ミシンの見る夢

  • 河出書房新社
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感想 : 49
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309208206

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀末のイタリアを舞台に、お針子の女性の人生を丁寧に描いた物語。
    失われていく世界を記録したいという思いあっての作品だそうです。

    祖母以外の家族を病で失い、祖母に裁縫を教え込まれた「私」。
    当時の階級社会で、お針子は決して恵まれた立場ではないが、腕が良ければそれなりにいい仕事だった。
    お邸に出向いて白いリネンで作るシーツやナプキン、ブラウスや寝間着など一切を縫い上げる。
    具体的に詳しく描かれていて、目に浮かぶようです。
    明るく無邪気なエステルお嬢様とは仲良くなり、その結婚のいきさつを見届けることにもなった。

    慎ましく生真面目で、丁寧に仕事をする主人公のすがすがしさ。
    自分で縫った服をきちんと着ている彼女の清潔感ある佇まいに、優しい若者が惹かれるのもよくわかります。
    ただし、その若者は、大金持ちで偏屈な高齢女性の親族で、身分違い。
    思わぬ波乱に見舞われながらも、生き抜いていく姿に心励まされます。

    19世紀末のイタリアについてはあまり知りませんが、映画ならヴィスコンティ監督作品がありますね。
    英国のドラマなら、「ダウントン・アビー」よりも少し前からということになります。
    労働する階級は低賃金でこき使われ、上流階級の美しいものを作ったり手入れしたりすることに人生を捧げていた。
    その技術は失われつつあるようですが‥
    暮らしや立場が良くなったのなら、それもよし。
    けれども現に、途上国での労働搾取という問題もあり、一筋縄ではいかない事なのですね。
    読み応えのある作品でした。

    • あまねってぃさん
      『ミシンの見る夢』の本の表紙を見ていたら思わず読みたくなりました。
      『ミシンの見る夢』の本の表紙を見ていたら思わず読みたくなりました。
      2024/02/01
  • 5才の時にコレラの流行により裁縫で生計を立てる祖母以外の親族を失った主人公が、お針子の仕事をしながら階級と富によって厳格に分断されたイタリアの小さな町で様々な出来事を経験する物語。虚栄心に満ちたプロヴェーラ家、アメリカ人ジャーナリストのリリー・ローズ、馬に乗り、機械学と古代ギリシャ語を研究するマルケジーナ・エステル、町の権力者で100才になるドンナ・リチニア、隣人のズィータとその娘アッスンティーナ、そして主人公に恋するリチニアの甥グイド。それぞれの人生の物語は、プロヴェーラ家の裁縫師シニョリーナ・ジェンマが「縫い合わせたパーツを私の手から受け取ってデリケートに揺りうごかすと、そのとたんに、合わせた布切れが変身を遂げてひとつになり、三次元の優雅な形をとる」ように、繊細に織り込まれたゴブラン織りタペストリーのように描かれる。

  • 〈 19世紀末の身寄りのない日雇いのお針子の少女が、仕事を通して各家庭の様々な秘密を共有したり難題を乗り越え、成長していく。イタリアでベストセラー、ページをめくる手がとまらない!〉

    イタリアの小説を読むことがなかった
    著者は児童文学でもたくさんの本を出しているとか

    厳しい階級社会、女性差別
    その中で自由に憧れ、一歩ずつ険しい道を切り開いていく

    前書きに「お針子さんの時代は終わった。この本は、そういう時代のことが忘れられてしまわないようにと願って書いた」とある

    知らない時代の知らない事実をたくさん見せてもらった。
    よい読書体験だった

    ≪ ミシン手に 切り開いてく 人生を ≫

  • 2021年3月~4月 注目のYA新刊 その2 | Librarian Nightbird
    https://ameblo.jp/librarian-nightbird/entry-12659760175.html

    Home | Naffy
    https://www.na-ffy.com

    ミシンの見る夢 :ビアンカ・ピッツォルノ,中山 エツコ|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309208206/

  • 19世紀末、イタリアの小さな町を舞台に、貧しいお針子の娘の成長を描くビルドゥングス。で、ようやく、なんとなんと一度も主人公の名前が出てこなかったことに気づいたよ。えーっ、名づけってホント大切なんだが、それなしでこんなに親身に感じさせるキャラ作れるって、この作者すごいな!
    田舎ということもあり、身分の差はハッキリ、女性の虐げられ度もマックスだけど、慎ましやかだけど利発で筋の通ったヒロインがイイ。
    単に「結婚して幸せになりました」じゃないラスト…キラキラした恋と情熱ではなく、「深い理解や共通の関心、協働関係、お互いの完全の信頼などは、恋愛小説に語られているものよりもずっと本物の。ずっと奥深い愛の形なのかもしれない」という境地への成長は、おばさんの胸にも迫りました。
    また、当時は一着一着手作りだった洋服…赤ちゃんの肌着から令嬢のドレスまで、丁寧に作られる描写がまた魅力的。だからこそ、現代のファストファッンに労働も自尊心も搾取されるこんにちの第三世界のお針子さんたちへの言及がある前書きにはハッとさせられる。便利だから安いからついつい買っちゃうZ●●●とかもそうなのよね…改めて自分の消費行動を振り返ります…
    そゆこと抜きにしても面白い、愛すべき小説。かわいい装丁で2刷も出してる河出さんはさすがやー!

  • 表紙の綺麗な絵に惹かれて読みたいと思った本。
    お針子と言えば『バルザックと小さな中国のお針子』が思い出される。

    この本は19世紀末のイタリアを舞台にした貧しいお針子の成長物語。コレラで家族を亡くした5歳の「私」は祖母と二人きりになった。祖母から教わったのは裁縫の技術と職業人として生きる知恵。
    当時のイタリアがこれ程までに階級社会で、男女格差がひどかったとは驚いてしまった。
    半地階に住み、お屋敷からの裁縫仕事を請け負う日々。祖母は私が読み書きが出来るようにと先生を頼んでくれた。布に一針一針刺繍が施されるように「読む」ことはお針子が見る世界を少しずつ広げてくれたのだろう。エステル嬢や英語教師のミスの存在も大きかったと思う。主人公がお針子であることの矜持を保ちながら生き抜く姿に共感させられた。 

    物語は、布の表と裏をひっくり返すようにくるくると展開するので読者を飽きさせない。着飾る人とそれを縫う人、既製服と手縫いの洋服、まともな人生と苦しく不名誉な人生…など対比するものの描き方も上手い。そしてなんと言っても繊細な針仕事のシーンがとても魅力的。
    足踏みミシンがカタカタ鳴る音を感じながら一気に読み終えることができた。

  • とても素晴らしいお話だった。
    20世紀初頭のドレスの作り方や文化を学ぶことができる。
    主人公が時に周りと戦いながらも、女性として自立して生きていく様が清々しい。
    私たちはそろそろ大量生産、大量消費の生活を改めなければならない時期が来ているのではと感じた。そういったことにも気づかせてくれる本だった。

  • 19世紀末から20世紀初頭を舞台としたイタリアのお針子の少女の物語。
    当時のイタリアは階級社会で、お針子さんはどちらかといえば貧しい階級。祖母から1人でも生きていけるよう、裁縫の技術を学び、お金持ちの貴族階級には逆らうべからず、と教えられて育つ。
    ペストによって祖母以外の身内を亡くした主人公は、祖母の裁縫の技術での稼ぎで暮らす。
    この祖母が素晴らしい。孫に裁縫ばかりか、自分は教えられないのに、人を頼んで文字を習わせてくれたのだ。
    人柄もあるが、祖母の教えで身を守り、友人の助けで、危うい所を乗り切る。そして、友人の子どもを引き取り育てる。自分の力で生活できる事に対する誇り。正義感や恥じらい、品の良さなど、人間として大事なものを身につけている主人公。とても良い(^^)
    手縫いでさまざまな物を作る描写にうっとり♡職人気質の人はきっと気にいると思う。
    「お嬢様のお洋服がパリから届きました!」には笑った。

  •  1頁目からわかる面白さ。「あ、これ絶対私が好きな作品だわ」とワクワクしながら読み進む。
     舞台は19世紀末のイタリア。祖母に育てられ裁縫の腕を身に着けた主人公が少しづつ技術を身に着け、自立して生きる姿がまぶしい。振りかかる出来事に悲観することなく、夢を見すぎることもなく、情があつすぎず薄すぎず、常に自分を客観視していそうな冷静さが格好いい。己を節制を課しているのに、ふと見せる激情やもろさが魅力を際立たせる。
     語り手が魅力的だとそれだけで面白い。(いやもちろんそう見せるために作者は工夫してくれているんでしょうが、わからないくらいに面白い)

     つまり、面白かったー!

  • お針子として上流階層の人々の家などで働く主人公の目を通して、階級や男女の性差などに苦しめられながら自らの足で立つ女性の物語。

    https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2021/03/25/000000

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著者プロフィール

1942年サルディーニャ島生まれ。イタリアにおける児童文学の第一人者。『あたしのクオレ』など児童文学、小説、エッセイなど50以上の著書があり、受賞も多数。大人向けの小説でも人気を博し幅広い読者をもつ。

「2021年 『ミシンの見る夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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