魔術師 下 (河出文庫 545B)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (483ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309460871

感想・レビュー・書評

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  • 結局、主人公は(その甘ちゃんぶりを勘定に入れても)ずいぶんひどい目にあわされる。しかしニコラスは大して当てにならないのに、彼の視点でしか物語が語られないのだから、心もとないことこの上ない。状況の見立てがころころ変わるので、絶叫系アトラクションに乗って、ぶんぶん振り回されるような読書体験になった。

    そしてそれなのに、解放された後も、かつて元カノにやってしまったようなことを、もっと若くてまだ自分が出来上がっていないような女の子にしてしまう。そして人に指摘されるまでそのことが理解できない。自分ばっかり可愛くて、ものすごく鈍感な若者なのだ。最後の最後にようやくちょっと線が太くなったかなぁーというところで終わり。これからいい男になれるといいね、という気持ちになった。

    ところで、コンヒスの語ったことがほぼフィクションだったことが巻末あたりでわかった。変態と言うよりパラノイア。どちらにしても、世の中には「どうしてそうなった」という行動原理が理解不能なひとが結構いるので、「神様遊び」の何故を問うても仕方ない。学生時代に初めて読んだときはコンヒスの仕掛けが気になって、落ち着かない気持になったのだけれど。次に読むときはどんな感想になるだろう。

  • 宮城などを舞台とした作品です。

  •  愛を信じない利己的なイギリス青年という主人公を使って、人間の自我や愛情や関係性などを私たちに掲示する物語である。青年が大掛かりな仕組まれた経験によって成長するという話でもある。だから主人公の人柄(性格)は『?』と思うような人格に在る。
     読み始め、第一部。主人公の人柄がどうも気に入らなかった。話の展開も全く分からず、ただ読み進める。言葉遣いや語尾が少々気になりぼちぼちと読んでいく。
     第二部になって、場所がイギリスからギリシャに変わり物語が進み始め怒濤のように展開し出す。どうなっていくのだろうという興味からずんずんと読み進める。この小説の中心部。とにかく面白い。第二部が終わる時には自分の現実についても自信が持てなくなる。
     第三部でこれまでの謎が解明され、”そういう話だったのか" と至る。

     すごく面白いし、読みやすいし、よく出来た作品だと思う。本当に素晴しい。その想像力、その発想力、その構成力に驚愕させられる。
     ギリシャ神話やシェイクスピアやその他の海外文学に疎い私は幾度も言葉を調べるハメになったが(例えば「シジフォス的に取り組む」とか「女神デメテル」とかに引っ掛かって調べる)、そういった言葉はむしろ作品の舞台としてのギリシャの島や物語の内容を感じるに必要不可欠なものであり、知らない私がいけない。博識な人の方がこの作品の良さをもっと感じられると思う。
     それから、絵や音楽、神話と詩、ギリシャ語などの外国語、歴史、自然、そういうものをとても効果的に使っていることが印象的だった。イギリス的、ギリシャ的、ドイツ的、フランス的、そういうものの使い分けも効いていた。
     とにもかくにも、隅々まで余すことなく作り込まれた素晴しい作品である。

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