今回のリプリーは殺人しないのだけど、相手が勝手に死ぬのだけど、それまでの、またそれからばれるか否かまでの不安な過程について、解説にも書かれているが、彼の少しで崩れる、犯罪の上に成り立つ人生の危うさを描いている。
リプリーは犯罪者だ。どうも彼が主人公ゆえ肩入れし読んでしまうが、薄氷の上生きる存在であるのは正しい。厚かましく彼の犯行を知る人のない世界などないように、と思うが、彼の世界側、ちょっと悪い奴の魅力を読むにつけ逮捕されたくなく望んでしまうのは、完全にストックホルム症候群。私はリプリーが好きだけれど、悪い奴がどんな恵まれた生き方を手にしようと不安と背中合わせだ、と描いたシリーズ最終作は、素晴らしいと思う。