テルリア

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 168
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309207346

感想・レビュー・書評

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  • 時代は西暦2050年くらい、未来のお話。しかし本編で語られるそれまでの歴史は、我々がいうところの現在よりかなり前の時点から相当軌道が逸れてしまっている……。
    ――――――――――――――――――――
    ■世界中の共和国が解体、市や地方単位でばらばらになってしまっている。再編成した共和国もある。それらは民族主義、反グローバリズム、イデオロギーの対立、宗教戦争などが原因である。分裂の結果おびただしく小国が出現したが、それぞれの国民はその国固有の独自の価値観、宗教観、特殊な政治形態を持つに至っている。
    本書は50の章で構成されていて、章ごとに別の国民について描かれる。だからその内容は登場人物の思考も設定も環境も、章ごとにそれぞれまるっきり違っている(一つの設定が複数の章をまたいでいるのもまれにはあるが)。
    作者はこの違いを際立たせるため、章ごとに文体を全く変えて描いて見せている。これはこの作者にとってお馴染みの手法なのだが、それにしてもその徹底ぶりが凄いのだ。ある文体に慣れる間もなく次の章が始まって面食らう。あるいは、次はどんな変わった文体で作者は攻めてくるのか、そんな期待に身がまえてしまう。……この文体の華麗な書き分けこそが本書最大の魅力といっていいだろう。
    ■本書は小国ごとに描かれた全くバラバラの50の断章から構成されている。が、全章に共通して登場するモチーフがある。それが”テルルの釘”だ。テルルとは、原子番号52のあのテルルだ。”テルルの釘”を生きた人間の頭の特定の場所に”きれいに”打ち込むと(打ち込むのは”大工”と呼ばれるプロ、打ち損じると被験者は死ぬことがある)、その人間はありえないほどの幸福感を得られるとある。のみならず時空を超越することができて、死者たちと語り合うこともできるというのだ! ……内容も文体もバラバラになった50の断章。しかし超個人的な感覚=快感を呼び覚ます”テルルの釘”だけが物語を貫き、全体を齟齬なくまとめあげるというカタチとなっている。
    ■本書には遺伝子操作で生まれた異形の生物がふつうに登場する。巨人(身長4メートル)、小人(缶ビールほどの大きさ)、建物のように巨大な馬、犬頭の兵士、家畜人ヤプーの性奴隷みたいなの……。
    ところでこの未来の世界は反グローバリズムによってバラバラになってしまって、小国の国民ごとに様々な凝り固まった価値観がまかり通っている。で、そうした世界を我々は”多様性がある世界”、と見なしていいのか? ……いやそれとも、人間は小国に押し込まれ、それぞれ画一的な偏狭な価値観に縛られてしまった、という見方が正しいのか?
    そして例の数々の異形の生物たち。これは、我々の知るこの現実より”多様性がある世界”が実現した、と寿いでいいのか? いやそれとも、遺伝子操作で人間を恣意的に作り変えるという発想自体が単純な狂気によるもので、それは多様性とは真っ向から対立する考え方だと断罪すべきなのか?
    作者は章ごとに、多彩で異様な世界を描いてはいるが、それぞれ文体を極端に変えているせいで読者はそれぞれの章に、その国民ごとに凝り固まった偏狭な世界観を垣間見ることになる。グローバリズムと反グローバリズム。多様性と画一性。作者は逆説を弄しながら、簡単に解いてみせられるようなものではない現代世界の複雑な様相を諧謔的に描いて見せてくれたのだとぼくは思っている。

  • ロシアで著名な作家による近未来ディストピアSF小説。ロシアが崩壊し、フランス・ドイツも分裂。ユーラシア大陸は小国が乱立する中世さながらの状態になる。それぞれの国には、人間以外にも妖精や宇宙人、小人や巨人、動物が進化したような生き物が共生したり戦ったりしている。半ページにも満たないものも含め全50章がそれぞれ異なった表現方法で書かれ、統一感もあったりなかったり。作者の意図としては、人間的なものの限界を突破するということらしいが、まあ、読みにくい。

  • 戦時中。しばらくするとバスが来てそれに乗れば「国」に帰れるかもしれない。それを逃すと次いつ来るのかわからない。到着したバスは既に人がこぼれ落ちそうになっていた。その人達を引きずり落として、自分はバスに乗らなければならない。極限状態において人はどこまで、自分をさらけ出すことが出来るのか、氏に問いかけられる。(現代人はそういうの隠して生きてるんだよう、剥かないで)けして面白い内容でなく、むしろ読み手を翻弄させる。関わってしまうとザワザワする。ダイレクトに脳細胞に働きかける。恐ろしいけどやっぱり剥かれたいの。

  • 世界がバラバラに砕け過ぎて、読むに疲れてしまった。テルルの釘でも打ち込んでもらわないと楽しめないよ(;´Д`)

  • 章ごとに文体も話もバラバラ。
    氷3部作の面白さから入る人は面食らうかも

  • 何というか、人類最大の発明は麻薬なんじゃないかと思わせるような話の連続。今みたいに、全国民が共有できる物語がなくなった世界じゃ、こういう麻薬が世の中を支配するのもわかる気がしますね。(結局、仕事がうまくいくやつがモテルやつなのは変わらないし。)俺は自分ひとりで完結する仕事ならだれにも負けない自負がある。

  • 『早稲田文学』に邦訳が連載されていたソローキンの長編が単行本化。
    長編と言うべきか、それとも短編の集合体と言うべきか、ちょっと判断に迷う構成。個々のエピソードは普通に見えるものもあれば、些かアレなものもあり、そして全体的にはやっぱりぶっ飛んでいる(イカレてる、の方が近いか?w)。
    巻末解説を見ると、未邦訳の単行本がかなり残っているようなので、何処かの版元が版権を取って欲しいものだが……。

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著者プロフィール

1955年ロシア生まれ。83年『行列』でデビュー。「現代ロシアのモンスター」と呼ばれる。2010年『氷』でゴーリキー賞受賞。主な著書に『青い脂』『マリーナの三十番目の恋』『氷三部作』『テルリア』など。

「2023年 『吹雪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ウラジーミル・ソローキンの作品

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