英子の森 (河出文庫 ま 16-2)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 386
感想 : 34
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309415819

感想・レビュー・書評

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  • いただき本

    松田さんの作品は、確かにエッジがきいている。

    英語にとらわれた英子さん。
    解説読むと、バージニアウルフのダロウェイ夫人とコラボっぽい冒頭とか、面白い。

  • 単行本で読みそびれていたところ、このたび文庫化されたのでさっそく読んでみた。

    表題作「英子の森」は、多少なりとも外国語にあこがれを持ち、学習し、仕事でも少々扱う者にとっては、ボディブローの連打からフィニッシュの右ストレートをまともに打たれたくらいにディープインパクトな作品である。詳しくは伏せるが、日本の語学(特に英語)教育のまさにダークサイドが具体的かつ、読者にダメージを与えられるよう効果的に並べられており、覚えのある身としては「もうやめて、それ以上言わないで…」と、読んでいるうちにみるみるメンタルが削られる。実は私、読む数日前には心身ともに弱っていたのだが、その時読んでいたら立ち直れなかったかもしれない。猛烈営業系サラリーマンがうっかりアーサー・ミラー『セールスマンの死』を読んでしまったら受けるダメージ並みにキツいだろう。英子やその他の登場人物の周囲を取り巻く「森」の趣向がファンタジックかつ心理的なリアリティを持って迫ってくるのだけれど、個人的には、ちょろっと出てくる「沼」の記述が頭の隅に妙に残っている。

    松田さんの作品は、文体や構成で挑戦を続けるいわゆる「実験小説」の面もあるので、そこを眺めて楽しむこともできる。「*写真はイメージです」は軽やかに楽しむこともできるし、「おにいさんがこわい」「博士と助手」のように、そもそも小説の設定は何かを探りながら読むこともできけれど、最後の「わたしはお医者さま?」のように、作品のうちに潜むものに気づいて一瞬で怖さを感じさせる構成は、ハードミステリーでなければマイルドな作品に出会うことが多い(私個人の感想です、念のため)と感じている身には、刺激的で面白い。

    個人的には、鴻巣友季子さんの解説は、本編を読み終わってから読むようにしたほうがいいし、この本の存在が英語教育産業界から抹殺される前に、語学好きは読んでおいたほうがいいんじゃないかと思う。

  • 松田青子さん初読み。

    不思議な世界観。けどなんか面白くて、なんかああその感覚ちょっとわかるってなって、クセになる感じ。



  • またまたエッジの効いた短編集。

    表題作「英子の森」。
    英語力を活かすどころか、自分の英語力に雁字搦めになっている主人公。
    グローバルってなんだろう。

    「博士と助手」
    松田さんの書くこういうめちゃめちゃ底意地悪い感じの作品だいすき。皮肉もここまでくると清々しいというか。

    「おにいさんがこわい」
    はじめのサラリーマン2人の会話が好きなんだけど。構成が謎すぎてやや不安になる。すごい。


    なんかこう日常生活のもやもやとか違和感をファンタジーの世界にさりげなく織り交ぜてくるのが本当に上手で気持ちいいんだよな。
    ああそうそう、これが嫌なんだよな、とか、ああこれはこうだから嫌だったんだな、とか。
    自分の中で明確になっていなかった違和感にも気付かされる。サブリミナル的に。

  • ユングという人は、すべての人間が持つ無意識のさらに深層に
    共通的なメカニズムとしてのイメージが存在するとして
    これを「元型」とか「集合無意識」とか名付けた
    人間の野蛮な行動は
    こういったイメージに規定されるものだ
    そこで野蛮な行動を抑制するために
    人間は、人間精神の外部として宗教などの掟を作ったが
    しかしそれも、元をただせばイメージによって作らされたものと言える
    一個人が、自分自身の呪縛から逃れて自由を得るためには
    これらの「真実」を、分析的に理解することが必要となるわけだが
    本当にそういう意味での自由なんてもんがあるのかどうか
    よくわからない
    むしろ精神分析を否定し
    衝動に流されてこその自由だという考えもあろう

    英語を使えてこそ
    ちまちました会社だの国家だのいったくびきを離れ
    グローバル社会で自由になれるのだ
    そんな未来に憧れながら
    誰もが自分の「森」に固執して
    束縛されている
    そういうある種のだらしなさを
    自らの履歴を背景に、むしろ許すことができれば
    少なくとも、現状への焦燥感からは
    自由になれるかもしれない
    しかしグレート・マザーがそう簡単に理想の自画像を手放すであろうか
    という疑問は残った

  • この人の本をもっと読みたい

  • 表題作は、現実的な社会問題(派遣仕事や就職難)を扱っているようでいながら、家ではなく「森」で暮らすという特異なファンタジー設定の融合が斬新でとても面白かった。小花模様が異常に好きな母親のファンシーっぷりに最初は毒母なのかしらと思いきや、彼女の夫の母の思い出などが意外に温かく、英子だけでなく母の自立の物語になっていたところもいい。壁の花模様の花が落ちてきて、花柄ブラウスの花もふわふわ浮き出し、森が崩壊するシーンが象徴しているものは圧巻。マジックリアリズムぽくてとても好きなシーンだった。

    英語については、私自身の業務には必要ないとはいえ社員の七割方がペラペラな職場にいながら自分は全く喋れないコンプレックスがあるので、英子のレベルでも十分羨ましい(苦笑)とはいえ英語を自身の技能に置き換えれば誰でも共感できる内容だと思うし、意外にも(?)ハッピーエンドなのもいいですね。

    「*写真はイメージです」はまるで詩のようだった。そうなんだよなあ、この言葉、私も仕事上よく書き添えるけれど結局クレーム対策の逃げ道だし、そんなこと言い出したら全部イメージ。誰かが書いていそうで今まで誰も書いていなかったところが斬新。

    「おにいさんがこわい」もわかる。なんだか誰かが「おにいさん」という着ぐるみを交替に着ているだけみたいだもの。「博士と助手」も、SNSあるある的な皮肉を、絶妙な入れ子具合で構成してあってすごい。「わたしはお医者さま?」は一種の終末ものだけど舞台でやったら面白そうだと思った。たしか作者は元・ヨーロッパ企画の舞台女優さんでしたっけ。

    どの作品も、書かれている内容そのものは、誰もが感じたことのあるちょっとしたことなのだけど、それをどう料理するかという切り口のオリジナリティ、手腕が抜群。

    ※収録作品
    英子の森/*写真はイメージです/おにいさんがこわい/スカートの上のABC/博士と助手/わたしはお医者さま?

  • やりがい搾取という言葉が頭によぎった。

    『どうしてだろう。はじめて英語を使う仕事をしてからずっと、英語を使っているのではなくて、英語を使わせてもらっているような気がしてきた。英語を使うことのできる仕事を、見えない誰かに用意してもらっているような気がするのだ。使わなくてもいいものを使いたい使いたいと思う、その気持ちを見えない誰かに見透かされていて、ねえ、そんなに使いたいんだったら、50円差でもいいですよね、だって使いたいんでしょう、あなた、それを、英語を。そう思われている、そう蔑まれているような気がした。』(p.20)

    英語を使う仕事、を、司書や保育士に置き換えても成り立つだろう。

    2021年2月21日の今日、厚労省は4月以降、看護師の日雇い派遣を認める方向で政令を改正することを検討していると報じられた。
    看護師を初めとした医療従事者は強い使命感を持って働いている人が多いはずだ(そうでなけりゃとっくに全員退職しててもおかしくないだろう)。一種のやりがい搾取の成れの果てではないのか。

  • 英語の呪い、母親の言葉の呪い
    高校生のとき、進学に関する講演で、卒業生が話していた。近隣の大学の文学部英文学科にいる女性だった。当時の私の第一志望だった。
    彼女が留学したときに、現地の人から「あなたの専門はなに?」と聞かれて、「英語」と答えたそうだ。
    そうすると「英語?あなたは英語を使って何ができるの?」と問われ、答えられなかったそうだ。
    英語を勉強してきたけど、他の学科でも英語は勉強できる。少し後悔した。という話だった。

    それを聞いた高校生の私は、確かに英語だけできてもな、と思い別の学科に入学した。
    あのまま英文学科を受けていたら、私も英子になり兼ねなかった。
    あのときの彼女は今どうしているんだろう。英語力を活かした仕事に就いているだろうか。

  • 2013~2014年付けの『読みたい本リスト』から。
    先日古本屋で購入しました。

    短編「英子の森」は、何をきっかけに読みたいと思ったのか記憶にないのですが、リストに書き込んだのは進路を決めつつある時期でした。10年後の今になり偶然手にしましたが、もし当時読んでいたら…。周囲の大人から促された進路に疑いをもたない危うさ、得意なものを活かすことにこだわるつらさ(もしくは誇らしさ)について、ただただ不安になったかも知れません。

    今回読了したのは、2014年2月10日に河出書房新社より出版されたものです。

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著者プロフィール

作家、翻訳家。著書に、小説『スタッキング可能』『英子の森』(河出書房新社)、『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社)など。2019年、『ワイルドフラワーの見えない一年』(河出書房新社)収録の短篇「女が死ぬ」がシャーリィ・ジャクスン賞候補に。訳書に、カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』『レモン畑の吸血鬼』、アメリア・グレイ『AM/PM』(いずれも河出書房新社)など。

「2020年 『彼女の体とその他の断片』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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