二・二六事件 (河出文庫 ひ 7-2)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309407821

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  • 世界恐慌で貿易が壊滅的ダメージを受けたのに加え
    浜口内閣の農政失策が米価暴落を招き
    農村に人身売買が蔓延した
    兵士たちの間に政治・経済への不満が高まる一方
    民間では右翼思想家のカルト化が進行し
    軍関係者を取り込んで、テロ・クーデター計画を頻発した
    それがだいたい昭和6年ごろの話である
    とくに陸軍皇道派においてはトップの真崎甚三郎らが
    足場固めとして若手将校たちに迎合
    おだて、甘やかし、結果的に226事件を引き起こす火種となった

    ただしそこから事件に至るまでの経緯は複雑だった
    辻政信の陰謀や
    荒木貞夫の失敗人事により
    皇道派の立場が悪くなっていく
    それと共に怪文書が出回るようになり
    真に受けた相沢三郎が、永田鉄山を斬殺した
    辻のデッチ上げとされる疑惑で免官されていた磯部浅一は
    相沢の行動に刺激され、昭和維新実現のために動きだす
    ここに、志を同じくする青年将校たちが集結していったわけだ
    ところが実際のところ
    彼らの動きはすでに憲兵隊がキャッチしていたのである
    にもかかわらず、見逃されていた
    治安維持法の規制範囲から外れていたとはいえ
    にわかに信じがたい話である
    反乱の早期決行で憲兵を出し抜いたということか
    あるいは、磯部の行った上層部への根回しが功を奏したのか
    そのあたりはよくわからない
    青年将校たちは、嘘の命令をデッチ上げて連隊を連れ出した
    下士官の中には疑問を持つ者もあったが
    それを口に出すことは憚られた

    青年将校たちからすれば天皇は絶対である
    しかし、そんな天皇の庇護下にありながら当時
    日本の社会はガタガタであった
    なんでそんなことに…と訝ったあげく
    青年将校たちの行き着いた結論は
    天皇のまわりに巣食う「奸臣」どもが悪いと
    だからそいつらを始末すれば全ては良くなると
    そういう短絡的な考えであった
    これにブーストをかけたのが北一輝
    この本によると、青年将校たちに対しては
    いわゆる「霊言」みたいなパフォーマンスもやってたらしい
    要は天皇を勝手に代弁したカルトなんです
    そんなもんに忠臣を何人も殺されまくったとなれば
    昭和がブチ切れるのも当然のことだ

    しかし事件の最中から青年将校たちへの同情論は根強かった
    それだけ当時の政治不信が強く
    腐敗した時代を打破するのは純粋な心だけだと
    一般的に信じられていたわけだ
    天皇を純粋に信じる若者たちのやったことじゃないか
    彼らの裁判を担当する判事ですらそう思っていた
    陸軍が圧力をかける形で、首謀者たちは大半死刑になったが
    禍根のようなものは残った
    それが天皇への不信…一種のニヒリズムとなって
    結果的に、軍部の専横を後押ししたのではなかろうか
    事件の余波で皇道派が消滅したのち
    真崎甚三郎らの政界入りを阻止するため
    軍部大臣現役武官制が復活したのであったが
    これによって陸軍は気に食わない内閣を公然と妨害するようになり
    なおかつ総意としては天皇を軽んずるようになった

  • 資料として

  • 松本清張 「昭和史発掘」の前に概要を知るため読む

    当時の軍部は 家族的な服従システムは機能していたが、組織的な指揮命令は機能してなかったと思った。現場と組織の意見が対立する時の自己判断、自己責任のあり方を考えさせられた

    二二六事件の背景
    恐慌→農民が飢餓→兵の大半は農村出身→兵は国のため命を捧げる気にはならない→政府への怒り→天皇主権国家を再構築

    服従システム=直属の上官の間違いを考えない
    *直属の上官のためには 命を投げ出す→家族的な服従システムの中の空気
    *さらに上の上官の説得には応じない→組織全体の指揮命令システムは機能していない

    二二六事件後も軍部独走→日本軍の侵略戦争→米英との戦争へ進んだのは
    二二六事件を学習材料にして 戦争プロパガンダを高度化させたからではないだろうか?

  • 事件の背景、時系列、登場人物が詳しく読みやすく書かれている。昭和維新を標榜した青年将校を煽る軍部の派閥闘争も見えてくる。

  •  事件自体は有名だけど、その後の彼らを知っている人はどれだけ居るンだろうか? 殆どが自害したイメージで居たが、実際は暗黒裁判による死罪だったのには驚き。
     泥沼試合を避けた時点で、軍部の闇は明確だったであろうに。
     純粋な思想と、素朴な人柄を上手く操って派閥争いの道具に使ったイメージになる。
     上官に命令されて反乱軍となった兵士のその後もまた物悲しい。

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著者プロフィール

平塚 柾緒(ひらつか・まさお)
1937年、茨城県生まれ。戦史研究家。取材・執筆グループ「太平洋戦争研究会」を主宰、数多くの従軍経験者を取材してきた。主な編著書に『米軍が記録したガダルカナルの戦い』(草思社)、『図説・東京裁判』『図説・写真で見る満州全史』(河出書房新社)、『ウィロビー回顧録・GHQ知られざる諜報戦』『写真で見るペリリューの戦い』(山川出版社)、『玉砕の島ペリリュー』『写真でわかる事典・日本占領史』(PHP研究所)など多数。

「2020年 『新装版 米軍が記録した日本空襲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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