銃 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.67
  • (175)
  • (377)
  • (300)
  • (60)
  • (22)
本棚登録 : 4080
感想 : 340
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411668

作品紹介・あらすじ

昨日、私は拳銃を拾った。これ程美しいものを、他に知らない――
中村文則のデビュー作が河出文庫からリニューアル刊行!単行本未収録小説「火」、著者の解説風エッセイを収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 私の大好きな著者の世界観の元祖を見るつもりでこの作品を手に取ってみたのだが、なんか違かった。

    そもそも狂気を演出するのに「動物の死」を使う事に、創作だから許される許容は勿論持ち合わせていても今回は心底胸糞悪かった。ある意味リアルって事なのだろうか。経験値ゼロのメンズの脳内みたいな官能的シーンも下品で汚い。

    今の作品を楽しめるのもココがあってからこそなんですよね。ただそれだけを感じれた事が嬉しい。

  • 中村文則さんのデビュー作。
    「銃」をひょんなことから拾ってしまった普通の大学生の、心とからだと頭の変化をヒリヒリとした文体で描ききっています。

    一緒に、ハラハラ、ドキドキしました。

    ラストにかけては、ページを捲る手が止まりませんでした。心理描写がとても素晴らしいなと。そうだよな。きっとそうなるだろうな。人って。

    鬱々した作品は苦手意識がありましたが、もっと読んでみたいと思わせて貰いました。

  • 感情とは怪物なのかもしれない。
    事象があるから感情が起きるのか、感情があるから事象が起きるのか。ただ、ただ、切迫する空気に追い詰められた。

  • 中村文則のデビュー作。勢いが凄い。熱量が伝わってくるようで一気に読んだ。

  • 著者のデビュー作であるこの作品、読んでみて感じたのは何とも言えない、いい意味での後味の悪さ。
    たまたま銃を拾った主人公が、銃に呑まれて、翻弄され、最終的に人格までもが、何とも言えないクライマックスだけどもそこが、中村文則の真骨頂だと思う、ぜひ読んでみてください。

  • 中村文則さん、多分3作品目。
    デビュー作ということで、どんな作品なのだろうと思ったけど、とてもリアリティとかけ離れているような話にも感じられるし、とってもリアリティに溢れているとも思う。

    主人公が銃を持った時の衝動と、そこから銃に恋をするように無機質になっていくところ
    そして最後に、主人公が人を殺そうと決意し、そしてそこから色んな逡巡を重ね、そして決行するところ。この流れがとてもスムーズでスラスラと読めてしまった。

    だけど1番自分が好きだなと思ったのは、その後だと思う。
    1度主人公は自分の今後の人生やこれから起こることを考えて、銃で人を殺すことを止める。そしてそこから、自分が今生きているありがたみを感じたり、日常的に今までどこか機械じみていた感性が、人間らしくなるのだ。
    しかし、そこから急展開。電車の中で衝動的に人を殺してしまう。
    これはとても良く人間の中身を描いているなと思った。
    緻密に計画を立てたものほど、日が経つにつれて不安は増すし、自分の中で否定の言葉が出てしまい断念する。
    そして、そこから。そんな自分を突き動かすのは瞬間的な衝動なのではないかと思う。
    その衝動の恐ろしさを垣間見た気がした。

    もう一つ付いていた短編の「火」については女性の内面が悲しいくらいにずっと描かれていました。
    どこか湊かなえさんの告白に似たものを感じた。

  • 「銃」
     主人公は一見充実した生活を送る、ごく平均的であり、それ以上でもそれ以下でもない大学生。自己の奥底に潜んでいた破滅へと向かうのを望む願望が銃を拾うことによって肥大化する。自らの生い立ちの特殊性から、自分は周りの人間とは隔絶された存在であると認識している。銃という究極の実用的美に魅せられ、銃に傅き、銃を自己の内面の表層部分に融合させる。どこまでも平凡な人生(物語)を大きく捻じ曲げるきっかけはどこまでも平凡な事象であり、それに触れるどこまでも平凡な狂気との化学反応なのだ。意識と無意識に境界は無く、そこには下した判断にかけた時間の差しかない。
     この物語の主人公は『罪と罰』のラスコーリニコフだ。ラズミーヒン(ケイスケ)という友を持ち、判事ポルフィーリー(警察)に追い詰められ、ソーニャ(ヨシカワユウコ)に罪の告白を試みる。この主人公はラスコーリニコフのように罪を悔いることはなく、ラスコーリニコフのもう一つのエンディングの可能性、スヴィドリガイロフと同様の運命をたどった。ラスコーリニコフは罪を犯したあとに苦悩するのに対して、この主人公(西川)は罪を犯す前の段階で、銃とともに起きるその後の可能性に苦悩し、あるいは思考停止した。この作品『銃』は『罪と罰』の前日譚を含む、あり得たもう一つの物語の可能性なのだ。

  • 「列」に続いて読んだけど、大変面白かった。人は執着する対象に振り回されるものだけど、「銃」というただそこにあるだけの物に対して、主人公自身が一方的に幻想や思い込みを抱き、壊れていくのが興味深かった。人間が潜在的に抱える切り札や時限爆弾的な何かの示唆にも思える。

  • 依存は人生を豊かにもするが
    破滅に繋がる可能性も秘めている。

    そんな風に感じながら読みました。

    なにか淡々とした、箇条書きのようにも感じる
    文章が西川の心情にマッチしていた。

  • デビュー作ということもあり著者のマイナスのパワーがものすごいことになっていて面白かった。
    この方の物語は読後しばらくすると全く内容が思い出せなくなってしまうのだがおそらくこの作品もそうなりそうな気がする。
    ある日偶然にも銃を手に入れてしまった男の話。
    こんな内容は世にも奇妙な物語で観た記憶がある。
    後半主人公の感情の揺れ動きからくる行動を運命のように諦めたり従ったりする考えは勝手に共感できてしまう。

  • 中村文則のデビュー作にして、新潮新人賞を受賞した長編小説。
    作者の作品は初めて読んだが、非常に面白かった。繊細な情景描写と生々しい心理描写、このふたつが高いレベルで成立しているところに作者の突出したセンスが表れている。

    都内の大学生、西川はある雨の夜に、倒れていた死体の隣に落ちていた一丁の拳銃を持ち去る。西川はその拳銃に心酔し、隠し持ちながらも平凡な日常を送る。一方で、西川はそう遠くない未来に、自分がその拳銃を使って人を殺すと確信していた。その確信はやがて実行に移されていくことになり、、、
    というのがあらすじ。

    まずこの小説を読んで思い出したのは、ゴッフマンの「もし物語の中に拳銃が出てきたら、それは発射されなくてはならない」という言葉だった。
    これは「ドラマツルギー」と呼ばれる概念を端的に表した言葉だが、「拳銃」というキーアイテムと、予め決定された運命に悲劇的に巻き込まれていく主人公という構図からそう感じた。
    作者がこれを意識していないということはあり得ないと思うが、とはいえこれがメインの命題ではないと感じた。

    本作における「拳銃」は人間の熱狂のシンボライズであり、その対象の一例に過ぎない。人によってそれは宗教であり、仕事、家族、酒、ギャンブルでありえる。たまたま西川の「熱狂」が「拳銃」に向けられただけである。
    その熱狂によって、人はかくも簡単に狂い、すべてを失くしてしまう。これが本作の命題ではないか。

    西川は退廃的で情緒の乏しい人間ではあるが、「拳銃」を手にするまでは決して破滅的な人間ではなかった。それが「拳銃」への熱と偏愛を抑えられなくなった瞬間から破滅へとトップスピードで向かってしまう。
    この構成に作者の言いたいことがあると思った。

    また彼は「拳銃」を手に入れたことで、「能動的になり、機嫌が良くなった」と自己評価しているが、周りからそのようなことを言われている描写がない。さらに小説は西川が「拳銃」を手に入れたところから始まるので、読者はこの西川の自己評価を客観的に判断することができない。
    これは西川が隣人の女を撃てずに拳銃を捨てることを決意した後の描写も同様である。すべては西川の自己評価であり、彼の中で完結している。
    このあたりの敢えて客観性をもたせない表現も、作者のセンスと言って良い。

    ストーリーの展開として面白いのはラストシーンだろう。あれだけ緻密な準備をして臨んだ場面では女を撃てなかったのに、電車でたまたま横に座った粗雑な男を殺すために撃ってしまうあたりにドラマツルギーを感じる。
    しかも「撃つとしたら女だろう」という西川の確信は当たらなかった。つまり撃ったのは西川ではなくて「拳銃」の意志なのだ。
    このラストシーンがなければ、「まあまあおもしろかった」程度だった。だがこれによって自分の中でこの小説が傑作に変わった。

    同収録の『火』もよかった。
    こうした偏執したエネルギアな小説を読むのは楽しい。

    作者の他の作品も読んでみたい。

  • 普通に面白かったです。
    最後の展開が想像した通りだったので、
    拍子抜けしました。

  • 主人公が銃の持つ神秘性に惹かれて依存していく様子が一握りのスリルとともに書かれている。
    「銃」というワードがあるとヒヤッとするけど、銃ではないものに置き換えることで、私達の生活に密接に結びつく。危険だと思いつつも!どうしよもなく依存してしまうもの…
    撃たれたような衝撃を覚えた作品です。

  • すごい没入感のある物語と表現だった。
    銃を手に入れたらもしかしたら自分も人が変わってしまうのではないかと不安になったほどだ。そんなことは起きないのに
    銃を手に入れたことによる優越感や余裕感のようなものが次第に不安になる様子は人間的な面が表現されていて良かった。
    中村文則の小説は主人公の生い立ちや悲惨な境遇を表しているものが多いがこれもその一つである。
    そういった境遇の持ち主が今作の主人公のような感覚を持っているのか分からないが少し冷静というか何だが底が見えない感じがした。
    結局、銃とは何を表しているのか分からなかった。
    またもう一度読む機会があれば考えてみたい。

  • 「火」も「銃」も主人公が何かの行為を通じて、自分を超越している何かの中に入ろうとしているように思う。
    「銃」は心の闇、純粋な狂気、理不尽な生に対する抵抗といったものの暗喩のように思う。

    苦しみ悩む主人公の意識の流れを丁寧に書かれている。
    剥き出しの意識の流れ、それはどんなものであろう、大切で価値のあるものだと思う。
    少なくとも自分は現実生活で人の本音、純粋な狂気を見せられたことはない。見せられるはずもないが。それゆえ純文学や人の内面を書いている小説は自分にとってありがたくて救いのような存在である。
    ラストは予想していなかった。今まで見てきた中村はバッドエンドがなかったけれど、「銃」のそのなんというかブレーキが壊れたように辿いついたエンディングにちょっと驚いた。
    救われるだろうと思った。銃を離れて、静かでそんなに激しくない生活をこれから送れるだろうと思ったけれど、結局最後銃に飲み込まれた。まるで自分じゃない誰かが銃を打ったという風に…

  • この物語の主人公は人なのか、銃なのか。

    大学生の西川は、ある日河原で男の死体とその傍らに落ちている拳銃を発見する。新潮新人賞を受賞した中村文則のデビュー作『銃』は、銃を拾った男が銃に翻弄され、銃に支配されていく様を描いた作品だ。

    西川は、しきりに銃を“美しい”と形容し、毎日磨き上げ、銃とコミュニケーションを取ろうとしたり、自分がそれに似つかわしくない存在なのではないかと不安になったりしている。銃を半擬人化して銃に対して愛情を抱き、常に銃のことを考え生活するようになる。その執着はやがて、人に向けて銃を撃ちたいという逃れようのない衝動に繋がっていく。作中に繰り返し登場する銃という文字を何度も目にするうちに、読者まで銃を懐に忍ばせているような気分になってくる。

    主人公は幼少期に家庭に問題を抱えているという設定で、児童虐待が行われている親子も作中に登場する。このような登場人物は中村文則の他の作品にも多く登場しており、彼の作品の中で重要なテーマとなっていると考えられる。西川はこのような幼少期の経験から、「考えなければ不幸にならない」「自問自答をすることや、自分を知ることをしない方が、自分は快適に生きていける」と自分自身に対して興味を失っている。「一人称であるのに自己を客観視していくような」語り口で、自分の行為や考えに拠り所がない。その隙間に銃という強烈な物体は見事に入り込み、心を取り込んでしまったのだ。

    著者はあとがきに「内面に“銃”を抱えてしまう構図は、僕の人生そのものである」と記しているが、銃を内面に取り込み宿してしまうというその人間の心の空洞を、銃というツールを用いることで分かりやすく浮き上がらせて書き出した作品なのではないかと思った。私たちの誰もが心に銃を持ち得るし、いつどのタイミングでそれを撃ってしまうか私たち自身にも分からないということだ。

  • 震えながら読んだ。
    美しいものに魅了され興奮し徐々に生活が侵食されていく所が妙にリアルだった。
    後から冷静になってストーリーを追えば完全に狂っているのだろうが、一人称視点で書かれているから自覚がないままあのラストに突っ込んでいく感じが本当に自分事のようでクラクラした。
    これぞ、中村文則。

  • 雨が降りしきる深夜、東京板橋区の荒川付近で、男が頭から血を流して倒れていた。その傍らに落ちていた 「銃」を拾った大学生が、それ(マグナム357)の美しさと重量感に圧倒されて、語り始める〝拳銃は人を撃つ為のものであり、簡単に人を殺すことの出来るように造られたものだ〟〝もはや拳銃は私の全て、拳銃のない私は無意味、私はいつか拳銃を撃つ・・・〟親に棄てられ、施設で育った「私」の常軌を逸した鬼気迫る世界を描き、新潮新人賞を受賞したデビュ-作。 併録の「火」は、不幸のどん底で叩きのめされ、前後不覚に陥らせる驚愕作。

  • 解説で本人が「一人称であるのに、自己を客観視していくような書き方は」と書かれてあって一定して変わらない中村文則さん独特の表現の仕方だと思う。読みながら、ゾクゾクとした。まるで自分が悪事を働いているかのように。吸収されていく、この人の作品はわたしにとって危険だ、と思う

  • 中村作品は既に何冊か読んだが何故かデビュー作は読んでなかった。なるほどこれは評価が高い。特に海外の評価が高く村上作品に通じる所もあるか。読み進めると『私は』の言う言葉が異常に多く目に入ってくる。作者が自分像を主人公に投影させて表現しているのか。 今まで読んだ中村作品の中では一番読み易く内容もしっくり入ってくる。 時間と言うか色々作品を書いていくと内容も表現方法も難しくなっていくのか。 シンプルが一番と感じた人気作家のデビュー作。

全340件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中村文則の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
中村 文則
貴志 祐介
中村 文則
又吉 直樹
中村 文則
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×