M/D 下---マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (533ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411064

作品紹介・あらすじ

ジャズの帝王=マイルス・デイヴィスの生涯を論じる東京大学講義はいよいよ熱気を帯びる!下巻はエレクトリック期から沈黙の六年、そして晩年まで。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻と同様、楽理の部分はパス。ファッションの件はやはり興味深い。ただマイルスの死については当然ながら自伝にも載っていない部分のため、少しこみ上げる物があった。

  •  SNS(主にTwitter)をスマホから消しスマホで得ていた活字欲をKindleに全振りするために読み始めてついに読了。長い時間かかったけど、それだけの価値がある最高の読書体験だった。マイルス・デイビスは音楽が好きなら誰でも知っているだろうジャズの巨匠。彼に対して何となくのイメージ(たとえばスーツを着たサックスプレイヤー)で終わらせている人が大半だと思うし自分もそうだった。しかし、こんなに興味深い音楽家だったとは!と目から鱗な展開の連続で彼に対する解像度がめちゃくちゃ上がった。そしてストリーミング時代の今はほとんどの音源が聞ける幸せよ…少しずつ堪能していきたい。
     彼に関する自伝、評伝は色々出ている中で本著はそれらを下敷きにしつつ独自の見立てを当てていくスタイルなのがとてもオモシロい。実際に東大で行われた講義に対して著者の2人が情報をさらに追加して書籍化しているので文体が講義形式になっており授業を受けているようで理解しやすかった。各アルバムに関する解説がかなり深くて今まで何となく聞いていた作品群が頭の中で改めてマッピングされたのが良かった。また当時の評判や現在の視点で振り返って見えることなど多角的な視点で作品を捉えることで何倍も楽しめるようになっている。ジャズは悪い意味でBGMとして安易に消費されがちな日本において、どうやってジャズを楽しむことができるのかという意味でも示唆的な内容がたくさん載っていると思う。
     マイルスの音楽は年代によって全くテイストが異なるためにキャリア全体をつかむのがなかなか難しい。ミスティフィカシオン(神秘化)という言葉をテーゼに掲げて、マイルスの掴みどころのなさを解きほぐしていく。陰陽の両面を一つの作品に落とし込むこと、ひいてはマイルスの人格自体も両義性に溢れているのではないか、という大胆な見立てで彼の実像に迫っていく過程がスリリングだった。時代を追いながらどういう変遷があったのかをかなり具体的に解説してくれる。一口にジャズといっても色んなスタイルがあり、50-60年代のマスターピースの数々の中でもオーケストラ作品や定番のクインテット系など、それぞれのカラーやどこがユニークなのか?楽譜なしで著者2人の圧倒的な語彙力により文字で説明されている。またマイルスの音楽の変遷を追うことが結果的に音楽の歴史を追うことになり、アコースティック、エレクトリック、磁化といったテクノロジーの変遷と彼の音楽が変化していく過程がめちゃくちゃオモシロかった。(磁化=テープで録音=編集できる、という視点は編集が当たり前の今となっては新鮮すぎる視点)
     マイルスバンドに在籍したことのある唯一の日本人であるケイ赤城のこの言葉は刺さった。音楽家たるものかくあるべし的な。常に新しい要素を取りこんで自分のものとして解釈、アウトプットすることでしか前進できない彼の音楽スタイルの原点とも言える話。マイルスも新しい音楽も聞いていこ〜

    *マイルスは朝起きて夜寝るまで音楽を聴いているんです。そして、つねに新しいものを聴こうとしているんです。そしてなにかインスパイアされるものがあったら、それがそのままトランペットの音に出てくる。そこで初めて、僕たちはマイルスが今日とんでもない音楽を一日ずっと聴いていたんだなということがわかるんです。*

  • 「ミスティフィカシオン」とか、そういうオレオレ用語がすごい気になった。何語?! 下巻は、おそらく著者の意図とは違ってマイルスがどんどん大したことのない奴に見えてきて面白い。けっこう張り子のトラで、ジミヘンとスライになりたくて『ビッチェズ・ブリュー』『アガルタ』『パンゲア』を生み出し、プリンスとマイケルになりたくて後期の一連の作品を生み出した、というのはけっこう実感として納得。ただ、『デコイ』のソロなんか聞くと、そんなに廃人には思えないんだよね。これも録音マジックなの?!

  • 第4章 電化、磁化、神格化―1966‐1976(アコースティックからエレクトリックへ;さらなる電化/磁化への道程;エレクトリック・マイルスの構造分析;『オン・ザ・コーナー』から引退まで)
    第5章 帝王の帰還―復帰‐1991(帝王のいない六年;八〇年代の感傷的な速度;帝王の退場、二〇世紀の終わり)

    著者:菊地成孔(1963-、銚子市、ジャズミュージシャン)、大谷能生(1972-、八戸市、評論家)

  • なんか、マイルスの死に際を後追いしながら、死ぬまで滑稽で、死ぬまでかっこよかったアンビヴァレントな人生に涙ぐんでしまった。晩年、「死にたくない」といって暴れるなんて、なんてマイルスらしいエピソードだ。

  • 上巻レビューからの続き。

    <1960年代後半>
    ・アコースティック期の最後、第二次クインテットは、ウェイン・ショーター、ハーピー・ハンコックなど超絶技巧者揃い。ジャズのカルトとしてのマイルス・デイヴィスは、商業化する音楽との接点を失い始める。
    ・以前は、目の肥えたジャズファンが集まっているライブ会場で、新しい即興を生み出し、受けのよい即興をレコーディングすれば、名盤となっていた。しかし、現代の黒人の若者はジャズではなくソウル、ファンク、ロックを聴く。ブラック・ミュージックの第一人者でいたいマイルスは、保守化し、時代と乖離し始めたジャズファンに失望し始める。マイルス電子化、ファンク化の時代へ。

    <1970年代>
    ・1970年発表『ビッチェズ・ブリュー』は、エレクトリック路線を推し進めた内容。世界の音楽シーンに衝撃を与える。
    ・かつてのメンバーだったハーピー・ハンコックやチック・コリアはフュージョンでヒットを飛ばすが、マイルスはファンク色を強めた作品を発表。ジミ・ヘンドリックス、スライ&ザ・ファミリー・ストーンにシンパを感じていたマイルスだが、アルバムは前衛的、ジャズファンにもロック、ファンクファンにも受けず、1975年以降休息期間に。
    ・ジャズの芸術至上主義的傾向は、終了ムードに。フリージャズはアングラ化し、世界中で潜伏。
    ・ヴェトナム戦争後、疲れたアメリカ。疲れ果てた近代。絶えざる前進は、一旦終息。癒しとスローライフのフュージョンブームへ。
    ・かつてはいかに前進しているかが価値だったが、レトロ回帰。甘い感傷。

    <1980年代以降>
    ・1981年帝王マイルス復帰。ポップ色を強め、プリンスなどにも接近。世界のVIPタレントとしてセレブの生活を送る。
    ・音楽的評価は低いが、「セレブのすることには誰もつっこまない」ということで、みなマイルスの音楽活動を歓迎。まだ80年代マイルスの評価は低いが、数十年後、理解が進んで急上昇する可能性もあり。
    ・マイルスは常にヒットチャートの上位ランクインを狙っていたが、夢は実現できず。代わりにグラミー賞や、ヨーロッパ各国で表彰されたりする。
    ・ヒップホップを取り入れた遺作『ドゥー・バップ』を19991年発表。91年肺炎で死亡。晩年はマイコプラズマ肺炎と糖尿病に苦しんだ。
    ・80年代マイルスのバンドにいたケイ赤城さん談「僕がなんでマイルスを天才と言うかというと、彼の場合、自分のなかでやりたいと思っていたことと、音楽が歴史的に必要としていた変化が一緒になっているんです。あの人がこうやりたいと思うと同時に音楽の歴史が変わるんです。自分のなかの一番主観的な部分が、歴史という一番客観的なものと繋がっているわけです。それがひとつの天才の定義かなと思うんですよ。そういう人間というのは100年にひとりですよね」

    <所感>
    ジャズが黒人の若者の音楽の中心だった時代から、ソウル、ファンク、ヒップホップへと主軸が変わっていく時代に生きたジャズの帝王マイルス・デイヴィス。人々はマイルスをジャズという枠組で捉えたがるけれど、マイルス自身は、ジャズのヒットチャートでなく、総合のヒットチャートで上位にランクインしたかった模様。ビートたけしは昨年末の番組で、立川談志は落語の天才だったが、落語の時代に生きていなかったので、大変苦しかったのではないかとコメントしていたことを思い出した。自分の愛するものが、時代と適合しない苦しみ。

    小説は19世紀、メディアの王様だったが、20世紀は映画、テレビに押され、21世紀はインターネットに押された。それでも小説というメディアはなくならない。伝統芸能として存続する。素晴らしい作品も生産され続けるだろう。若者は文芸誌に載るような小説でなく、ライトノベルを読んでいる。小説も時代とともに変わる。

    ジャンルにこだわるのでなく、今を生きる人たちに最も支持され、評価される作品を作り続けようというマイルス・デイヴィス的な意志を貫きたい。

  • 東大での講義録を元にした濃密に饒舌なマイルス・デイヴィス評論。
    菊地&大谷コンビの語り口が好きで読むべき本であって、間違ってもこれでマイルス入門しようなんて軽く考えて読み出すと痛い目を見るよ。

  • 2011/10/16 購入
    2011/10/30 読了

  • 分厚い上下巻を夢中になって一気に読了。まだ買ってないマイルスのアルバム、たくさんあるんだよなぁ。

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著者プロフィール

ジャズ・ミュージシャン/文筆業。

「2016年 『ロバート・グラスパーをきっかけに考える、“今ジャズ”の構造分析と批評(への批評)とディスクガイド(仮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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