- Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309462301
感想・レビュー・書評
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多くのものが西瓜糖で作られている世界。
死後を思わせるような、<過剰でない>平穏な人々。
詩的な幻想ながら、藤本和子さんの翻訳が見事で読みやすかった。
なんとなく、長野まゆみさんを思い出す。もしかしかたらブローティガンがお好きなのかもしれない。
『ビッグ・サーの南軍将軍』もいつか読みたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
翻訳がすばらしいな。一気に読んだ。村上春樹っぽいし、長野まゆみっぽいともいえる。こういう読書体験は好きだ
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過度な感じが全くない、死後の天国のような世界には、常になにかに脅かされているような、ヒヤヒヤさせられるような、生暖かい恐怖のようなものを感じる。
リアルさの欠ける不思議な世界観のなかで進んでいく物語も、欠如している部分が多い。
村上春樹好きのフォトグラファーにこの本を教えてもらいはじめてリチャードブローティガンを読んだが、私なりの腑に落ちるまでもう少し時間がかかりそう。
アメリカの鱒釣りもいつか読んでみたい。 -
静かでどこか浮遊している感覚に陥るような、はじめて味わう読書体験だった。
日常に疲れた時、この本に戻って、あるようなないような世界に思いをはせたい。 -
静かで美しい世界
考えてもしょうがない
ただ浸るだけ
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再読。ここにひとつの名を不在とすることからはじまる。それはひとの名であったか。
あなた、と仮にわたしが呼びかけるひとは世界から離れていったのではなく、おそらく生まれたときから世界は遠かったのだ。水を凍らせてその形を見つけようとするように、世界を透きとおらせて愛にさわろうとする。あなたは過去を映さない夜の窓ガラス。それでも決して消えない文字だ。
忘れてしまってもいい。
あなたなら何度でも西瓜糖の言葉で、死にゆく星の速度で、あまやかなこわれやすい日々を語り直すことができるだろう。
生けるあなたの手の形はうつくしい。 -
パキパキと区切られているのが詩集みたいでさらさら読める。幻想的で透明感もあるけれど、インボイル達の最期が狂気じみている。さらさら読めるのに陰があるせいか、不思議な読後感。
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静謐で優しく、「過度なもの」が何もない世界。そこにはまるで死後の世界のような空気が漂っていて、読んでいるとなんだか足元が覚束ないような不安に襲われる。世界の成り立ちや歴史は明確に説明されないし、「虎」や「失われた世界」がなんだったのかは結局分からない。失われた世界にあった過度なものに魅せられた人々はみんな自壊してゆくが、作者はそれを否定も肯定もしない。もちろん、それと同じまなざしはアイデス側の人間達にも向けられているが。ほんのりと懐かしい甘い香りがしそうな、まさしく「文学」と呼ぶべき小説だった。
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何かが欠落しているような世界。
でも、どこかとても充足しているようでもあって。
不思議な世界で起こる不可思議な出来事。
読後感も甘いような寂しいような。 -
幻想的な世界観と詩的な文章がとても心地よかった。西瓜糖でできた不思議な世界。理想的に見えて理想ではない世界なのだが、私は気に入りました。なかでも、狐火と共にガラスの柩に入れて川に沈めるという西瓜糖世界式のお墓が特に気に入った。夜にはその火が川底でぼんやり光って見えるというのが美しく、お墓なのに暖かみがあって良い。自分がこの世界の住人だったら夜の散歩が趣味になるだろうな。
穏やか過ぎると言ってもいいくらい穏やかな人々の住むその世界はとても平和そうだが、その平和は〈忘られた世界〉に象徴されるようにたくさんの忘却の上に成り立っているように見える。彼らの世界には本がなく、いまや自分たちの世界の成り立ちすら誰も知らない。無知こそが平穏の唯一の方法だと感じることも私はあるが、それを余計なことを知らないと言うべきか真に大切なことを知らないと言うべきかはとても決めかねる。無知と人々の均一性が全体の平和をもたらすというのは確かにそのように思えるが、それは真の平和なのか、他の方法はないのか……。
とまあ他にも示唆的な内容をたくさん含んでいるのだが、直の感想としてはとにかく全体の薄甘く生温かい詩的な雰囲気にほろ酔いの心地でした。