夏至南風 (河出文庫 な 7-21 BUNGEI Collection)
- 河出書房新社 (1999年9月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (185ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309405919
感想・レビュー・書評
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ふと夏至南風に吹かれたくなって。
腐りきった夏がやって来ました。叛骨心よ!
どことなく三島由紀夫『午後の曳航』を思い出す本作は、長野さんも愛する代表作で、頁という頁にわたって、腐爛した、湿り気のあるグロテスクなモチーフが鏤められています。しかし、その悍ましさは果実のように妖潤であり、ひと夏の惨劇でありながらも永遠にちかしい時間の粼に何度恍惚としたことか! 碧夏との出逢いから、サディスティックな眉姿の潜む鬱々とした地下部屋に検疫公司の廃墟、近親相姦に峻拒の囁き、絶望の怨嗟を彷彿とさせるラストシーン…。「醜悪ながらも美しい」とはこの手の作品を形容する時に使われがちですが、まさしく本作がそれで、文章が内容を凌駕していますね。三島由紀夫しかり、そんな作品は大好物です。ごちそうさまでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
南国の、イメージとしてはベトナムか。熱い南風が、果物や野菜ばかりか肉体までも腐敗させていく。完璧な美をもつビーシアの、なんという結末。人を人とも思わずむごい目に合わせて楽しそうに哂っていたビーシア。「君なんか誰も愛さないよ。そして、君も誰をも愛しはしない。」そう言い放ったクーラン。自分を嫌悪し、美しい人をも嫌悪する。しかし、その人が変わり果てて目の前に現れたとき…。
ごみごみとしたスラム、不衛生極まりない港町、そこでレイプされる少年たち。しかし、それは日常茶飯事。ビーシアは、ほぼ間違いなく情性欠如のサイコパスだと思う。ただ、この作品全体を流れる雰囲気…生きるのが容易ではないのに生きることにどこか真摯ではないという気配のなかで、ビーシアはこれ以外の人格ではありえない、と思う。
今まで読んだ長野作品の中では、好きな作品です。 -
出た!!長野まゆみの謎幻想卑猥小説だ!!
マジで近親相姦・同性愛・強姦・流血・死体・モロモロなんでもありだよ!!!!っていう古の長野まゆみだ…謎文語体を卒業してからすぐの年代のときのテンションの… -
面白かったです。
黒長野…長野まゆみさんはこの系統が好きです。淫靡で湿度のある、でも涼やかな少年たち。
じめじめしていて、空気に腐臭が漂ってても、醜く腐敗していてもよいです。すぐ服の前を開けてしまうところも。
碧夏が良いです。完全な少年だ。。
残酷で、でも美しい作品でした。 -
15年程前に読んだことのある作品ですが、再読。
当時は若かったので「いやらしいわ、これ~」という
印象だけが強かったのですが
あらためて読んでみると、長野さんの筆力に脱帽します。
どのページを開いても、
湿り気を帯びた熱風が体にまとわりつくような臨場感と
熟れた果実から溢れ出る腐臭が感じられます。
丹念に語彙を選び抜いているのだなとつくづく考えさせられました。 -
再………読。根底は同じなんだろうけど、直接的な連続殺人や刑事などの存在を見ると、事件に目が行き、謎解きがしたくなる…けど、漠然と掴みつつ犯人も動機もはっきりと攫めなかった今回も。著者様のこういう本って珍しかったような気がするのだけど、気のせいかしら?
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クーランは喋り言葉が理解できないが、本文では他の人の発言は描かれるし、他の人物の視点も織り込まれている。生も死も、性も、全てがこの小説の世界観独自のものとして描かれている。
少年たちが行動を起こすたびに、そのあまりの自己破壊的な選択と行動に「なんで!?」って思いを抱く。でもそれって現実世界の少年にも共通することだし、性や暴力が極端なだけで、少年の「晒されるという暴力・晒されることにる魅力」みたいなものが描かれていると感じた。クーランが嘔吐するシーンとか、「うおお」ってなった。
あとがきの本人の解説はよくわかんなかった。植物にもう少し気を配って読めばよかったのかもしれないが、そもそもドライフィッグが無花果だということに気がつかなかったのがいけなかった。 -
好みが分かれる本みたいだけれども
毎度のことながら独特の世界観に引き込まれてしまった。
やっぱり文章は奇麗だし、直接的でもあるんだけど生々しさを感じさせない。メタファーっていえばいいのか、こういう事なのかなってちょっとだけ考えたりもした。 -
エッ、終わりなの?!と思った。笑
個人個人が好き勝手に行動して秩序のない世界に夏至南風が吹く。
自己というものを模索する少年期には、伯母なのどの大人はたるんでみえる。果実は腐っている。
そして帰ってきた時にその果実のように腐った碧夏の意味は、、長野先生なりの社会への反抗を表した物語なのかもしれない。
腐っている世界。 死体が転がる世界。
腐っている=死体に対して、最後の碧夏は腐っているのに生きているから鈷藍は嬉しいのかなあ、と。
どうやっても綺麗な話にはならないことは確かですね。 -
再読。
初めて読んだときは色々と衝撃的過ぎて読了後も暫くはこの世界から抜け出せなかった気がする…。
長野まゆみ作品に登場する少年たちは、まるで精巧に作られた人形のような美しくて浮世離れした少年ばかりだったのが、この作品では一変して性や暴力など自らの欲求に従順な姿が目立っていて生々しい。
岷浮にある戯島界の薄暗くて不気味な雰囲気「快楽といかがわしさの巣窟」と作中で書かれているように辺り一面がこの怪しい空気に覆われているためか読んでいても気がどんよりと重くなる…。
でも、それが良い
いつもの長野まゆみ作品とはまた違ったテイストで描かれる少年たちにも魅力があって、気付けばぐいぐいと惹き込まれてしまう。