死刑囚弁護人

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309246024

作品紹介・あらすじ

「死刑の現実」を赤裸々に綴った衝迫のノンフィクション。かぎりなく冤罪に近い殺人犯から、自他ともに認める極悪人まで。妻と二人の子供を殺害したとして死刑を宣告された殺人犯とその真犯人を知っていると主張するもう一人の殺人犯-抗しがたい現実になぜ立ち向かおうとするのか。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカのテキサス州で死刑判決確定者を相手にする弁護士、デビッド・ダウ。

    彼の弁護ポリシーはシンプルだ。冤罪の可能性を探し、裁判で判決をひっくり返して無罪を勝ち取る、なんてドラマみたいなことを目的とはしない。刑が確定した死刑囚からの依頼を受け、判決の手続や書類のミスを探し出すことで死刑執行を1日でも1時間でも遅らせることが彼の仕事だ。

    だから、彼は死刑囚に決して希望を持たせない。依頼があった次の日にも死刑は執行されるかもしれないことを説明する。そして、依頼された多くの死刑囚は遅かれ早かれ死刑が執行される。そんな彼の活動に意味があるのか、虚しさはないのか。そんなことを考えさせる。また、死刑までの行政プロセスが実にいい加減なことにも驚かされる。

    そんな彼の担当する死刑囚に冤罪の可能性が浮かび上がる。本書は事件の冤罪証明に努力しつつ、並行して他の死刑囚の訴訟に携わり、家庭では良き父、夫であろうとするデビッドの行動を描いた自伝ノンフィクション。妻との出会いや、女裁判官との交渉など、あまりに赤裸々なので、どこまで事実なのか疑問。

    また、弁護する彼は死刑に賛成なのか、反対なのか。彼はそれを明らかにすることなく、与えられた義務のように死刑囚と向かい合い、淡々と誠実に弁護をこなす。こうした、死刑囚に損得抜きで寄り添う「死刑囚弁護人」の存在は、死刑が認められた社会には必要だろう。

  • この本を手にした理由のひとつには、舞台が懐かしいテキサスであった、というのもある(実際、ニューブラウンフェルズ、シュリッターバーン、ガダルーペ川などなど、とても懐かしい名称が多く出てきた)。
    さらに、自分なりの考えがある「死刑」という制度についての、その現実に近い人物の書いた本だったから、というのもある。
    そして読んでみて、想像していたのとは少し違った内容であったし(もっと弁護の具体例、実際の案件をいくつも取り上げた裁判について、詳しく書かれているのかと思っていた)、あまりダイレクトに自分の感情を表現しない著者の文章に慣れるのに若干手間取ったりもした。
    だが、誇張や偽善のない率直な文章を読むうちに、どれほどの苦悩と無力感、絶望感を味わいながら、長い間自分の信念を貫き奔走し続けているのか、その著者の強靭な(といっていいと思う)精神力と努力と矜持にひたすら敬服した。
    同時に、かようにもお粗末な裁判(裁判官も、検察官も、弁護士も、裁判という手続きも)がまかり通っているというこの現実。
    裁判とは一体何なのか?真実とは?罪とは、罰とは、人が人を裁くとはいったい何なのか?誰のため、何のためなのか?どう考えても、そのこと自体に不備があるとしか思えない。人間が人間を裁くことに限界があるのなら、やはり死刑という制度は行われるべきでない。

    冤罪も少数ながら存在するが、その多くはやはり実際に犯罪を犯した人間で、しかも考えるだけでもおぞましいような罪を犯した者もいて、死刑の執行にもなんら悲しみを覚えないこともあるのも確かだ、と著者はいう。ただ、判決だけ出して、制度への賛成だけして、では実際に生きている人間の命を奪うその行為は他人任せ、なんら責任を負わないというのは卑怯だ、死刑制度とはそういう卑怯な制度なのだ、と。
    だからこそ、著者は報われることのほとんどない徒労にも思える死刑囚の弁護を引き受け、制度の不備を改善するべくたゆまぬ活動をつづけている。

    あらん限りの知恵と努力で、死刑の淵から無実の死刑囚を救おうと奔走したその結果が、時間切れ、手続きの不備などによる刑の執行という形で終わったとしたら、それがほとんどいつもだとしたら。著者が苛まれる無力感は想像を超えるだろう。それでも彼が、この道で走り続けられるのは家族の支えがあるからなのだ。
    家族との温かい日常が、冷たい制度との戦いの合間に描かれているのがほんの少しの救いだった。

  • (もともと死刑に値するような罪人はいないから)警察・検事・弁護人・判事・陪審員に、真実を知ろうとする意思と怠慢を憎む心があれば死刑はありえない」という信念のもと、他者の怠慢と戦う弁護士。他者の見落としを責めるのではなく、新たな視野、新たな視角を示すことで闘うところがカッコイイ。
    でも、成功率は低いらしい。報われないことが多いけれど、できることをしつくさなくてはいられないんですね。誰にも敬意を払われない命があってはならないから。
    死刑囚弁護人は何度現実に裏切られても「希望を捨てない」という勇気が必要な職業です。自分がを簡単にあきらめようとしている多くのことについて、本当はもっと努力するべきことがないか、立ち止まって考えたくなる本でした。

  • 米国で死刑囚専門の弁護人をやっていた著者が関わった死刑囚たちと彼の家族(妻と息子)とのドキュメンタリー。
    米国では、死刑囚に刑の執行の日にちは告げられるようで、自分の命があと何日というのが本人もわかる。最後まで自分の無実を訴える死刑囚もいれば、無実ではあってもあきらめてしまう人もいる。無実とはいっても、殺人こそしていないけれど、それなりの罪は重ねていたりする人が登場する。そんな前歴や風評と、そこそこの証拠で刑が決定してしまう事も多いように感じた。それは、日本に比べ凶悪犯罪が多い米国の現状なのかもしれない。
    日本と米国では制度が違うし、刑の方法(絞首刑でも電気椅子でもなく、注射による薬殺のようです)も違うけれど、基本として著者は死刑反対論者のようです。
    こんな風に死が決定された人々の弁護を専門にしていると、心休まるところは家族なのだと感じた。妻や息子への限りない愛情と、時々仕事で約束を破られてしまう息子のけなげな言葉に、この人はどれだけ癒されているのだろうか。家族の絆を感じた。

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