橋の上で

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309292083

感想・レビュー・書評

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  • 橋の上で川を見ていた夕方。
    雪柄のセーターを着たおじさんにぼくは出会います。

    おじさんは「川が好き?」とぼくにききます。
    ぼくはほんとうは考えていました。
    いまここから川にとびこんだらと。

    ぼくがぬすんでいない本をぬすんだっていった
    あのおばさんは悪かったって思うだろうか。

    ぼくの上着をゴミ箱にすてた
    あいつはおびえるだろうか。

    いまここから川にとびこんだら。

    するとおじさんは
    みずうみを見たことある?
    といって、自分だけのみずうみの話をきかせてくれました。

    そして
    はやくおかえり。
    といっておじさんは手をふりながら橋を
    わたっていってしまいました。

    いつか、たぶんおとなになってから、
    きょうのことを思いだすだろう。

    ぼくは、ときどき耳をふさいで、
    地底の水の音をきくことがある。

    いまでは、みずうみが、はっきり見える。


    ※ここまではベージュと黒の二色だけの色で描かれているのですが次のページだけが明るく輝くようなブルーとグリーンと白を使って描かれています。


    水辺には、かならずだれかいる。
    友だちや、だいじなひと。
    生きているひと、もう死んでしまったひと。


    ※そしてまた、ベージュと黒の絵に戻ります。


    あのときもし川にとびこんでいたら、
    会えなかったひとばかりだ。

    みんなの顔に目をこらし、声をききながら、
    ぼくは眠ってしまう。
    長い夜が明けるまで。



    これはもう、子ども向けの絵本ではなく、中高生以上から大人に向けられた絵本ではないかと思いました。

    いつかたぶん誰もが大人になってから思い出すあの日のことが描かれた絵本だと思いました。

  • 図書館の受付カウンター近くに置かれていた本。
    ふと目に止まり、何気なくもう一冊と…
    借りてみた本。

    橋の上で川を見ていた「ぼく」
    「ぼく」の学校で体験したショッキングな出来事などの回想…
    いつの間にか隣に来ていた、何年も脱いでなさそうな古い雪柄セーター姿の「おじさん」
    「川が好き?」
    「橋が好き?」
    などと話しかけてくる「おじさん」

    暗い地底の水路をとおって君のもとへとやってくるという「みずうみ」の話をしてくる「おじさん」
    「耳をこうやってぎゅうっとふさいでごらん。遠くからやってくる水の音がきこえるよ。」

    子供の持つ純真さ、真っ直ぐさ故に怖いのは…
    儚さ、危うさも持ち合わせているところだ!

    湯本香樹実さんの文と
    酒井駒子さんの絵
    たちのぼって来るように伝わってくる…
    「いのちの物語」

    耳を両手で「ぎゅうっと」ふさいでみると…
    ごおっ という音が微かに するようで…
    心が落ち着く気がする…



  • 扉絵の少年の、ふてくされたような、何かをあきらめたような表情が、丁寧な書き方ではないものの、だからこそ、とても印象に残る。

    要するに、そうした気持ちを抱えた少年の、人生を続けるのか、否かといった、分かれ道に、早くも来たわけである。決して、本人がそう望んだわけではないのに。

    そんな思いで橋を眺めていた少年の胸の内を、おそらく察したのであろう、雪柄のセーターのおじさんは、こう語りかける。


    みずうみを見たことある?

    ただのみずうみじゃない。
    その水は暗い地底の水路をとおって、
    きみのもとへとやってくる。


    最初、私はよく意味が分からず、何やら崇高な事を言っているのかなと思い、何度も繰り返し読み直して、自分なりに考えてみたところ・・・

    昔、人の視線や声が極端に怖かった私は、外出時に必ず、イヤホンをかけて、好きな音楽を聴いていたことがあり、この意味するところは、本書での、おじさんのアドバイスと一見似ているようでいて、全く異なる。

    私の場合、音楽に無理矢理、意識を集中していただけだが、ここでは、外界の音を遮断することで、自分自身の内界だけに意識を集中することができ、その内奥にある水音を探し出すことで、これまでの無意識下にあった、自分自身の歩みという水の流れ(大切な思い出たち)に気付くことを促してくれるのではないかと、感じられた。

    また、その気付きは、自分自身がどんな状況であろうと全く影響なく、楽しいときでも、辛いときでも、泣きたいときでも、変わらず促してくれる、素晴らしいものであることを実感させられて、それが、誰の内にも必ず存在する、『たったひとつの、きみだけのみずうみ』なのではないかと思ったとき、人間の内界の、その深い果てのなさは、誰かに貶されるような軽い物ではないと思うとともに、人間ひとりの生き様の偉大さを表しているようで、それを、酒井駒子さんの神々しくも繊細でやさしい絵柄が、また見事に、湯本さんの物語を彩っており、劇的ではないのかもしれないが、ジワジワと緩やかな感動をもたらしてくれて、ここまで来ると、絵本というよりは、文学作品だと思いました。


    2022年、最後の感想になりました。
    私の感想を読んで下さった方々、新しい世界を教えてくれた方々、ありがとうございます。
    皆さま、よいお年を(^^)/

  • 文・湯本香樹実、絵・酒井駒子。豪華なコンビから贈られた心穏やかになれる絵本の第2弾。

    前回の『くまとやまねこ』とは少し違った作風。
    けれど共通するテーマはやはり生と死。
    そして前回同様、グレートーンで統一された絵の中で最後に差し込む色彩(今回は緑と青)に救われる。

    少年が抱える現実の深い闇。
    この年頃の悩みに自分の過去を照らし合わせて、胸塞がれ気分も落ちこむ。
    橋の上で寂しそうに一人佇む少年を、そっと抱きしめたくなる。

    耳をぎゅうっとふさいで目を閉じて、地底の水の音を確かめる。
    水路を伝いやがて辿り着くのは大きな”みずうみ”。
    湖面のきらめきに穏やかな波紋。
    そして水辺に集まるたくさんの人・人・人…。
    自分を見て微笑む人だって、きっとそこにはいる。
    自分は一人じゃないことに気づいてほっとする。

    なかなか眠れない寂しくて長い夜も、心穏やかにして自分だけの”みずうみ”を見つめると、きっと深い眠りへと誘われる。
    夜が明けるまでの時間に、頭と心を休ませれば、きっと本来の自分も取り戻せる。

    大人になってから長い年月を経た私も、この少年のように耳をぎゅうっとふさいで目を閉じて、心を落ち着かせて自分だけの”みずうみ”を見つめてみようと思った。
    寂しくて長い夜も、きっと怖くなくなるはずだから。

    湯本さんの優しい文章と酒井さんのやわらかな筆のタッチが心に沁みる。今回の絵本にもくたくたに疲れた心をほぐされた。
    またこのコンビの絵本第3弾にいつか出逢いたい。

    それにしても、雪柄のセーターのおじさんは天使だろうか。

  • こんなにも絵と文がピッタリ合うなんて、驚きとともに感動しかない。
    何度も何度も読み返す。
    私の最高の一冊となる。

    川が好き?
    橋が好き?とおじさんが聞く。
    そして、耳をぎゅうっとふさいでごらん。と

    少年と同じように耳をふさいでみた。
    水の音が、きこえた。

    おじさん、教えてくれてありがとうと言いたい。

  • 本の帯に
    「20万部のベストセラー『くまとやまねこ』から14年──
    夢のコンビが贈る、いのちの物語」とある

    酒井駒子さんの絵が胸に痛い
    表紙の少年に語りかける
    「どうか……」
    モノクロの暗くて暗くて、でも愛にあふれた絵

    ラストの見開きのそこだけカラーの絵
    「よかったぁぁ」

    雪柄のセーターのおじさん、ありがとう

    子どもたち、どうか、生きて生きて
    そんなときを経た婆さんが祈ります

    ≪ 耳ふさぎ みずうみの底 水の音 ≫

  • 楽天ブックス|著者インタビュー - 湯本香樹実さん『くまとやまねこ』
    https://books.rakuten.co.jp/event/book/interview/yumoto_k/

    たったひとりでつくるお芝居。酒井駒子さんにとって絵本とは何か | 酒井駒子 | ほぼ日刊イトイ新聞
    https://www.1101.com/n/s/komako_sakai

    橋の上で :湯本 香樹実,酒井 駒子|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309292083/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      【夢のコンビが贈る「いのちの物語」】湯本香樹実、酒井駒子による絵本『橋の上で』が発売!|河出書房新社のプレスリリース
      https://prt...
      【夢のコンビが贈る「いのちの物語」】湯本香樹実、酒井駒子による絵本『橋の上で』が発売!|河出書房新社のプレスリリース
      https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000441.000012754.html
      2022/09/17
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『橋の上で』 酒井駒子さんインタビュー | 絵本ナビ
      https://www.ehonnavi.net/specialcontents/co...
      『橋の上で』 酒井駒子さんインタビュー | 絵本ナビ
      https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=1301
      2022/09/22
  • 絵が素敵すぎて、圧倒された。
    川にとびこんだらどうなるかな?
    そこに声をかけてくるおじさん。

    若い頃、つらくて死ぬことに気がいっていた時、私にも声をかけてくれたおじさんがいた。

    「どっか車で連れて行ってあげるよ。あんた、今にも死にそうな顔しちょる」

    相手のおじさんの顔とか、詳しいことは覚えてないけれど、その時の、声をかけられた驚きや、自分の心の中を人がわかっている驚き,色々が混ざり合って,その時の心境は鮮明に覚えている。

    この少年も、おじさんのことを一生忘れないだろう。そして、人生を振り返る時、思い出すんだと思う。

    死んじゃいけない、みたいな本は沢山あるけれど、この本は酒井駒子さんも味方につけ、他とは圧倒的な差をつけて輝いている。

    少年の後ろ頭が、特に好きだ。

  • <出版社情報>
    学校帰り、ぼくはひとりで川の水を見ていた。そこに雪柄のセーターのおじさんがあらわれて、ふしぎなことをおしえてくれた……名作『くまとやまねこ』の夢のコンビで贈る、いのちの物語。


    イジメや誤解で川に飛び込んでしまいたくなった少年。おじさんが、まるで少年の心の闇を見透かす。「耳をぎゅうっとふさいでごらん。」
    すると、きみだけの湖が見えると言う。その水は暗い地底の水路をとおって、きみのもとへやってくる。そしてその水がきみのからだをめぐるんだ、と。
    湯本さんは「人は自分だけの湖を持っている」という。(インタビュー記事)
    その湖は生きる泉で、自分を静かにのぞきこむ時間があると、なんとか新しい朝を迎えられる。
    絵本で見開き1ページに唯一きれいな彩りのある湖が描かれる。
    「水辺にはかならず、だれかいる。
    友だちや、だいじなひと。生きているひと、もう死んでしまったひと。
    よく見ると、そこにはかぞえきれないほどたくさんのひとたちがいて、みんな思い思いに、草の上にすわったりねころんだりしている。
    ぼくと言葉をかわすひともいれば、しずかに見つめるだけのひともいる。
    ふりむいて、
    ぼくがちゃんといるのをたしかめると、ほほえんでうなずくひともいる。」

    今、悩む人に。
    どうか、長く、苦しい夜が明けることを祈ります。
    川にとびこまないで。暗くよどんでしまう時もあるけれど、澄んだ水になる日はくると信じて。
    そう、思えた絵本でした。

  • 両耳をぎゅうっとふさいでみる

    ほんとうだ

    ごおぅという音がきこえてくる

    わたしだけのみずうみから流れてくる

    たしかな水音が…

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著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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