- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309205892
作品紹介・あらすじ
虚実ないまぜの歴史と地理を織りあげることで「もう一つの香港」を創出する表題作のほか、伝説の農業の祖"神農"をめぐる時空を超えた物語「少年神農」、消えてしまった街路の盛衰をめぐる「永盛街興亡史」など。
感想・レビュー・書評
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難解な専門用語でカモフラージュされた香港の歴史と地理にまつわる架空のよもやま話。
完璧な地図とは、土地を一対一の縮尺で再現したうえに、それだと時間軸がまだ足りないから、土地土地に
そこで起こったすべての事を注釈として書き込んだものなのかもなーなんてよくわからない妄想をしながら読んでました。
香港、という複雑な帰属をめぐる歴史のある土地が主役なので、ノスタルジー自体も何層にも積みなっている。新しい東洋が新しい西洋を懐かしみ、新しい西洋は古い東洋を懐かしみ…以下無限、みたいな。
何だかまとまりのない感想ですが、いろいろな空想や考えごとが浮かんでは答えのでないまま消える不思議でとても素敵な小説でした。
作者のあとがきにも逸話は全部架空のお話です、と書かれているんだけど、
どれももっともらしくて、どこまでが作者の創作なのかさっぱりわからない。でも江戸時代の日本人漂流者のが野比なんとか、みたい名前だったのはさすがに創作だな、と思いました。
☆修正
あいまい記憶で感想書いたら嘘書いてしまいました。
「江戸時代の日本人漂流者野比なんとか」ではなく、「日本人学者の藤本のび太」でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
表題の小説は、1997年香港返還の年に書かれた。
水没した伝説の街、香港について、後世の学者が、地図を基にあれこれ考証するという趣向だ。失われた街を再現しようとして語られる想像の街と、現実の香港のずれが現実を非現実に見せ、香港が失われる未来を予言する。
香港返還で香港は失われず、むしろ強大な中国のオフショアセンターとして繁栄し、活発な民主化運動でも活力を見せた。しかし、2020年のここに来て、中国が香港国家安全維持法を制定して一国二制度を廃止、香港は危機に瀕している。
1997年の作者の不安と、現在の政治情勢がシンクロして、読んでしみじみする。 -
文学
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中島京子さんが、作者の魅力から、刊行を決意してこの本は生まれたという。
香港文学が、初の、原文からの日本語への翻訳刊行だそうだ。
本書には、4作が収められている。
1.神農 (中島京子さんが訳を担当)
2.永盛街興亡史
3.地図集
4.与作 (本書刊行のための描き下ろし)
どれも興味深い。
「神農」は中国の古代神話からの奇譚。時空を自在に操るというか、時空などなんということもないもっと大きなうねりを感ずる、不可思議で、幻想的な作品だった。
「地図集」は、まるで、学術書の体裁で書かれている。
味も素っ気もない堅苦しい感じの文章、実のところ、作者の想像と事実を織り交ぜながら作られていて、ふしぎな街、都市に引き込まれていく。
とにかく読み終わるのに「時間がかかったけれど、おもしろい本と出会えたことがうれしい満足のいく1冊だった。 -
香港の地図にまつわる、真面目なようでぶっ飛んだ素敵なホラ話たち。古川日出男や中南米文学が好きな人は好きだと思う。
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第3回(2013年度)受賞作 海外編 第4位
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地図を見るの大好きなのでこの本もすごく楽しかったです。
香港に行ったことが無いのだけど、私の印象だけでいうとふわふわした足下に建つ摩天楼と言う感じ。そこだけ歴史から分断された都市みたいな。なのでこのように地図から偽の歴史を想像したり、実際の土地より地図の方が実体を持ってしまうような、こんな物語がすごく似合う場所なのかもしれないですね。
カルヴィーノの「見えない都市」も確かに似てるかも。
「少年神農」とか「与作」とかも良かった。 -
香港のボルヘスということで読んだ。だが違う。ボルヘスと残雪にカルヴィーノ足した感じ?架空の香港を地図から再構築している要はヨタ話なのだが、積み重なった文章のこまごました声が、重く胸に迫る。いやスバラシイ!