水の墓碑銘 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467504

感想・レビュー・書評

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  • ベン・アフレック&アナ・デ・アルマスでパトリシア・ハイスミス著「水の墓碑銘」を映画化 : 映画ニュース - 映画.com(2019年8月6日)
    https://eiga.com/news/20190806/4/

    不可解の魅力―パトリシア・ハイスミス―Vic Fan Club: P.Highsmith(1998年9月)
    http://www.sgy2.com/vic/mystery/ohkura01/ohkura01.html

    第5回 今月のイチオシ本――ジョエル・ディケール『ゴールドマン家の悲劇』ほか(執筆者・♪akira) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート(2022.03.29)
    https://honyakumystery.jp/19762

    「水の墓碑銘」パトリシア・ハイスミス著 柿沼瑛子訳|日刊ゲンダイDIGITAL(2022/04/21)
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/304179

    水の墓碑銘 :パトリシア・ハイスミス,柿沼 瑛子|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309467504/
    (旧版)
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309460895/

  • 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』『クライ・マッチョ』『気狂いピエロ』。この半年間、自分の読んだものだけでも、古い作品が映画化を機に、次々と翻訳され出版されてきた。

     さらには本書である。映画では『底知れぬ愛の闇』との邦題で改訳復活を遂げた。それ も『フラッシュダンス』『危険な情事』など1980年代のスクリーンを席捲したエイドリアン・ライン監督に、今をときめくベン・アフレック主演起用で! これを書いている現在、僕は諸事情により未だ映画は観ていないが、読了した今は必ずチェックしようと思う。

     映画化と解約版登場の影響と思われるが『水の墓碑銘』は翻訳ミステリー札幌読書会、しかもZoomではなくリアルでの読書会再開の第一作品として取り上げられた。一も二もなく参加表明したもの先述の諸事情により敢えなく参加取り止めとなった次第。

     さて、本書! それにしても、殺人に至るまでの描写が濃厚なスープのようである。こんな夫婦生活があるのかと驚くくらいゆとりのあるセレブ生活なのに、奔放極まりない妻により与えられる苦痛を心のなかで誤魔化そうとする仮面の夫。夫婦の間に可愛らしい女の娘がいるのに、母であるよりも女としての魅力を振りまくことにすべてを費やす優しさなどこれっぽちも感じさせない妻。ぎりぎりと歯噛みする割に何もできない夫の中で、不気味な不燃物が溜まってゆく。

     そんな不和と不満が日に日に堆積する日常のなか、殺人の機会はいきなり訪れる。狙われるのは妻の相手の若い男。さあ、今なら殺せる。誰も見ていない。もう訪れることがないかもしれないそんな千載一遇の好機が、夜のプールに訪れる。

     ただ一度のチャンス。そして沈む死体。夫の殺人と信じて疑わない妻。そんな緊張感で後半は迎えられる。正直、前半は退屈な思いでスタート、徐々にネジが巻かれ、沸点に達し、遂に殺人。後半は、その後の夫婦の対立構造という緊張感に、いきなりリーダビリティのスイッチが入る展開となる。

     最期まで手に汗握るスリル&サスペンスの展開はなるほど映画の題材にも十分なりそうだし、なんと言ってもミステリーを作り出す展開のお手本となりそうな古典作品でもある。クライム小説の古典。ノワールの古典。心理サスペンスの古典。スリラーの古典。
     
     サスペンス映画の原作者としてあまりに有名なパトリシア・ハイスミスだが、この作家の本を手にするのは初めてであった。本書がアメリカで出版されたときはぼくは1歳。明らかに時代のすれ違いだ。訳者あとがきで、改めてハイスミスの際立った個性、スリリングな人生と情熱的な生き様を知った。この作家の人生の中に作品誕生の秘密が多く隠されていそうだ。

     さらに小説の道具立てとして使われるカタツムリにぼくは興味を覚える。主人公が飼っているカタツムリはのなだが、交尾時に互いをヤリで突つき合うというバイオレンスな描写。また、それを観察して楽しむ主人公の姿が終盤でクローズアップされるシーンが印象的なのだ。今ならカタツムリの交尾はYoutubeで容易に観察できる(ぼくは確認しました)だろうが、この当時、あまりに専門的だったであろうこの描写を、主人公夫婦のメタファーとして用いているハイスミスの博学ぶりには驚かされた。映画化作品にもこのメタファーは用いられているのだろうか? 

     さて、パソコン通信時代によく行われたオフライン・ミーティング(いわゆる呑み会のことです)の中で、互いに読まなくなった本などを提供する本プレゼント、略して『本プレ』という習慣があり、そこで、じゃんけんに勝って頂いた2冊のハイスミスが未読のまま、我が家の書棚に並んでいる。古い本だからと手を付けぬまま何十年という時間があっという間に経過してしまったので、近いうちに改めて手に取ろうと思う。失礼ながらこの本をご提供下さった方が誰だったかも覚えていないが、失礼ながら改めて感謝いたします。

     またこの度、ハイスミスの読書機会を下さった札幌読書会幹事様ご一同にも深く感謝いたします。

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著者プロフィール

1921-1995年。テキサス州生まれ。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞。

「2022年 『水の墓碑銘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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