、古本屋にとさまざまな場所をフラヌール=遊歩者となってめぐる、その過程でとりあげられる萩原朔太郎、大手拓次、小林秀雄訳のランボー、都倉俊一訳エミリ・ディキンスン、閑吟集、堀口大學訳のシュペルヴィエル、最果タヒ、左川ちかの詩歌をたのしむといった趣向。個人的には、正直フラヌールの部分はあまり目に飛び込んで来ず、詩歌のいいなあと思うところを味わっただけなので、作者の意図の半分も受け取れてないようには思う。p.203あたりの「デンマークの森」を書いた「村谷夏樹」は村上春樹をもじって、バックグラウンドをだいぶ変えたのかなあ、と思いつつ。

  • ちょっと不思議で、ちょっと親しげ、読みやすさにかまけて飛ばしていると、読者であるところの君はきっと文中に秘められた鍵を読み落とすから、慌てずゆっくり味わってよし。
    文中に「心地よく秘密めいた場所」というセリフがあって、「あれだ、ネズミが自分の首を猫のあごにのせる……」と途中まで思ったのだけれど、そうではなかった。『心地よく秘密めいた場所』はエラリー・クイーンで、"ネズミが自分の首を猫のあごにのせる"のはボリス・ヴィアンの『うたかたの日々』だし、『心地よく秘密めいたところ』はピーター・S・ビーグルだ。もう、私の思考は二重三重に錯誤している(でも、それが楽しい)。
    年末の(普段よりも更に)疲れた脳みそにじんわりと沁みるいい一冊でした。

  • 比較的最近、同じく高原英理さんの著書である『歌人紫宮透の短くはるかな生涯』を読了したので、詩歌熱をそのままに本作も堪能致しました。本書に登場する詩人歌人は、萩原朔太郎を始めとした、モダニズムを彷彿とさせる人達が印象的でした。個人的に好きなお話は『永遠ハント』で、ランボー(またはランボオ)の「永遠」の詩だけでここまでゆる〜く、かつどこかハッとするような発見をしたのは新鮮でした。この世界を少しだけ気楽に生きるために、これからは私もゆるゆると、本書と詩歌の世界をフラヌールしようと思ったり。

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著者プロフィール

高原英理(たかはら・えいり):1959年生。小説家・文芸評論家。立教大学文学部卒業、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。85年、第1回幻想文学新人賞を受賞。96年、第39回群像新人文学賞評論部門優秀作を受賞。編纂書に『リテラリーゴシック・イン・ジャパン 文学的ゴシック作品選』『ファイン/ キュート 素敵かわいい作品選』、著書に『 ゴシックスピリット』『少女領域』『高原英理恐怖譚集成』『エイリア綺譚集』『観念結晶大系』『日々のきのこ』ほか多数。

「2022年 『ゴシックハート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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