砂の果実: 80年代歌謡曲黄金時代疾走の日々 (河出文庫 う 18-1)

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  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309419763

感想・レビュー・書評

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  •  歌番組にキラキラした曲がかかるとき、この人の名前が冒頭に白抜きのクレジットで表示されるのを何度見たことだろう。1970年代後半から現在にかけて、どのような思いでどのような場所でそれぞれの曲の歌詞を書いたのか、率直な文体で語られる。交友関係はかなり派手で、バブルの香りも濃厚に漂うけれど、「もう、みんな、ぼくのことなんて、忘れちゃってるよ」とつぶやくロンバケ前夜の大滝詠一さんや、ちょっと触れたらなにかが壊れてしまいそうな井上大輔・洋子夫妻との勝浦旅行のエピソードには、バブルにのりきれなかった人たちの心細さや繊細さを感じてしまう。

  • 最初は、余談とダジャレ満載でだるいと思ってたけど、少女Aを経て、チェッカーズ、矢沢永吉、坂本龍一、中谷美紀の話まで来ると、だんだんと話の密度があがってきたと感じた。さまざまなミュージシャンたちとの交遊、華やかな世界を垣間見る思い。並み居る大ヒット曲をおしのけて、著者自らが代表作と考えているのが、坂本龍一作品への作詞であると述べているあとがきにしんみりしてしまった。◆「真の芸術家は、その作品の中にいて、雄弁なのだと思います」(塚田マネージャー)(p.256)◆僕が自分の代表作と思う作品は、「美貌の青空」はじめ、坂本さん作曲の中谷美紀さんの一連の作品だ。それを書かせてくれたのは、音楽の中に潜んでいる坂本龍一という芸術家だ(p.257)◆読み終えてひとつ思ったこと。ここには書かれてないけど、著者の作詞で大ヒット出したり、すごく意気投合したアーティストがいたのに、なぜその後は別の作詞家になったりするのかな。そして、しばらく時を置いてまた依頼がきたりして。著者に限らず、みなそういうものなのかな。

  • 「花の82年組」のひとりでもあり、横並びのアイドルに収まらなかった中森明菜の40年を巡る本を巡っています。西﨑伸彦「中森明菜 消えた歌姫」、島田雄三「オマージュ〈賛歌〉 to 中森明菜」…デビュー40周年の関連本それぞれになにか物足りなさを感じてこの文庫にたどり着きました。「少女A」は中森明菜をブレイクさせただけでなく作詞家 売野雅勇の人生も変えました。「歌は世に連れ、世は歌に連れ」みたいな定型句がありますが、歌謡曲とJ-POPの狭間の季節に、社会がヒットソングに求めたものを思い出させてくれる本です。なので、出てくるガジェットが水色と黄色のフォルクスワーゲンとかボディがアイボリーで屋根がブルーグレーのメルセデスのクーペとか打ち合わせの喫茶店、レストランの固有名詞が、いちいち80年代の空気感を思い出させてくれます。今、世界のミレニアム世代が日本のシティポップスに注目しているのは高度に成熟した資本主義都市東京の生み出したカルチャーにノスタルジーを感じているからだ、という説を聞いた事があります。世界が竹内まりあの先に中森明菜を見つけるかどうかはわかりませんが、確かに高度経済成長のエピローグとして、あるいは失われた20年のプロローグとしての時代に要請されたアイコンが中森明菜であり、売野雅勇の言葉だったのかもしれません。この本の中で作者が赤裸々に愛を語る矢沢永吉のエピソードが印象的で、山下達郎と矢沢永吉の違いが、竹内まりあと中森明菜の違いである気がします。その違いを作ったのはこの作詞家の言葉だったとすれば、歌姫の宣託のライターとして彼もまた時代に召還された人なのかもしれません。

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著者プロフィール

1951年生まれ。作詞家。上智大学文学部英文科卒。コピーライター、ファッション誌副編集長を経て、82年、中森明菜「少女A」の大ヒットにより作詞活動に専念。90年代以降は映画・演劇にも活躍の場を広げる。

「2023年 『砂の果実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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