- Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464404
感想・レビュー・書評
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近未来を描くディストピア小説。
フランスの国民戦線とイスラーム党の政権抗争と、その帰結、およびそこから描かれる影響が表されている。視野狭窄と他者への寛容性を失った社会の起こり得る帰結と、そうした非日常が日常化していく中で作られていく新たな「当たり前」が描かれていく中で、現在の持つ特異性や良さ、改善点に改めて気付かされた。
著者の白人男性としての価値観も少々感じることがあった、ムスリムへのある種のぬぐいきれない固定観念みたいなものもところどころ感じたり。
自分はディストピア小説に割と心動かされることが多いのかな。ただ一方で、物語の大筋と個人の世俗的な欲望がどのようにリンクしているのか見えにくい部分があったことと、描写の直接性には少し違和を覚える場面もあったので、詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
宗教の話なので難しそうだなぁと敬遠していたが読んでビックリ!スーパー面白かった。今まで読んできたウエルベック作品の中でもストレートでシンプル。複雑さが控えめで読みやすい。主人公一人にしか焦点が当たらず分量も少なめなのもあるが。オチへ行き着く云々よりも、主人公が孤独に生きている些末な日常のディテールがツボだった。徹底的に孤独で、やる気もなく、生活に不自由もなく、社会的地位もあり、中の上な生活水準だからこそ希死念慮が襲うと言う部分が。
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西欧文明の行き詰まりからありうる近未来を描くということなのかな。一つの極端な基本的にはなさそうな可能性っていうことなのかもしれないけど、全体的なインテリ限定の世界にいまひとつ入り込めない印象。佐藤優の解説が余計に胡散臭さを感じさせる。この人の作品は初めて読んだけど女性の書き方はなんか酷い。この作品だけ?
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イスラム化していくフランスを強固な政治的リアリズムで描くという実験的な試みが小説の主軸にはあるが、見落としてはいけないのがユイスマンスの存在。享楽に埋没していた中年男性が精神的にも身体的にも危機に襲われる。
結末にやってくるのが、まさに主人公にとっての救い。
これはまさにユイスマンスの人生そのものとも共鳴してる。 -
宗教を布教することの目的って何だ?
イスラーム同胞党は、政治をとって何をしたいんだ?
一夫多妻制、女性に高等教育を受けさせず家庭に入れ働かせない、それぞれの家を大切にさせる、女性は外では体のラインを隠し頭に布を巻く。
そういう宗教の決まりは、どんな社会を作り出すためのものなのか、その社会で暮らすことはどうなんだろうか?
アーティストや、作家、活動家に心酔する人と、宗教に敬虔な人って似ているのかな?
救いを求めて歌や小説や哲学や学問に引き込まれていくのはわかるが、宗教にのめり込む人のことがよくわからない。
でもここに出てくる宗教は、そういう救いを求めて...ではなく、そんなものはなく、その宗教の決まりごと(一夫多妻、家父長制、女性の教育と社会進出の制限、体を隠す衣服、礼拝)によって、一国の教育制度を変え男のと女の精神を変え、男女関係を変え、個人の非常に私的な部分を変えてしまい、その延長として家族観を変え、生まれてきた子供をそんな世界が当たり前の世界で育てていく、そうして非常に精神的な部分から社会構造を変えてしまう手段として、宗教が使われているようなかんじ。
イスラム教のWiki読んでみた。
また、社会的地位の高い男を魅力的だとし、彼らが幾人もの美しい女と一緒にいることを認めて、子を作れば、美しく脳も優れた子が生まれるというのだろうか。
自然淘汰と表現していたが、こういう社会において相対的に社会的地位が低い男や、相対的に美しくない女は、どうなっていくのかな?
女は整形するのかな?、男は競って優秀になろうとするのかな?、それがイスラム社会としてはいい方向なのかな?
【隘路】あいろ
狭くて通行困難な道、物事を進めて行く上に妨げとなる点。支障。難点。ネック。
【軛】くびき
車の轅 (ながえ) の前端に渡して、牛馬の頸の後ろにかける横木。自由を束縛するもの。
ユイスマンス頻出 -
何年か後に読んだらまた違う感想になりそう
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全体的に大きな爆発的なエピソードはなく、ゆっくりと食べ物が腐っていく様を見ているような話だった。
序盤は社会情勢についてどこか他人事で非常に呑気な振る舞いをしているがだんだん自身の生活が変容していき、なすがままに飲み込まれていく様子が異様にリアルだった。
主人公が人生を通しての研究対象としたユイスマンスと彼自身の人生との相似形な構造が生きる事の奇妙さを際立たせるように感じ、惹きつけるものがあったし、宗教の力に国が飲み込まれていく様が流麗で恐ろしさを感じた。
人は抗うよりも順応していった方が生きるのが楽だもんなぁ。それがヨーロッパでいち早く市民革命を起こしたフランスであったとしても。
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西洋のヒューマニズムの終焉はイスラム文化と結びついてしまうのか。もはや人間自らが地球を切り開いていく力は残っているのだろうか。コミュニティが瓦解して、指針がなくなった人類はそれと相性の良いイスラム教を利用して、受動的に生きる術に縋ってしまう可能性は多いにおるのではないか、
教授の知的水準は高いのにも関わらず、彼は一人では満たされることができず、女や名誉、お金、食事など世俗的なものを持ちいることでしか幸せは掴めないのである。これが人間の性なのであろうか。彼にとって、国の情勢はどうなろうと構わないのである。イスラム系が政権を取ろうと、極右がとろうと彼の行動自体は変わらないのだ。