香港世界 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 187
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309418360

感想・レビュー・書評

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  • 自宅に眠っていた積読本の1冊。
    覚えてる。女の子がしているリボンの巻き方が可愛くて、ジャケ買いしたやつだ。

    本書(河出文庫版)のためにカバー絵と、更に巻頭にあるエッセイ漫画を担当されたのは香港生まれのアーティスト 門小雷(ムン・シウロイ)氏。現在「リトル・サンダー」のアーティスト名で広く活躍されている。
    人物に風景・配色と柔和でありながら、同時に現地の活気も伝わってくる独特の雰囲気。そんな彼女の制作テーマは、「香港の記憶といまを生きるわたし」との事。


    自分は今の香港を知らない。
    返還直後の香港を訪れたことはあるが、よく知らないで周っていた。
    返還前の香港となると、ますます未知の時代である。

    ライター業の一環で香港に滞在していた著者が様々な文化的背景を持つ人々との交流や、生活の中で感じた点を余すことなくまとめた本書。香港史を予習をしてこなかった反省はあったものの、時間の流れすらチャキチャキとしたものに変えてしまう土地のエネルギー、そして”飯テロ”によってもたらされた空腹感で読後は頭がいっぱいになっていた。(美味しそうな広東料理が度々出てくるんです…!)

    「この街が放つ、密度の高いエネルギーとふてぶてしい存在感。[中略]私は、その熱い空気を腹に吸いこんで、香港とひとつになる」

    思い出されるのが、著者の「外国人的体験」観である。これが、とても新鮮且つ個人的に一番納得の得られた見解だった。
    我々と同じような顔をした人々が、(香港のような)よく似た風景の街で同じようなものを食べているにも拘らず、全く違う言葉・文化と社会の中で生きている。この「不可解な事態」に立ち会うのが本当の「外国人的体験」ではないか、と著者は述べる。

    著者は日本人ならではの礼儀はあえて持ち込まず、現地に溶け込むように生活されていた。というか、香港人になりきって生活されていたと言うのが正しいかもしれない。
    香港人に合わせてラフな格好で酒楼に行き、道を聞かれたりいきなり怒鳴られてもその場で何となくやり過ごす。
    そのうち自分が香港人であるような錯覚になってくるのだそう。

    自分が香港を訪れた際、街にはサリーを身に纏った富豪らしき夫人らが闊歩し、何組か白人の一家も見かけた。著者の言葉を借りると、彼ら(我々と違う風貌)との出会いや交流は「異人的体験」になる。
    しかし日本人と言われてもおかしくない容貌の新婦(ウェディングドレス姿)が新郎の先をズンズン歩く様をホテルのロビーで見た時、「異人的体験」とは全く異なるインパクトが残ったのをよく覚えている。

    カリキュラムを組んで異文化交流や語学学習を進めるのも良いけど、現地の空気になったつもりでそういった生の体験(特に香港は活きが良さそう!)にぶち当たっていく。
    却ってその方が本物の「香港の記憶」が刻まれていくのだろう。著者やリトル・サンダー氏がそうだったように。

  • ひと昔まえの香港について細かく書かれている本。
    私も何度か行ったことのある国ですが、こんな街並みもあったんだ…と、タイムスリップしてみたい気持ちになった。

    香港=買い物やグルメが目的、宿泊はペニンシュラで。←と思っていない旅好きな人に刺さる内容では。

  • 子供の頃から香港映画の影響か、
    得体の知れない雰囲気(笑)の香港に興味津々。
    この本は中国返還の前に書かれたもので、
    よりアクの強さを感じる。
    ますます香港に行きたくなってきた。
    今はもっと爽やかな感じなのでしょうか?

  • ちょっとハスに構え飄々と、でも隠しきれない愛を覗かせながら都市を描く文体は、どこか懐かしく、文体も文化だなぁと感じさせる。1984年刊なので、書かれている内容は今は変貌を遂げたかつての香港の姿。筆者は香港が変わっていくことをもちろん予感しているが、その想像ともまた違った現代の香港への思いを、「文庫本のためのあとがき」の〆で「リンゴ日報廃刊の日に」と凝縮している。印象的だったのは「香港人の素顔」の花嫁の家・新聞少年と、「香港トワイライト」の深圳・九龍城・南Y島。「潮がひくように数百万の人間がいなくなったとき、いまわれわれが香港と呼んでいるあたりは、ふたたび華南の長い自然の海岸線のなかに溶けこんで、容易に見きわめもつかなくなる」そんな香港もまたよいではないか。

  • 表紙だけで買ってしまった。香港、行ける時に行っておけば良かったな

  • 古き良き返還前の香港
    九龍城砦のことも写真とともに書かれています

  • おそらくとっくに失われてしまったであろう風景の中で、当時の輝きが語られるのを見ていてふしぎな気持ちになる、香港という場所の風景を描いた絵を読んでいるような感じ。
    この場所は今一体どうなっているんだろう、どんなふうに変化していて、これからどうなってゆくのだろう、この当時を語った人が今を見つめるとき何を思うんだろう、と思ったら文庫版の後書きが加筆されていてよかった。落ち着いた言葉で現状やイラストの解説を述べた締めくくりの<香港「蘋果日報」廃刊の日に>という一節に込められたものを思う。
    読み終わった後で見返すイラストやまんがには初めと違う感慨が湧いてくる。
    やさしくユーモアのあることばたちを見ていて、この人はそこでよい時間を過ごしてそれを記したし、それはこの人の持つ目がそうさせた部分が大きいんだろうと感じられる。

  • 返還前、70−80年代、香港で過ごした著者の現地での暮らしから見る、香港人の思想、住居、食事、しぐさ、お金、人間関係など。おそらく今では街並みも人情もすっかり変わってると思われ、そういう意味では、もう決して行くことのできない天地。そう考えると不思議な時間旅行が味わうのもまた一興という心持ちに。大陸から渡ってきて、香港に住み着いた人、そこからさらにアメリカや中南米など別の国に旅立って行った人のライフヒストリーは読み応えがあった。/毎日二階電車と二階バスにのり通勤し、家に帰れば大の大人が二段ベッドにもぐりこむ…という住環境/香港-マカオを結ぶ旅情あふれるフェリーも今は昔、現在は長大な海上橋でむすばれてる/寝間着でおでかけしてしまう香港娘/つねに温暖な気候で着るものにかまわない香港人が多く。イギリスが持ち込んだ毛織物は見向きもされず、ならばとアヘン戦争を起こし。香港人が毛織物に少しは興味を示していれば…などは詮無き仮定かと/歩道を歩く時は上から落ちてくるものに常に気をつけなば。火のついた煙草、おしめ、空になったプロパンボンベ、いかれた冷蔵庫。/食事をともにすることをとても重要視/野味といって犬や猫を食す習慣。ただ当時でも犬食なんて、という層もちらほらと/香港的微笑とは、我と彼の間になにか利害関係を含む実態的関係があること、あるいはそれをつくりたいと思う場合にのみ発動される。つまり赤の他人には笑いかけたりしないということです/アグネス・チャンも出演した米中仏伊合作映画「マルコ・ポーロ」。/などなど

  • 英国統治下時代の香港。エネルギッシュで元気な街の雰囲気が伝わるエッセイ集。当時の佇まいはだんだんと薄れていくだろうが、街や人の息遣いを感じる文章と共に記憶を呼び起こしていくだろう。

  • 香港へ旅行に行かれる方は、読んでおくと良いと思います。40年ほど前の香港の様子がわかります。その内の多くは、現在も変わっていないように思えます。

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著者プロフィール

1947年生れ。パリを経て返還前の香港に暮らし異文化コラムを寄稿。79年刊行の本書は知られざる香港の姿を描いた画期的ガイドとして話題となり、旅行者のバイブルとなった。著書に『香港世界』(河出文庫)等。

「2021年 『香港 旅の雑学ノート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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