まじないの文化史: 日本の呪術を読み解く (視点で変わるオモシロさ!)
- 河出書房新社 (2020年5月19日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (120ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309228037
感想・レビュー・書評
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「呪い」と書いて「のろい」とも「まじない」とも読む。奈良時代から現代までの様々な「呪い」の遺物解説を中心に、ビジュアルで紐解く「呪術」の曼荼羅本である。新潟県立博物館企画展の図録を「のろい」の部分を充実させて書籍化(呪い(のろい)は展示には不向きだったかららしい)。
この本ではやはり出てこなかったが、縄文・弥生時代にも、おそらく同じ概念の「呪い(まじない)遺物」がある。吉備地域を中心に広く出土している分銅型土製品というもの。初期には模様、後期には赤ちゃんのような顔が描かれていて、分銅のような形の真ん中からポキッと折れた形で出土する。そうやって赤ちゃんの早逝を予防していたのかもしれない。人形(ひとかた)や人面墨書土器は、低湿地や溝跡から出土することが多いらしい。川や水に流して、災いを取り除く呪い(まじない)が行われた可能性が高いと思う。雛流しも同じ思想だろう。(京都府向日市文化資料館には、長岡京跡地から出土した人形、墨書土器、ミニチュア竈門、土馬などがあった)
呪い(のろい)に関しては、一章を設けて文献に現れた「事件」をたくさん紹介している。現代では「呪いによる殺人」は成立しないが、養老律令(757年成立)では禁じているのだから、成立もしている。「厭魅蠱毒(えんみこどく)」と言われ、蠱毒は毒殺だからのろいとは言い切れないが、厭魅は予備や未遂であっても罰される。現代でいう共謀罪よりもタチが悪い。結果的に政敵追い落としのための手段として使われることが多かった。具体的方法については不明だが養老律令の中の「賊盗律」には「符書を作って呪詛を行う」とあり何らかの文字や記号の書かれたお札を用いていたと考えられる。これにより「事件」が起きていたのは確かなのではあるが、具体的殺害方法などは「説話」などにしかなくて、客観的証拠に弱いのが実情だろう。陰陽師なども、必要に応じて大活躍していたようだ。
本書は今年2月後書き、5月の発刊ではあるが、図らずも「アマビエ」の記述もある(1846年肥後国での言い伝え)。アマビエとまるきり同じ話なのに、何故か今年流行らなかった「亀女」の話の方を、本書は詳しく紹介している。‥‥寛文9年(1669年)佐渡の海から現れた亀女が「5年の間豊作だが、悪風邪のために多くの人が死ぬ。しかし我が姿を描いて見せれば難を免れるぞ」として福島潟に現れた姿を描いて家内において朝夕に見たら悪病を避けることが出来たそうだ。亀女だと異様だから、アマビエが採用されたのか?今からでも亀女をプロデュースするべきではないか?
少し似通っているもので、「蘇民将来と茅の輪」信仰がある。一夜の宿を求めた者(神)に親切にした兄(蘇民将来)と、神の言う通り茅の輪を腰につけた妹が難を逃れたらしい。そこから、自ら「蘇民将来の子孫」を唱え茅の輪を持てば疫病を逃れることになった。蘇民将来とは人の名前だったのである。これが8世紀後半を最古にして、やがて「蘇民将来のお札」「茅の輪を潜る夏のお祓い」そして祇園祭に京都の玄関戸につけられる「厄除け粽」に変化している。これらは現代にも綿々と続いている。そう言う意味では、七夕の短冊や絵馬も現代では生き生きと息づいてる。因みに先日京都吉田神社で引いた御神籤は「吉」でした! -
新潟県立歴史博物館 監修、古来から伝わるお札や呪文の意味に迫った一冊(写真満載のオールカラー)。奈良平安時代に伝わる「呪いの古代史」的なものから、遺跡からの出土品から呪術要素を分析したり、お札に書かれている文章の解析だったり、見ているだけで面白い。安倍晴明が祭文を読んでいるそばで、多くの異形の者がその姿を見つめている屏風が紹介されていたのだが、それが一番印象に残った。
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呪うは「のろう」とも「まじなう」とも読む。文化や技術が発達していない時代、病気や偶然の不幸さえも「誰かに呪われた災い」として、濡れ衣を着せられたり、医療としてお祓いしたり、実際のろったりしていた。今も、いい意味で願掛けやおまじない、お願い事などする。現代の世界でも心を鎮めたり、気持ちの拠り所、背中を後押ししたり、楽しむために、いや、結構マジで存在してるものなのかも。なかなか面白い本でした!
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「呪」の字は「まじなう」とも「のろう」とも読める。
同じ字なのにニュアンスが変わってしまう。
不思議な事実だ。
そんな「呪」に関するあれこれを集めた本である。
新潟県の博物館で行なわれた企画が元なので、新潟県での話が多い。
しかし「文化史」と銘打っているだけあって、全国の文献や史料にある呪いも紹介してくれているので興味深かった。
呪いの痕跡はあるのに文献にあまり残っていないという点も言われて納得。
そりゃ誰も証拠は残したくなかろう。
法律でも呪いに関しての項目があるくらい、昔は馴染み深いものだったようだ。
それなのに文字としてはなかなか残っていない。
残っていてもフィクションめいて盛られている印象。
もどかしい。
しかし呪いは過去のものではなく、現在に受け継がれているものある。
科学が発達しても、科学では解明できない何かにすがりたくなるのは現代人も同じなのだろう。
できれば絶やして欲しくない文化である。
……いや、「のろい」はあかんで、「まじない」で頼む。 -
新潟県立歴史博物館の企画展における「まじない」と関連講座の「のろい」の書籍化
「のろい」については、古文からの引用で、政争の道具としての呪いを解説している。
「まじない」については、博物館での企画らしく、豊富な写真とともに解説している。
全体で100頁弱で薄いが、展覧会の雰囲気が味わえるのと、まじない、のろいについてきちんと解説している書籍が他に無いことから、読む価値はあると思う。 -
七夕の短冊も呪物。
絵馬を筆頭に日本には今も土着の呪物が残っている。
新潟県のとある展示からの書籍化というのもあり、新潟視点の呪物の話がおもしろい。
アマビエ様もある意味呪物のなれかも。 -
博物館らしく、いろんな文物が紹介されており、興味深かった。まじないの入り口に。
私たちはまじないに囲まれている。
←私は、交通安全の御守りとか、健康の御守り。御朱印も一種のまじないかな。
・七夕:邪気払い
・雛祭り:穢れを払う、流す。
日本の呪術は、土着信仰に、密教、道教、陰陽五行思想などな、混じり合ったもの。
「のろう」…災いがあるようにと神仏に祈る
「まじなう」…災いや病気を除いたり、反対に起こしたりする。
力の及ばないことに対し、「呪う」
呪いを禁止する法律←たくさん事例があったから?
…厭魅蠱毒→準備であっても罰せられた。
・奈良時代呪詛ファイル
「天平勝宝の厭魅事件」「和気王による呪詛事件」など
・平安時代呪詛事件ファイル
「藤原伊周の道長呪詛事件」「長徳の変」など。
・物語に描かれた呪詛事件ファイル
『宇治拾遺物語』『今昔物語』など。
古代史における呪詛
…権力闘争による冤罪が多かった。
出土品から見る呪術
呪文(おふだ:木簡)
「蘇民招来」…人の名前。神に宿を提供しもてなした。蘇民招来の子孫を名乗れば疫病から逃れられる。
「急急如律令」…陰陽道より。急ぎ律令のごとく行え。
「九字」…道教。臨兵闘者皆陣列在前。ドーマン。蘆屋道満。
「家々之百鬼打返」
「☆」…五芒星。陰陽五行説より。晴明桔梗紋
「九九八十一」…呪符によく見られる。じゅもんの1つ。
形代、人形
…身代わり。災いを移す。
人面墨書土器
…人面土器。穢れを祓う。本人の顔?鬼の顔?
妖怪の絵
…アマビエさまとか。亀女、件、アマビコなと。
境界を守る
しめ縄、お札、大きな草履
願掛け。
絵馬。
←子どもの風呂嫌いをなくすための絵馬が。笑った。
起請文
→天地神明に誓う。謙信の起請文! -
新潟県立博物館で平成28年に行った展示+新たに書き下ろしを加えて、「まじないの文化史」としてまとめたもの。「呪い」は「まじない」とも「のろい」とも読め、大昔から日本は、表裏一体であるこの「呪い」に頼ってきた。
目次
第一章 呪いの古代史ーー奈良平安時代呪詛事件ファイル
第二章 呪いの形ーー出土品から見る呪術
第三章 呪文の言葉は急々如律令――呪術の背景にあるもの
第四章 生きている呪術――境界とおふだ
第五章 願をかける――様々なおふだのかたち
といった構成になっていて、奈良・平安の頃の「政」と「呪」の関係、陰陽五行思想や密教、道教、土着の信仰などが複雑に混ざり合った日本の呪術の特徴、そして陰陽道の紹介など、ざっくりと「呪い」史を捉えられて分かりやすかったです。
「亀女」気になります、、、
「亀女」気になります、、、
http://chihou-ijyuu-niigata.blog.jp/archives/8...
http://chihou-ijyuu-niigata.blog.jp/archives/82521530.html
ありがとうどざいます
あまり知られていないのは、亀女さんの方がアマビエさんより姿にインパクトが小さいからかな?(ま...
ありがとうどざいます
あまり知られていないのは、亀女さんの方がアマビエさんより姿にインパクトが小さいからかな?(まぁ最初に発信された方が、アマビエさんの地元の方だったからかも)