- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309208046
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
2002年デビューの韓国現代文学作家による短編集。将来の不安はあるが、特段の解決策もなく、周囲への嫉妬も感じつつ、なんとなく日常を重ねていく中年世代を描く。
どの作品の主人公も自分の人生がずっと続く下り坂なのはわかっている。では、原因は何なのか。社会なのか、自分自身なのか、韓国という国なのか。この先、どうふるまっていけばいいのか。彼らのどうしようもなくて、やりきれない気持ちを作り出すのが、作者の言う「優しい暴力」だ。
マイホームを持ったり、子供に英才教育を受けさせたり、非正規社員から正規社員を目指したり、亀を飼ったり。もがく主人公たちに衝撃的なハッピーエンドもバッドエンドも起こらない。彼らのなんとなくな不安は解決されることなく、日常は続いていく。
所詮は隣国の話、とは感じなかった。本書ほど露骨に自国の格差社会を描写する作家が少ないだけで、日本だって似たような社会だ。「優しい暴力の時代」の次の時代はあるんだろうか。 -
7篇からなる短編集に、「三豊百貨店」を加えた日本版オリジナル。収録された作品は、それぞれ趣向が異なり面白い。何気ないストーリーに韓国の格差社会(優しい暴力)を垣間見ることができる。訳者あとがきにより韓国社会の理解が深まる。
新聞の書評を読み、手に取りました。知識不足でよく分からない箇所もありますが、時々、韓国文学に触れると新鮮です。 -
母と呼ぶことはない人、孫と言いたくない赤ん坊、友達と認めてもらえない子…等、説明し難い関係を描いた印象的な短編集。
訳者あとがきにて「『優しい暴力の時代』ということは、かつてはむき出しの暴力の時代があったということだろう。そして今後はどうなるのだろう。」「時代の流れが川だとしたら、韓国のそれは日本の二倍、または三倍の激しさ、速さで流れているのだろう。」
その激しさに茫然と立ちすくむ人々。押し流され、何が起こったのか想像することを止める人々。それを弱さと言うか、適応と呼ぶのか、何を選択すれば良かったのか、提示することなく描き切る眼差し。被害/加害性が同居せざるを得ない社会の中で生きることの過酷さ。
本書もそうだが、読者の心に高確率で爪痕を残す韓国の作家たちに、改めて感服。 -
生きるのを邪魔しない程度の悲しみや痛み、諦め、絶望が、本を開いてふわりと舞い上がる空気みたいに、頁をめくる指先を切る。
ささやかに生きている日々の中に潜む密やかな暴力。それはすれ違いざまにふと袖を切り、握手をすれば掌に血が滲む。これを「優しい」と表す作家の筆致。
「ずうっと、夏」と「引き出しの中の家」が好きだった。登場する人たちはみんな善良な人たちだけど、だけど善良とは何を指して善良と呼ぶのだろうと時々わからなくなる。
彼らの人生への諦念が冷たい霧雨みたいに頬に当たった気がした。触れた瞬間は冷たくても、すぐに体温に同化していく無力な水の粒。
同時収録の短編「三豊百貨店」はドキュメンタリーと手記を交えたような筆致で事故そのものと一定の距離を保ちながら、それでも「その日」あの場にいた人は決して自分に無関係ではなかったことの重みが迫る。セウォル号事件にまつわる物語と似た感覚。一瞬にして世界の色を変えてしまう出来事。 -
日常、きわめて普通に振る舞うことが出来ていた人だとしても、人に見せたくない闇の部分は誰にもある。通常はそこをさらけ出さないよう、明るく健全な部分を人に見せるよう努めている。この小説では、人の嫌なところを見てしまうが、それは表裏で人として共感できるところでもありました。
-
久々に大好きなタイプの小説を読んだ。とんでもなくおもしろかった。喉の奥をギュッとつままれたような感触をどう表現するのか知らないけれど、すべての短編の最後はそんなふうに、苦しいのか、哀しいのか、ここに出てくる人たちに触れたくなるような何かを確実に残してくれ、それが喉の奥に伝わる感じ。どんな感じだ、って感じだが。この後にひく作者のことばに、ああ、そうだよな、と思う。
ー今は、親切な優しい表情で傷つけあう人々の時代であるらしい。
礼儀正しく握手をするために手を握って離すと、手のひらが刃ですっと切られている。
傷の形をじっと見ていると、誰もが自分の刃について考えるようになる。
そんな時代を生きていく、私によく似た彼らを理解するために努力するしかない。書くしかない。 -
チョン・イヒョンさんの描く韓国の日常が好き。
母子、夫婦、友達、同僚、家族‥そこに子育て、仕事、学校、職場、不動産‥などが関わってくる韓国の生活が感じられる短篇集
格差や貧富が描き出される生活が、どこの都市も同じだなと思いながら、苦しくなりつつも、私たちもたくましく生きていかなければと心強く感じたりもしました。
「優しい暴力」という言葉が心にぐっと響きます。
-
この本から何を得られたか、すぐに答えられないまま心にぐるぐるとした不快感が残る。でも確かにある現実なんだと、私の隣にもぴったりとくっついて離れない焦燥感。
読み終えてから、ストーリーの中心に置かれていた韓国の社会問題に気づいたところもあり、まだまだ筆者の思いを読み切れていないと悔しく思った。