- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309464718
感想・レビュー・書評
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『墓に唾をかけろ』の新訳。舞台がアメリカで人種問題を扱っているせいかボリス・ヴィアンぽくないなあと思いながら読んだのだけれど、これってヴィアンがハードボイルド作家のヴァーノン・サリヴァンという別名義で(しかも黒人脱走兵という設定で)書いたデビュー作だったと知って納得。しかも性描写や暴力描写が過激なため風俗紊乱で起訴され裁判となり結果、発禁処分を受けたといういわくつき。さらに1959年に映画化されるもヴィアンは出来に不満で、文句言いつつ試写を見ている途中に心臓発作で亡くなったという・・・享年39才。
主人公のリーは、見た目は白人だが、実は黒人の血をひいている。見た目がより黒人ぽい兄は真面目な教師、弟はリー以上に白人ぽかったが、差別主義者の議員の娘に手を出しその家族に殺された。白人への憎悪を秘めたリーは、上流階級の美しい白人の姉妹を手玉にとることですべての白人に復讐しようとする。
リーはたぶんそこそこイケメンだ。ギターが弾けて歌が上手くて、ちょっと本気だせば若い女の子がコロコロ手に入る。陽気に楽しく生きていくことも可能なのに、彼はそうしない。彼に混じっている黒人の血はほんのちょっとなのに、それでもそれだけで、どんなにリーが魅力的な人間であっても、途端に態度を変え、毛嫌いする人々の気持ちは黄色人種の私には理解できないし、反面、彼らに無差別に復讐したいと思うリーの気持ちも。わからないがゆえに、余計にその根の深さがどこまであるかわからず怖い。なぜか読後の余韻はフォークナーの『サンクチュアリ』に近かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文学作品としてめちゃめちゃ面白いかと言われればそうは思わない。レトリックも正直粗雑な印象だしスリラーとしての緊迫感みたいなものも特別ない。タイトルに勝る挑戦的な内容をどうしても期待してしまったわけである。
ただ、フランス人がデビュー作としてアメリカ人を装い世に出したという本作にまつわるエピソードはまぎれもなく面白いし、終戦後まもない時代の退廃的な風潮が色濃く現れていて、人種差別というどうしようもない社会の暗部につかみかかるような作品であり、そういう意味でこの作品がもつ意味は大きいだろう。解説を読んで、ボリス・ヴィアンの生き様にも興味がそそられた。 -
黒人の血が1/8混じった若い男が、2人の金持ちの白人の娘に、黒人の血が混じっていることを隠して近づき、誘惑して騙して殺す。最後は警官隊に囲まれて死ぬ。センセーショナルな話で、あからさまな人種差別が当然のこととして存在した当時のフランスでは発禁になったようだが、過激な話が多い現代の目から見ると、ふ~んで済んでしまう。
当時のフランスを知るための古典としての価値はあるが、小説としては大きなインパクトのない話だと思った。 -
ジャズを愛し、黒人を敬愛していたヴィアンの人種差別に対する憎悪が、凄まじい力をこの本に託していると思いまます。
手足の震えが止まりません...。 -
3.57/192
内容(「BOOK」データベースより)
『すべてに反抗して閃光のように世を去った呪われた天才が戦後まもなくアメリカ人を偽装して執筆、ベストセラーとなったが発禁処分をうけたデビュー作が切れ味のいい新訳で復活。黒人であるがために殺された弟の復讐を誓った白い肌の黒人である「俺」は田舎町の白人社会に溶け込んでその機会を狙い、ついに白人娘二人を「叩きのめそう」としたが…差別への憤怒を結晶させたノワールの傑作。』
冒頭
『 序文
フランス人とアメリカ人のいわゆる会合で、ジャン・ダリュアンがサリヴァンに出会ったのは一九四六年七月頃である。二日後、サリヴァンは彼に原稿を持ってきた。
その間、サリヴァンがダリュアンに言うには、彼は赤道を越えたけれど、自分のことを白人という以上に黒人であると見なしているということだった。』
原書名:『J'irai cracher sur vos tombes』(英語版:『I Spit on Your Graves』)
著者 : ボリス・ヴィアン(Boris Vian)(ヴァーノン・サリヴァン名義)
訳者 : 鈴木 創士
出版社 : 河出書房新社
文庫 : 261ページ -
仏人作家が米国の20世紀の人種差別問題をテーマにした小説。若い男が目的に向かって動きだしスピードを上げて一気にゴールに駆け込むような勢いがあり読みやすかった。印象的だったのは、肩のラインが黒人と認識されるポイントになり得るということ。いくら見た目白人でも分かる人には分かるらしい。今でも米国の人種差別問題は根深いなあとニュースを見て思う事がよくある。
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文学
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絶対的な復讐心。狂えるほどの憎悪。酒と暴力とセックス。
圧倒的な文体に飲み込まれ、読み進める。私が感情をはさむ余地などない。
黒人の差別問題に恐怖をいだいた。ラスト2行にやっと複雑な気持ちが沸き起こる。ただただ、知ること学ぶことを私はやっていかなければ。ヴィアンの戦いの一書。 -
黒人の血が混じった主人公リーの白人への復讐劇。
アルコールとセックスとバイオレンスに彩られた物語の胸に迫る最後の一文。
ジャズのスタンダード“奇妙な果実”が頭をよぎる。 -
河出文庫から新訳刊行。
『日々の泡』が圧倒的に有名ではあるが、そのイメージで読むとけっこう吃驚する。けっこうアナーキーでバロウズを思わせる雰囲気が良かった。河出文庫が出したってことは、ヴィアンの新訳、これから出してくれるのかなぁ……?